東京都健康安全研究センター
ロタウイルスによる胃腸炎の発生

ロタウイルスによる胃腸炎の発生(第21巻、4号)

 

2000年4月

 


 胃腸炎の原因となるウイルスは、ロタウイルス、小型球形ウイルス(small round structured virus:SRSV)、腸管アデノウイルス40/41型、カリシウイルス、アストロウイルス、等が知られている。これらウイルスによる胃腸炎は、糞口感染が主要ルートであるが、吐物等による飛沫感染も報告されている。A群ロタウイルス、腸管アデノウイルス40/41型は乳幼児で感染性が高く、年長児〜成人では非A群ロタウイルス、SRSVに感受性があるとされている。

 ロタウイルスによる胃腸炎は、生後6ヶ月から2歳までを好発年齢とし、毎年冬に発病のピークがある。人に感染するのは主にA群、B群、C群の3タイプであるが、一般にはA群による胃腸炎の発生が多い。B群は中国では集団発生がみられたが、日本での発生は報告されていない。C群は、発生数は少ないが世界中で報告がされており主に3歳以上の年長児や成人に見られ、A群のような大規模な発生はまれである。

 A群ロタウイルスによる乳幼児の胃腸炎は「乳児嘔吐下痢症」として知られており、主症状は約一週間続く白色〜淡黄色の下痢便で、発病前半は嘔吐を主とする場合が多い。合併症として、腸重積、脱水、その他、痙攣、まれに脳症などがある。

 一度感染すると終生免疫が得られるため、小児期にほとんどの人が免疫を獲得するが、大量のウイルス暴露、あるいは免疫力の低下によって再感染、再罹患もありうる。

 平成12年1月から5月11日現在にかけて、当研究科に感染症発生動向調査定点病院から搬入された検体487件のうち感染性胃腸炎の検体は93件で、糞便検体68件、咽頭ぬぐい液15件、髄液6件、吐物3件、胃液1件であった。

 主に酵素抗体法による糞便中のロタウイルス、アデノウイルス40/41型、及びPCR法によるSRSVの検索を行ったところ、A群ロタウイルス23件、小型球形ウイルス11件、腸管アデノウイルス40/41型1件を検出した。1月〜2月までは、SRSVの検出数が多かったが、3月以降はロタウイルスの検出数がSRSVの検出数を上回った。(表1.)

 同ウイルスによる胃腸炎の集団発生が福岡市、神戸市、千葉市で報告されるなど全国的な流行をみせている。東京都下の小学校でも生徒数452人中患者数132人にのぼる大規模な集団発生があり、当研究科に搬入された検体26件中21件からA群ロタウイルスが検出された。

 今期の流行では重度脱水や意識障害等の重度合併症や、子から親へのロタウイルスの家庭内感染例もみられた。さらに今回特徴的なのは、A群ロタウイルスの好発年齢である乳幼児より上の年齢での発生がみられ、ウイルスの確認された患者23例のうち成人の感染例が4例あり、年齢は20代1件、30代2件、80代1件であった。(表.2)

 同じく平成12年1月から5月15日にかけて、多摩地区感染症発生動向調査定点から衛生研究所多摩支所に搬入されたウイルス性胃腸炎の疑われる検体は66件で、そこから2〜4月にかけてロタウイルスが18件検出されている。(表.3)

 

表1.糞便中から検出されたウイルス件数

  1月 2月 3月 4月 5月 総計
ロタ 1 3 11 4 4 23
アデノ     1     1
SRSV 3 5 3     11
陰 性 13 3 10 6 1 33
合 計 17 11 25 10 5 68

表2.年齢別ウイルス検出件数

  ロ  タ SRSV ア デ ノ
乳児(0〜1歳) 10 0 1
幼児(2〜5歳) 8 0 0
学童(6〜18歳) 1 5 0
成人(20歳〜) 4 6 0

表3.多摩地区感染症発生動向調査で感染性胃腸炎の検体から検出されたウイルス件数

  1月 2月 3月 4月 5月 総計
ロタ   6 5 7   18
アデノ 1         1
SRSV           0
陰 性 11 10 13 9 4 47
合 計 12 16 18 16 4 66

 

微生物部 ウイルス研究科 長谷川 道弥

多摩支所 微生物研究科 伊藤 忠彦

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