東京都健康安全研究センター
平成8年の食中毒発生状況について(第18巻、11号)

平成8年の食中毒発生状況について(第18巻、11号)

 

1997年11月

 


 

 平成8年には,腸管出血性大腸菌O157(以下O157と略)による食中毒が全国で異常に多発し大きな社会問題に発展した。そして本菌食中毒では二次感染も認められる等のことから,それまで食中毒として扱われてきたが平成8年8月6日に指定伝染病に指定された。しかし,その感染形態の大部分は食品媒介のものであり,食中毒としての側面も強い等の理由から,行政的には食品保健課と結核感染症課の両者でその対応がなされている。本号では厚生省生活衛生局食品保健課並びに東京都衛生局生活環境部食品保健課でまとめられた平成8年の食中毒統計資料に基づき,全国及び東京都における食中毒事件の発生状況についてその概要を紹介したい。

 平成8年に全国で発生した食中毒事件の総数は1,217件,患者数は43,935名であった。O157による食中毒の異常な多発に原因して,平成8年の事件数は,前年(699件)の1.74倍,過去10年間は1,000件以下で経過していたのに反して異常な多さであった。また,患者数も平成7年(26,325名)の1.67倍で過去10年間で最高,細菌性食中毒の患者数では食中毒統計に記載のある昭和27年以来最高の数である。

 事件数を原因物質別にみると,細菌性食中毒は全体の79.6%を占め,第1位は平成元年以来急増したサルモネラで350件(28.8%)で,前年(179件)の1.96倍,昭和27年以来最高の事件数である。更にその患者数は16,334名(37.2%)であった。第2位は,腸炎ビブリオの292件(24.0%)で,事件数の多かった前年(245件)を更に凌いでいる。第3位は病原大腸菌で,事件数179件(14.7%),患者数12,094名(27.5%)で,O157に原因して異常な多さとなった。以下細菌性食中毒の事件数は,カンピロバクタ−65件(5.3%),黄色ブドウ球菌44件(3.6%),ウエルシュ菌27件(2.2%),セレウス菌5件(0.4%),ナグビブリオ3件(0.2%),ボツリヌス菌1件(0.1%)の順である。細菌性食中毒の死亡者は11名で,O157によるものが8名,サルモネラが3名であった。

 動物性自然毒による食中毒は27件(2.2%),患者数47名(0.1%)で,ふぐによる食中毒が異常に多かった前年の35件に比べ減少している。植物性自然毒は46件(3.8%)であった。 死亡例は,動物性自然毒(フグ)で3名,植物性自然毒(きのこ)で1名であった。

 一方,東京都における食中毒の発生状況は,事件数が110件(患者数1,597名)で平成7年の80件(患者数2,444名)と比べて事件数は1.38倍に増えているが,患者数では前年の0.72倍である。これは,前年に比較して大規模な食中毒の発生が少なかったことと,患者数1名の事件が多く含まれているためである。細菌性食中毒事件数は71件で,第1位は腸炎ビブリオの31件(患者数349名),第2位はサルモネラで23件(患者数250名),以下,カンピロバクター6件,黄色ブドウ球菌4件,病原大腸菌4件,セレウス菌2件,ナグビブリオ1件の順である。前年3件認められたウエルシュ菌は認められなかった。また,サルモネラの患者数は平成7年には1,014名であったのに対して平成8年は250名で非常に少なかった。これは大規模な事件が発生しなかったことによる。O157による食中毒事件は2件あり,各々の患者数は191名と5名であった(内1件については,第17巻第11号に掲載)。ナグビブリオによる事件が1件計上されているが,その患者数は1名であり,本事件については不明確な部分も多い。

 動物性自然毒による食中毒は,2件(患者数4名),いずれも家庭でふぐによって発生したものであり,植物性自然毒食中毒は1件(家庭で発生したハシリドコロによる食中毒)であった。化学物質によるものは確認されなかった。

 一方,平成8年には原因物質不明の事例が36件(患者数626名)あり,前年の11件(患者数221名)の3倍の多さであった。内10件は小型球形ウイルスによるもので前年(9件)とほぼ同数であった。しかし,平成8年には原因物質不明で患者数1名の事件が13件あり,前年にはこの種の事件はなかったことから,この現象もO157食中毒の多発により例年には見られない届け出が数多くあったことを裏付けるものである。

 患者数100名以上の大規模集団事件は平成7年は9件と非常に多かったが,平成8年は2件(O157による事件と小型球形ウイルスによる事件)であった。また,サルモネラによる食中毒23件の内,血清型Enteritidisによるものが18件で,平成元年以来多発しているEnteritidisによる食中毒が依然として非常に重要な問題であることを強く示唆するものである。

                          平 成 8 年 の 食 中 毒 発 生 状 況
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   原因物質           全   国                          東  京  都
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           事件数(%)    患者数(%) 死者数     事件数(%)   患者数(%)  死者数
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 腸炎ビブリオ        292(24.0)    5,241(11.9)    -        31(28.2)     349(21.9)    -
 サルモネラ          350(28.8)   16,334(37.2)    3        23(20.9)     250(15.7)    1
 黄色ブドウ球菌       44( 3.6)      698( 1.6)    -         4( 3.6)      25( 1.6)    -
 カンピロバクタ−     65( 5.3)    1,557( 3.5)    -         6( 5.5)      69( 4.3)    -
 病原大腸菌          179(14.7)   12,094(27.5)    8         4( 3.6)     256(16.0)    -
 ウエルシュ菌         27( 2.2)    2,144( 4.9)    -         -             -          -
 セレウス菌            5( 0.4)      274( 0.6)    -         2( 1.8)      11( 0.7)    -
 ナグビブリオ          3( 0.2)       36( 0.1)    -         1( 0.9)       1( 0.1)    -
  ボツリヌス菌          1( 0.1)        1( 0.0)    -         -             -          -
 その他の細菌          3( 0.2)       10( 0.0)    -         -             -          -
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 細菌性総数          969(79.6)   38,389(87.4)   11        71(64.5)     961(60.2)    1
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  動物性自然毒         27( 2.2)       47( 0.1)    3         2( 1.8)       4( 0.3)    -
 植物性自然毒         46( 3.8)      181( 0.4)    1         1( 0.9)       6( 0.4)    -
 化学物質              4( 0.3)       47( 0.1)    -         -             -
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 原因物質不明        171(14.1)    5,271(12.0)    -        36(32.7)*    626(39.2)    -
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  合  計      1,217(100.0)  43,935(100.0)  15       110(100.0)  1,597(100.0)   1
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  *  内,10件は小型球形ウイルスによる事件

微生物部 細菌第一研究科 甲斐明美

 


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