東京都健康安全研究センター
自家製野菜ス−プが原因と推定された乳児ボツリヌス症(第18巻、3号)

自家製野菜ス−プが原因と推定された乳児ボツリヌス症(第18巻、3号)

 

1997年3月

 


 

 乳児ボツリヌス症は生後2週間から1歳未満の乳児に発生し、1歳以上の年齢層では発生しない特徴がある。食品中で産生された毒素の摂取により発症する食餌性(毒素型)ボツリヌス中毒と異なり、経口的に摂取されたボツリヌス菌芽胞が乳児の腸管内で発芽増殖して産生されるボツリヌス毒素で発症する。頑固な便秘、哺乳力の低下、泣き声の脆弱等の初発症状に続き、筋力の低下、呼吸困難等の症状が現れるが、致命率は食餌性の中毒と異なり3%以下と低い。

 乳児ボツリヌス症は1976年アメリカで最初の報告がなされ、現在までにアメリカを中心に1000例以上の報告がみられる。原因となる毒素型はA型が大部分で、他にB型、F型等がみられる。ボツリヌス菌の感染経路は蜂蜜、コ−ンシロップ等であることが推定されている。我が国における乳児ボツリヌス症は、1986年から少なくとも16例の報告がみられる。表に示したように1986年〜’87年に発生した11症例においては、1例を除いて蜂蜜が原因と考えられた。この様に、我が国においても乳児ボツリヌス症の原因食品として蜂蜜が関与することが明らかになったことから、1987年10月厚生省は1歳未満の乳児には蜂蜜を与えないように通知を出した。その後蜂蜜による感染事例はほとんどみられなくなったが、蜂蜜摂取歴がなく、感染源が不明な事例が4例報告されている。昨年東京都で発生した乳児ボツリヌス症は、疫学的に自家製野菜ス−プが原因食品として推定された症例であった。

 患者は3ヶ月の女児で、1996年3月下旬より便秘、哺乳力や筋力の低下を主訴として日赤医療センタ−を受診、4月15日(15病日)入院した。16病日のふん便と血清からA型ボツリヌス毒素が検出され、乳児ボツリヌス症と診断された。哺乳力の低下に対する経管療法と乳酸菌製剤の経口投与による整腸療法等により、96病日頚部保持力および経口摂取力が良化したため退院した。

 16、30、51、92病日のふん便よりA型ボツリヌス毒素とA型ボツリヌス菌が検出された。ふん便中の毒素量LD50(マウスの50%致死量)は、16病日では9600(希釈倍数)と最も高く、30病日で9200、51病日で750、92病日で15と病日とともに減少した。16病日の血清からA型ボツリヌス毒素が検出されたが、30病日の血清では毒素は陰性であった。退院後の164病日でもふん便からA型ボツリヌス菌と微量の毒素が証明されたことから、ボツリヌス菌は長期にわたり腸管に定着していると考えられた。
 感染源を追求する目的で、患者が摂取した自家製野菜スープ等の食品3件や井戸水、自宅(青果店)に保管されていた種々の野菜や果物11件について菌検索を行ったが陰性であった。入院直後の青果店舗と居室の塵埃を検査したところ、青果店舗の野菜屑等の塵埃からA型ボツリヌス菌が検出された。更に1ヶ月後の店舗の塵埃からも、A型ボツリヌス菌が検出された。
 検出されたA型ボツリヌス菌についてパルスフィ−ルド電気泳動による解析を行った結果、すべての菌株は同じ泳動パタ−ンを示し、患者由来株と青果店舗塵埃由来株は同じ菌であることが示唆された。以上の成績より、本症例はA型ボツリヌス菌芽胞で汚染されていた野菜を用いた自家製ス−プが原因食品であると推定された。

 毎年、真空包装食品などについてボツリヌス菌検索を実施しているが、ボツリヌス菌が検出される例は稀である。しかし、近年、輸入食品が激増しており、ボツリヌス菌汚染の可能性は否定できないので、継続した調査が必要である。なお、乳児ボツリヌス症の確定診断には、菌培養と毒素の検出が重要であることを付記する。

微生物部 細菌第一研究科 門間千枝

      我が国における乳児ボツリヌス症の発生状況
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 症例 場所   発症 年齢 性別 型 ふん便検査  血清中     蜂 蜜
                                  ──────    ───────
           年月 (日齢)       毒素 菌検出  毒素    摂取歴 菌検出
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  1   千葉   1986.7   83  M A   +    +     −       +     +
 2   京都   1987.7   40  F  A   +    +     +       +     −
 3   大阪   1987.7   48  F  A   +    +     ?       +     −
  4   石川   1987.7   62  F  A   +    +     +       +     +
  5   大阪   1987.8   38  M  A   +    +     −       +     +
  6   京都   1987.8   93  M  ?   ?    ?     ?       +     −
  7   愛媛   1987.9  146  M  ?   ?    ?     ?       +     −
  8   神奈川 1987.10 132  M  A   +    +     −       +     −
  9   愛媛   1987.10 135  M  A   +    +     −       +     +
 10   岐阜   1987.10  99  M  A   +    +     ?       +     +
 11   岡山   1987.    ?  ?  ?   ?    ?     ?       ?     ?
 12   神奈川 1989.2  147  M  A  +    +     +       +     +
 13*  北海道 1990.2  171  F  C   +    +     ?       −     ・
 14   大阪   1992.9   66  F  A   +    +    −       −     ・
 15   石川   1995?   180?  F  B   +    +     ?       −     ・
 16*  東京   1996.4   91  F  A   +    +     +       −     ・
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  * :野菜ス−プが原因食品として疑われた症例

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