東京都健康安全研究センター
焼肉店を原因とした腸管出血性大腸菌O157による集団食中毒事例について(第17巻、11号)

焼肉店を原因とした腸管出血性大腸菌O157による集団食中毒事例について(第17巻、11号)

 

1996年11月

 


 

 平成8年5月下旬以降、岡山県邑久町を発端にして始まった腸管出血性大腸菌O157(以下O157と略す)による食中毒は、その猛威と多くの混乱により大きな社会間題となった。そして、平成8年8月6日に腸管出血性大腸菌感染症は指定伝染病に指定されたが、その猛威も秋が深まるに伴い次第に治まっていった。東京都内で検出された腸管出血性大腸菌については、保健所から衛生局結核感染症課や食品保健課への届け出と共に、関係衛生部や保健所等の連携の下で精力的な疫学調査がなされている。一方、検出された菌株は、当研究所微生物部細菌第一研究科食中毒研究室に送付して頂いている。なお、平成8年11月30日までに都衛生局に届け出られた都内での発生状況は、表に示した通りである。

 この様な体制の下で9月下旬〜10月上句にかけて異なる地域で発生した3例の散発事例は、ある焼肉店を共通の原因施設とした集団食中毒であることが追求できた画期的な事例であった。本号ではその概要を紹介する。

 事例1(都内F市の病院を受診した事例):4才の男児が9月28日に腹痛、下痢(7〜8回)、血便を呈し、29日に受診、10月2日にO157を検出、4日に毒素産生性が確認された。患者は、9月22日に家族(父、母、姉)とG焼肉店を利用していたが、本人以外の家族は全員非発症であった。

 事例2(都内M区の病院を受診した事例):25才の会社員(男)で9月27日に腹痛、下痢を呈して受診した。29日には血便を呈し、10月1日に入院、10月3日にO157が検出され、10月7日に毒素産生性が確認された。患者は、9月23目に会社の同僚2名と前述のG焼肉店を利用していたが、同僚は非発症であった。

 事例3(都内工市の病院を受診した事例):8才の小学校2年生(男)が10月3日に発症、4日に入院、8日にO157が検出され、9日に毒素産生性が確認された。患者は、9月29日に家族(父、母、兄、妹)と上述のG焼肉店を利用しており、両親は非発症であったが、兄と妹が発症していることが判明した。事例1および事例2の患者各1名、事例3の患者3名、計5名から分離されたO157は、いずれもVT1とVT2の両毒素を産生し典型的な腸管出血性大腸菌であった。以上のように疫学調査成績および細菌検査結果が10月9日までに明らかとなった。そこで、急遽これらのO157菌株について遣伝子解折を行なった結果、パルスフィールド電気泳動法によるDNAパターンはXba Ⅰの5型で一致した。また、参考品として検査した食品58検体、拭き取り103検体の内、焼肉店から収去した食材である「ハツ」および「ロース」の2検体からも同じタイプ(VT1とVT2の両毒素産生)のO157が検出され、DNAパターンも患者由来株と同様、Xba Ⅰの5型であった。これらの成績より、この3グループの事例は、G焼肉店を原因施設とする集団食中毒であると断定され、G焼肉店は営業禁止の処分を受けた。通常、散発事例の原因を追求する事は非常に困難であり、その多くは感染源不明である。しかし、本事例では、各々異なる地域でほぼ同時期に確認された3例の散発事例が、実は共通の施設を原因とする集団食中毒であることが解明できた。平成8年夏季に多発したO157による食中毒でその原因食品が判明したものは、「おかかサラダ」、「かぼちやサラダ」、「ポテトサラダ」、「牛レバー」など限られたものであった。その一方で、本菌を最も高率に保菌している動物は、欧米同様わが国においても「ウシ」であることが明らかにされてきている。今回の事件の原因は、ウシ→肉・臓器→(食品→)ヒトへの関係を直接的に示すものであった。機能的な体制に基づく綿密な疫学調査と細菌検査、そして関係者の努力によってこのように原因を特定できたことは、その予防対策を講じる上で最も重要なことであり、昨年夏の惨事を再び繰り返さないためにも、その認識を新たにしたい。

微生物部 紬菌第一研究科 甲斐明美

 

  東京都における腸管出血性大腸菌感染症の届け出状況:平成8年
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                   届け出数(人)
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         届出期間     O157   O157以外
                ───── ──────
                集団 散発  集団 散発
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             6月1日〜 8月 5日    7    46      -     -
             8月6日〜11月30日    5    56      -    10*
  ──────────────────────────────
         計       12   102      -    10
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            *O111; 5件,O26; 3件, O1; 1件, O128; 1件

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