東京都健康安全研究センター
コレラの発生状況(1998年)

コレラの発生状況(1998年)(第20巻、9号)

 

1999年9月

 


 1998年(1−12月)に厚生省に届けられた我が国におけるコレラの発生件数及び患者数は、67件73名(真性患者56名、保菌者2名及び疑似患者15名)で、発生件数、患者数とも前年に比してかなり減少した(表1)。これらのうち、海外旅行者による輸入事例は61件66名(真性患者53名、疑似患者13名)で、その旅行先はイタリア・トルコ1名とペルー1名を除き、他はアジア地域となっている。主要推定感染国(一か国に絞られたもの)は、タイが最も多く19名、次いでインド13名、インドネシア10名、フィリピン10名であった。なお、タイ旅行者からは1〜3月にのみ検出されている。一方、海外旅行歴のない国内発生例は6件7名(真性患者3名、保菌者2名、疑似患者2名)であった。このうち1件(2名)は、タイ旅行者の家族から保菌者として検出されたものであった。本年の真性患者と保菌者からの分離コレラ菌は、いずれもエルトール小川型であった。 次に、WHOの報告に基づき世界のコレラ発生状況を紹介する(WHO Weekly Epidemiological Record,74(31),1999) 。世界全体としては、1961年にインドネシアに始まったエルトールコレラ菌によるコレラの発生が依然続いており、表2に示したようにWHOに報告された1998年の患者数は1997年(147,425名) の約2倍に当たる293,121 名で、死者数は10,586名であった。発生を報告した国(地域)は、前年より9か国多い74か国であった。なお世界全体の致死率は1997年の4.3 %から1998年は3.6 %と僅かに減少した。

 アフリカ大陸では報告数が最も多く、全体の72%(211,748名)を占めていた。発生を報告した国は29か国(うち8か国はここ1〜数年発生報告がなかった国)であった。1997年末から突発した東部地域の流行が1998年も引き続いており、他地域にも影響を及ぼすと同時に、西アフリカでも顕著な再燃がみられた。大規模な流行があった国は、コンゴ民主共和国、ケニヤ、モザンビーク、ウガンダ及びタンザニアで、各国の報告患者数は14,488〜49,514名に達した。

 1991年南米のペルーに上陸、近隣諸国へ拡大したアメリカ大陸のコレラは、その後1997年まで減少に転じてきたが、1998年には再び増加、患者数は1997年の17,760名から1998年は57,106名にまで増加した。特に増加が顕著であった国はペル−(41,717 名)、エクアドル、グァテマラ、ニカラグアで、これはエルニーニョ現象及びハリケーン(中央アメリカ)による自然現象が影響したものである。

 アジアにおける1998年の報告患者数は、1997年に比して110%増加の24,212名、特にアフガニスタンとインドでの増加が顕著であった。なお、1992年にインドで突発した新型コレラO139(ベンガルコレラ菌)による発生は、まだアジア地域に限られており(1998年の発生報告は香港のみ)、当初危惧された他地域への伝播の恐れは薄らいできている。

 世界各大陸におけるコレラ患者の増加は、エルニーニョ現象に伴う気象の変化によって、コレラの集団発生に有利な条件が生じたことがその一因と思われる。また、国によっては内戦などによる著しい荒廃のため、インフラやヘルスケア・サービスが10年前のレベルに逆戻りするなど状況が悪化している。こうした状況も世界的なコレラ危機をもたらしているといえる。

 

表1 我が国におけるコレラの発生状況

 

年 次 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998
輸入事例
国内事例
38(13)
64( 1)
68(13)
12( 0)
72(15)
30( 6)
49(18)
3( 0)
99(16)
3( 0)
90(16)
24( 1)
341(36)
31( 5)
49( 9)
13( 1)
65( 8)
36(10)
66(12)
7( 0)
合 計 102(14) 80(13) 102(21) 52(18) 102(16) 114(17) 372(41) 62(10) 101(18) 73(12)

( ):東京都分再掲

 

表2 世界のコレラ発生状況(WHO Weekly Epidemiological Record)

 

年 次 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998
報告国数
罹患者数
36( 2)
53,970
37( 3)
70,084
59(14)
594,694
68( 5)
461,783
78( 3)
376,845
94( 7)
384,403
78( 1)
208,755
71( 1)
143,349
65( 2)
147,425
74( 1)
293,121

( ):初めて罹患者が報告された国数

 

微生物部 細菌第一研究科 松下 秀

 


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