東京都健康安全研究センター
飲料水または生食用野菜・果実から感染する人畜共通の寄生原虫(第19巻、3号)

飲料水または生食用野菜・果実から感染する人畜共通の寄生原虫(第19巻、3号)

 

1998年3月

 


 1996年6月埼玉県越生町で水道水を介して、約8,800名のクリプトスポリジウムによる集団下痢症が発生し、本症については、すでに概要を報じた。平成9年8月に厚生省は、国民の健康危機管理調整会議を組織して、「クリプトスポリジウム等原虫類総合対策」を決定し、関係省庁連絡会により連携して対策を推進することとなった。

 今回は、1996〜1997年にかけて、米国とカナダの広範囲な地域で発生した約1,500例に及ぶサイクロスポーラ集団下痢症、1981年以来15例ほど報告されているヒトからヒトにのみ感染するイソスポーラ症例、1980年以降、海外旅行が急増したこともあって厚生省への届け出数も急増した赤痢アメーバ Entamoeba hystolytica などの新興・再興の原虫症について概説すると共に赤痢アメーバに関するWHOの勧告についても紹介したい。

 1.サイクロスポーラ症は、1996年に都立駒込病院で見出された症例が我が国で初めての症例である。その後東京で2例、大阪で1例が新たに確認されているが、いずれも東南アジア等からの帰国者の下痢便からの検出例である。

 感染源は明らかでないが、ネパールで11%、ペルーの子供の6〜18%、欧米では検便による検出率は0.1〜0.5%といわれている。本原虫が胞子虫綱に属することが分かり、正式に命名されたのは1994年のことである。多くの症例はアジア・アフリカ地域への旅行者であるが、米国・カナダで1996〜7年に集団発生したケースでは旅行とは無関係で、約半数がグアテマラ産のラズベリーの摂食に関係していた。しかし、1997年の発生では、一般の野菜サラダからの感染もあり、必ずしも原因食は特定されていない。しかしながら、これらの食品および患者糞便からサイクロスポーラ Cyclospora cayetanensis が高率に検出されており、CDC、FDAおよび米国農務省をあげて本症の対策に乗り出している。本原虫のオーシストは直径10μmの球形で、患者便からのものは未成熟桑実期様の顆粒を満たし感染性はない。外界で2週間の発育期間を経て内部に2個のスポロシストが形成され感染型に成熟する。モグラや野生動物からも見出され、相互感染について検討されている。

 2.イソスポーラ症は、第1次世界大戦中に流行した再興感染症である。患者の便による飲料水・食品汚染が主な感染経路と考えられている。健常者は一過性に自然治癒するが、AIDSやATL等細胞性免疫不全の患者では間欠的な下痢が数年間も持続することがある。ST合剤が有効である。 Isospora belli のオーシストは楕円形で平均14×18μm肝吸虫位の大きさで内部は顆粒状の未成熟型のものが外界で2〜3日すると2個のスポロシストを有する成熟型となる。

 3.ジアルジア症 1945年代以後も水道管と下水道管の誤接続による水系感染が度々起こったが、現在ではもっぱら発展途上国での汚染された水、氷及び食品の喫食による感染が多い。1996年の調査で都市型下水処理場9カ所の流入生下水の全例から Gialdia lamblia が検出されており、いかに健康保菌(虫)者が多いかを物語っている。

 4.赤痢アメーバ症 ジアルジア症と並んで海外からの輸入感染症に位置付けられているが、国内発生例も多くホモセクシャル間に多発していることからSTDとしての認識が固まってきた。

 WHO の勧告では、組織侵入性又は赤血球捕食性のあるものだけを Entamoeba histolytica と呼ぶこととし、非病原性のものは Entamoeba disper として治療を行わないことにしている。

 来年4月に施行される新法において赤痢アメーバは4類として扱われるが、近年大腸アメーバ症の約半数がアメーバ性肝膿瘍に移行するなど重症化傾向にあることから、今後も継続して注意を払うべき感染症といえよう。さらに、1991年香川県の養豚場で豚の赤痢アメーバ症の集団発生が報告されており、食品衛生法・と畜場法上の問題点として本症に対する関心も高まっている。

微生物部 細菌第二研究科 村田以和夫

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