東京都健康安全研究センター
牛海綿状脳症(狂牛病)(Bovine Spongiform Encephalopathy : BSE)(第17巻、3号)

牛海綿状脳症(狂牛病)(Bovine Spongiform Encephalopathy : BSE)(第17巻、3号)

 

1996年3月

 

 


 最近、マスコミを賑せている牛海綿状脳症(BSE)がヒトのクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)の発症に関連しているとされ、大きな社会問題として取り上げられている。本報では、BSEを主体にこれまでに得られた、WHOを初めいくつかの情報を基に概説する。

 BSEは、1986年英国で初めて確認された牛の疾病で、脳細胞が変性を起こして海綿状となるとからこの名称で呼ばれている。また、本症は、牛が歩行困難を来したり、奇声を発するなどの神経症状を示して死に至ることから狂牛病とも呼ばれている。BSEは、牛以外の動物には伝播しないと考えられてきたが、1990年に英国で猫が、BSEの牛から作られたペットフ−ドを食べて死亡したこと、また、豚にも実験的に感染することが証明されるなど、牛だけではなく他の動物にも感染牛組織を介して伝播されることが明らかにされている。

 BSEは、羊の海綿状脳症であるスクレイピ−に感染した羊の内臓、くず肉が、たまたま子牛の成長を促進するための濃厚飼料中に混入したことにより、牛の間で広がった病気と考えられている。現在までにBSE
にかかった牛の数は全世界で16万頭に達しており、その98%以上が英国で発生している。他にスイス、アイルランド、ポルトガル、フランス、ドイツなどでも報告が見られるが、これらの発症牛の多くは英国から輸入した牛であった。

 BSEの病原体は、プリオン蛋白と呼ばれる核酸をもたない感染性蛋白粒子で、1982年カリフォルニア大学のスタン・プルシナ−がスクレイピ−に感染した羊の脳に存在する蛋白に名付けたのが始まりである。プリオン蛋白は細胞の遺伝子が作る蛋白で、形態は直径10-20nm、長さは100
〜200nmの棒状体をしており、正常なヒトや動物の細胞に存在する。この正常型プリオンは感染性をもたないが、感染性のある異常型プリオン蛋白が作用すると正常型を異常型に変えてしまい、これが神経細胞に増殖・蓄積してスポンジのような空胞変性を起こすと考えられている。したがって、BSEやスクレイピ−などはプリオン病とも呼ばれている。しかし、現在のところ正常型プリオンが異常型に変化するメカニズムは不明である。

 このプリオンは通常の微生物で使用している物理・化学的方法に極めて抵抗性があり、134-136 ℃で、60分のオ−トクレ−ブ処理により感染性を減少させることはできるが、完全に不活化はできないといわれていし、殆どの消毒薬も無効である。

 今回、社会問題としてクロ−ズアップされた大きな要因は、英国において1994年初めから1995年後半の僅か2年弱で、BSEと同様に脳組織が海綿状になるCJDが10症例報告され、しかも、従来のCJDに比較して患者は若年層に見られ、また、脳波が異なるなど新種のCJDとされ、その感染源がBSEに感染した牛の可能性があると発表されたことによる。これを受けて、EU諸国は英国産の牛肉及びその加工品などの全面的輸入禁止を行うなど、国際的に大きな問題にまで発展した。このような状況に対応してWHOは、BSEの蔓延防止とヒトの危険性をできる限り低くすための対策について勧告を出し、わが国も厚生省と農林水産省が関係業者に英国産牛由来物である食肉および医用製剤の輸入の自粛あるいは禁止措置をとった。

 一方、英国政府は向こう4〜5年間に400万頭の牛の処分を決定したことにより、今後BSE の発生は大幅に減少すると考えられるが、その発生防止策には早急に対応する必要がある。しかし、本疾患の発症までの潜伏期間が2年以上と極めて長いこと、疫学的背景に不明な部分が多いこと、感染体であるプリオン蛋白の特性、役割、感染機序が未解明なこと、迅速診断法が確立されていないことなど、問題点が山積している。従って現時点ではWHOの提案に基づいて、BSEの症状を示している動物のいかなる部分もヒトまたは動物の食物連鎖に入れないようにすること、BSEに関する組織的なサ−ベイランス及び強制的な届出制度の確立がプリオン蛋白による感染防止のために必要である。あわせて、BSEのヒトや動物における生前診断法及び食品や医用製品などの汚染状況を的確に把握できる検査法の開発が急がれる。

 

生活科学部 乳肉衛生研究科 飯田 孝

 


 

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