東京都健康安全研究センター
我が国におけるQ熱リケッチア症の現状

我が国におけるQ熱リケッチア症の現状(第20巻、2号)

 

1999年2月

 


 Q熱は平成11年度より施行される『感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律』の4類感染症に規定される疾病で、感染症発生動向調査の全数把握の対象となる人獣共通感染症である。Q熱のQは1935年にオ−ストラリアのクイーンズランド州のと畜場従業員の間に集団発生した原因不明の病気Query(謎という意味)Feverに由来している。病原体は、リケッチアに分類される、大きさが0.2 〜0.4 ×0.4 〜1.2μm の小桿菌状の Coxiella burnetii である。本菌は人工培地で発育できず、生きた動物細胞の中でのみ増殖する。外界での抵抗力はきわめて強く、他のリケッチアと異なり、節足動物等の介在がなくても直接感染が成立するため、しばしば集団発生もみられる(表)。

 自然界においてはウシ、ヤギ、ヒツジ、ネコなどの動物体内に不顕性感染の形で存在していると考えられ、ヒトへの感染は菌に汚染された塵埃等の吸入による気道感染によるものが多いとされている。

 本菌に感染すると、急性症例の場合には2〜4週の潜伏期の後、急激な発熱、頭痛、全身の倦怠感、発疹、リンパ節腫張、肺炎、肝機能障害、心内膜炎などを起こす。従って、不明熱、非流行期のインフルエンザ様疾患、ウイルス検査陰性の肝炎、細菌検査陰性の心内膜炎などはQ熱の可能性を検討すべきケースとなり、特に動物との接触がある場合にはさらにその可能性が高まると考えてよい。一方、慢性症例の場合には、心内膜炎、慢性肝炎、骨髄炎などを起こす。急性Q熱から慢性Q熱に移行する頻度は5%とされる。

 臨床的にQ熱を他の感染症と区別することは困難であり、間接蛍光抗体法等による急性期・回復期中の血中抗体測定、PCR法による検体からの C.burnetii DNA(Com1遺伝子、htpB遺伝子)の検出により診断が行われる。 C.burnetii の分離は、実験室感染の危険性が高いため、バイオハザード対策施設(バイオセーフティレベル3)で行う必要がある。

 Q熱の治療法は、他のリケッチア症同様に、テトラサイクリン系抗生物質、エリスロマイシン、リンコマイシン、ニューキノロン剤、クロラムフェニコール等が有効である。

 我が国においては、1950年代に行われた全国規模の調査で人および家畜に抗体が確認されたのが最初の調査である。しかしながら、病原体を分離するには至らず、その後の調査研究は途絶えていたが、1987年にカナダでヒツジの胎仔を使った実験に従事していた医学留学生が、帰国後発熱し、 C.burnetii が分離されたのを機に、国内での調査が再度活発となってきている。

 現在までに、不明熱疾患、インフルエンザ様疾患、異型肺炎患者等よりPCR法による C.burnetii DNA検出例が報告されており、また、これらの疾患から C.burnetii 分離例も報告されている。抗体保有調査では、一般健康者で3〜17%であるが、小動物臨床獣医師では37%と高い。一方、動物の調査では、ウシでは16〜47%、ヒツジでは28%、イヌでは10〜17%、飼育ネコでは7〜19%、野良ネコでは69%が抗体を保有しているとの報告がある。

 現在のQ熱検査の問題点として、国内外での抗体陽性基準の統一化が図られていないことが挙げられる。国内で検査を実施できる機関が限られており、加えて、各施設独自の診断基準により検査を行っているため、抗体保有の判断がまちまちで疫学的に不明確な部分が多い。また、日本のQ熱株は海外株と若干異なるのではないかという問題点も未解決である。

 我が国における感染症新法による感染症発生動向調査実施のためにも、以上の認識に基づいた検査法の確立・整備が急務である。

 

世界におけるQ熱集団発生例
発症者数 感染疫学
英国(南西部)
  (南東部)
1990
1995
87
15
ヤギ飼育の中学生
と畜場従業員
ドイツ(ベルリン)
   (デュッセルドルフ)
   (ロールシャウセン)
1992
1994
1996
80
18
49
動物病院(ヒツジ)のスタッフ
ヒツジ流産農場からの風伝播
      〃
米国(メイン州)
  (南カロライナ)
1991
1992
14
8
飼育ネコから市民へ
動物病院(ヒツジ)のスタッフ
中国(北京) 1992 48 と畜場従業員
オーストラリア
ニューサウスウエルズ州
1997
1998
26
24
と畜場従業員
   〃

 

微生物部 ウイルス研究科 貞升健志

 


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