東京都健康安全研究センター
新しく食中毒原因物質に指定された小型球形ウイルスについて(第18巻、10号)

新しく食中毒原因物質に指定された小型球形ウイルスについて(第18巻、10号)

1997年10月

 

 


 

 厚生省は平成9年5月31日付けで食品衛生法の一部改正を行い、食中毒原因物質として新たに小型球形ウイルスとその他のウイルスを追加した。小型球形ウイルス(Small Round Structured Virus:以下SRSVとする)は電子顕微鏡像での形態が類似する直径27〜38nmの球形ウイルスの総称で、米国オハイオ州で起きた非細菌性集団胃腸炎の患者糞便より1972年に発見されたNorwalk(ノーウォーク)ウイルスがその原型である。その後、世界各地で形態学的に類似のSnow Mountain(スノーマウンテン)因子、Hawaii(ハワイ)因子、Taunton(タウントン)因子等のウイルスが発見されている。SRSVは組織培養細胞や実験動物を使用して増殖させることが困難であったが、近年、遺伝子学的な解明が進みSRSVは直線状の(+)センスの一本鎖RNAをもつウイルスでカリシウイルス科に属することが明らかになった。我が国では遺伝子型G-1(ノーウォークウイルス群)、G-2(スノーマウンテンウイルス群)に属するウイルスが多く検出されている。

 SRSVによる胃腸炎患者の症状は、通常ウイルス摂取後、潜伏時間24〜48時間で嘔気、嘔吐、下痢、38℃以下の発熱等の症状が現れる。症状の持続期間は3日程度で、予後は良好である。SRSVの免疫獲得に関しては、米国で行われたボランティアによる実験結果がある。それによるとSRSVに対して非感受性者と感受性者が存在し、感受性者はウイルスに初回感染後、抗体が産生され数ヶ月の間はウイルスの再感染による発症を阻止するが、6ヶ月後には急激に免疫効果が減少することが明らかになっている。SRSVによる集団胃腸炎事件は11月から3月にかけての冬季に多く発生し、その原因としてはカキなどの貝類を喫食したことによるものと推定される場合が多い。

 厚生省はSRSVを食中毒の原因物質に指定するに先立ち各都道府県あてに非細菌性食中毒についてはウイルス検査を行うように依頼した。それによると平成9年1月1日から平成9年5月31日までの6ヶ月間に全国で149件の事件が確認され、患者数は4089名に上った。糞便について電子顕微鏡またはRT−PCR法(reverse transcription-PCR法:逆転写酵素によりRNAからcDNAを合成した後PCRを行う方法)でウイルスの検査を行った結果では、検査を実施した135事件中108事件(80%)からSRSVが検出された。このことにより従来原因不明とされていた食中毒の多くはSRSVによるものと推察される。食中毒の原因と考えられた食品についてもRT−PCR法で検査が実施されているが38事件中2事件(5.3%)からSRSVが検出されたにすぎなかった。今後は、SRSVが食中毒原因物質に指定されたことにより、全国レベルでのSRSV食中毒の実体か明らかになるものと期待される。

 なお、頻度は低いもののSRSVの他に食中毒を起こすウイルスとしてはアストロウイルス、A群、B群、C群ロタウイルス、アデノウイルス(血清型40,41)がある。これらのウイルスに感染するとSRSV同様に嘔気、嘔吐、下痢、発熱等の胃腸炎症状が起こる。ウイルス検査を行う場合はこれらウイルスについても考慮する必要がある。

ウイルスが原因と疑われる食品由来の健康被害発生に関する調査結果

平成9年1月1日〜平成9年5月31日:厚生省)

 

総事件数
総患者数
149件
4089人
糞便からのSRSV検査実施事件数
陽性事件数
検出率
135件
108件
80%
食品からのSRSV検査実施事件数
陽性事件数
検出率
38件
2件
5.3%

微生物部 ウイルス研究科 門間 公夫

 


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