東京都健康安全研究センター
レジオネラに関する最近の話題と設備管理事例

レジオネラに関する最近の話題と設備管理事例(第21巻、3号)

 

2000年3月

 


 「レジオネラに感染、静岡の温泉、1人死亡」「ミネラルウォーターにレジオネラ」これらの新聞タイトルが本菌にかかわる最近の話題である。前者は、静岡県掛川市にある民間の複合レジャー施設内の温泉を利用した9人が本菌に感染し1人が肺炎で死亡した事例であり、後者は、「飲む温泉水」として市販されていたミネラルウォーターから本菌が検出され、製造元がある鹿児島県はもとより厚生省も本件を重要視し、各自治体に対して監視指導の徹底を呼びかけた事例である。

 1979年に新しい病原細菌として命名された本菌は、冷却塔などの環境水中に生息しており、エアロゾルと共に飛散し、それをヒトが吸い込むことによって感染することが、米国や英国の調査でも明らかになっている。

 都においては、衛生行政の一環として1985年以降、各種環境水中のレジオネラ調査を行い、冷却塔水(検出率60%)、給湯水(9%)、雑用水(20%)、温泉水(30%)、循環式浴槽水(83%)などから本菌を検出している。

 しかし、本菌の感染事例は、環境水から高率に検出されているにもかかわらず、諸外国の報告例に比較して少ない。すなわち、欧米では、市中肺炎の2〜8%が本菌によると報告されている(小出、1999年)にもかかわらず、我が国では平成11年の全国集計でも60例ほどしかない。このことは、本菌が日和見感染症を起こす病原体であることも関連していると考えられるが、特有な臨床症状が少なく、菌の検出に特殊な培地を必要とすることから、非肺炎型(ポンティアック熱)の場合には、菌の検出例が少ないこと等からレジオネラ症として集計されていない可能性もある。日和見感染菌であるがゆえに、新生児や高齢者及び入院患者を対象とした疫学調査と当該施設の設備管理の徹底が今後の課題であろう。

 最近の施設管理事例として、1998年5月に目黒区の老人ホームで発生した本菌感染による死亡事例を契機として、衛生局生活環境部が衛研との協力体制で行った特別養護老人ホームの調査結果を表に示した。

 調査対象施設は、東京都の市町村に所在する特別養護老人ホーム131施設で、採取した試料数は225件である。レジオネラ検出率は平均30.2%であった。内訳は、「循環式浴槽水(24時間風呂)」94試料中59試料(62.8%)、「加熱装置はないが循環ろ過装置を装着した風呂」の浴槽水21試料中7試料(33.3%)であり、毎日全換水する「普通の風呂」34試料からはまったく検出されなかった。浴槽水から検出されたレジオネラの菌数は浴槽水100mLあたり103CFUレベルであり、血清群は L.pneumophila の5群が 29株(41.4%)と最も多く、次いで3群24株(34.3%)であった。レジオネラ汚染が確認された浴槽水については、緊急対策として塩素処理で対応した結果、良好な結果が得られた。具体的には、配管を含む浴槽の清掃と塩素処理(遊離塩素濃度で0.1mg/L以上を少なくとも数時間保持する)を行った結果、ほとんどの施設は、1回の処置でレジオネラ不検出となった。1回で不検出にならなかった施設でも繰り返し2〜3回の処置を行うことで不検出となった。

 一方、レジオネラ対策における課題の一つである菌数のガイドラインが、昨年11月に厚生省監修による「新版レジオネラ症防止指針」のなかで示された。

 これまでは、24時間風呂等の検査結果がでても「検査結果報告書に書いてある菌数は危険を意味するのか?」といった質問に明確に応えることができなかったが、指針値が示されたことで行政対応も明確になった。

 ガイドラインの概要は、「人がエアロゾルを直接吸引する可能性が低い人工環境水であっても102 CFU/100mL以上のレジオネラ属菌が検出された場合には、直ちに菌数を減少させるため、清掃、消毒等の対策を講じる。また、対策実施後は、検出菌数が検出限界以下(10 CFU/100mL未満)であることを確認する。」「浴槽水、シャワー水等、人が直接エアロゾルを吸引する恐れのあるものは、レジオネラ属菌数の目標値を10 CFU/100mL未満とする。レジオネラ属菌が検出された場合には、直ちに清掃、消毒等の対策を講じる。また、対策実施後は、検出菌数が検出限界以下(10 CFU/100mL未満)であることを確認する」となっており、以後は、このガイドラインを参考にに管理指導を行うよう、厚生省から全国の自治体に通知された(平成11年11月26日付、生衛発第1679号)。

 レジオネラ症の診断は、患者の臨床材料(喀痰、肺組織、胸水、血液など)から培養によって本菌を検出する方法、市販の検査キットを使用して尿中抗原を検出する方法、血清学的に抗体の上昇を確認する方法、遺伝子診断法などがある。

 

表.特別養護老人ホームで採取した水試料からのレジオネラ検出状況

 

試料水 試料数 検出件数 検出率
(%)
検 出 菌 数(log)
≧1〜 2〜 3〜 4〜
24時間風呂 94 59 62.8 10 15 24 10
その他の風呂
 ろ過あり 
 ろ過なし 
 
21
34
 
7
0
 
33.3
 
 
4
 
 
1
 
 
 
 
 
2
 
給湯水 69 1 1.4     1  
加湿器 5 0          
冷却塔水 1 1       1  
人工池 1 0          
合 計 225 68 30.2 14 16 26 12

 

環境保健部 水質研究科 矢野一好

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