東京都健康安全研究センター
ボツリヌス食中毒について(第18巻、6号)

ボツリヌス食中毒について(第18巻、6号)

 

1997年6月

 


 

 ボツリヌス症はボツリヌス菌の産生する毒素によって発症するもので、その発症要因によって下表に示す3つに分類されている。いわゆるボツリヌス食中毒は食餌性ボツリヌス症にあたり、食品内で産生された毒素を摂食する事によって発症する典型的な毒素型食中毒である。欧米では手作りのソーセージや瓶詰、缶詰などが原因食品となっているが、日本ではもっぱら「いずし」を原因食品として、東北・北海道地方において毎年数例発生してる。

 ボツリヌス菌は土壌や海、湖、川などの泥に分布する、耐熱性の芽胞を形成する嫌気性菌である。産生する毒素は運動神経を麻痺させる神経毒で、免疫学的にA型〜G型に分類されており、ヒトに毒性があるのはA,B,E,F型の4種類である。 ボツリヌス毒素は熱に弱く、80℃30分、あるいは100℃10分の加熱で不活化される。 本毒素のヒトにおける致死量は数ng(ナノグラム)といわれており、本食中毒の致死率は約20〜30%である。しかし、我が国では昭和61年から今年6月までに16事例33名の患者発生をみているが、死亡例は0名を記録している。ボツリヌス食中毒の症状は、複視などの視力障害や発声困難、嚥下困難などの神経障害からはじまり、呼吸麻痺から死の転帰をとる。ボツリヌス中毒患者の確定診断には患者血清中の毒素や糞便中の菌検査が必要だが、特に、発症初期の血清中には毒素量も多く、早期診断の重要な検査材料となる。治療には呼吸の確保などの対症療法と抗毒素血清による特異的治療がとられますが、病日が経過すると抗血清治療の効果が著しく低下するため、早期の診断・治療が必要である。

 6月19日付の新聞で「オイスターソースからボツリヌスA型菌が検出された」ことが報じられた。このオイスターソースの摂食によるボツリヌス食中毒の発生はないものと考えられる。なぜなら、ボツリヌス食中毒は食品の中で毒素が作られなけれは起こらず、たとえボツリヌス菌や芽胞を摂食しても、健康なヒトの腸管内で増殖し毒素を産生することはないからである。ボツリヌス菌が食品中で増殖して毒素を産生するには、嫌気的で pH4.5以上、水分活性が0.94以上という条件が必要とされている。今回のオイスターソースは、水分活性が0.86と低く、菌が増殖して毒素が産生されることはないからである。しかしながら、乳児ボツリヌス症の原因となる可能性はある。1歳未満の乳児に発生する乳児ボツリヌス症は、まだ腸内細菌叢が確立されていない腸管内でボツリヌス菌が増殖することによって発症する。我が国においても1986年以降16例の報告がみられ、昨年東京都内で自家製の「野菜スープ」が原因食品として疑われる症例が発生している。乳児ボツリヌス症の主な原因食品は蜂蜜であり、厚生省から1987年に1歳未満の乳児に蜂蜜を与えないよう勧告が出されている。乳児ボツリヌス症では致命率は低く、呼吸の確保、栄養補給などの対症療法によって治癒し、後遺症などもなく予後は良好である。また、我が国では本症の死亡例はこれまで報告されていない。

 創傷性ボツリヌス症は特殊な症例で、カナダで林業従事者が過ってチェーンソウで怪我をし、その傷口に感染した事例などが報告されている。我が国での発生報告はこれまでみられていない。

ボツリヌス症の分類

 

分 類 発症要因 罹患年齢 原因食品
食餌性
ボツリヌス症
食品内で産生された
毒素を摂食する事に
よって発症
全年齢層
(主に成人)
野菜ビン詰め(自家製)
肉製品(ソーセージ等)
魚加工品(いずし等)
乳児
ボツリヌス症
摂食された芽胞が
腸管内で発芽・増殖
する時に産生される
毒素によって発症
3週齢〜
8ヶ月齢
蜂蜜
コーンシロップ
野菜スープ
創傷性
ボツリヌス症
傷口に進入した芽胞が
組織内で発芽・増殖す
る時に産生される毒素
によって発症
全年齢層
(主に成人)
 

微生物部部 細菌第一研究科 柳川義勢

 


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