東京都健康安全研究センター
平成11年の食中毒発生状況について

平成11年の食中毒発生状況について(第21巻、6号)

 

2000年6月

 


 平成11年には患者総数1,634名のわが国で過去最大の広域食中毒事件が発生した。原因食品は乾燥イカ菓子(全部で21商品)で、サルモネラ血清型OranienburgとChesterが原因菌として検出された。患者発生は平成10年12月〜平成11年5月の約6ヶ月にわたり、地域も山梨県をのぞく全国46都道府県に及んだ。川崎市の子供会の食中毒事件に端を発したこの事件は疫学調査及び遺伝子解析の結果、散発的広域発生(Diffused outbreak)であったことが判明した(詳細は20巻、8号参照)。このような広域発生事件は平成10年に腸管出血性大腸菌O157に汚染されたイクラ醤油漬けでも発生していることから、各地域における食中毒事件の発生情報の交換と疫学解析の重要性が再認識された。

 本号では、この事件を含めた全国及び東京都における食中毒事件の発生状況について、厚生省生活衛生局食品保健課並びに東京都衛生局生活環境部食品保健課でまとめられた食中毒統計資料に基づき、その概要を紹介したい。

 平成11年に全国で発生した食中毒事件の総数は2,697件、患者数は35,214名であり、前年に比べ事件数(前年比0.88倍)、患者数(前年比0.75倍)、共に減少した。

 事件数を原因物質別にみると、細菌性食中毒は全体の87.4%を占め、第1位は平成元年以来急増したサルモネラで825件(30.6%)、患者数11,888名(前年は事件数771件,患者数11,616名)であった。前年第1位であった腸炎ビブリオが第2位で667件(24.7%)、患者数9,396名(前年は事件数850件、患者数12,346名)、第3位はカンピロバクタ−・ジェジュニ/コリで、事件数493件(18.3%)、患者数1,802名であった。以下細菌性食中毒の事件数は、病原大腸菌(腸管出血性大腸菌を除く)237件(8.8%)、黄色ブドウ球菌67件(2.5%)、ウエルシュ菌22件(0.8%)、セレウス菌11件(0.4%)、腸管出血性大腸菌8件(0.3%)、ボツリヌス3件(0.1%)、エルシニア・エンテロコリチカ2件(0.1%)、ナグビブリオ2件(0.1%)の順であった。細菌性食中毒による死亡者は4名で、サルモネラによるものが3名、腸炎ビブリオによるものが1名であった。ボツリヌス食中毒は、3例ともわが国では珍しいA型で、7月中旬から約1ヶ月半の期間に, 東京、千葉、大阪で相次いで発生した。原因食品は千葉事例がレトルト類似食品と判明したが、他の2事例は不明であった。遺伝子解析の結果、汚染源は3事例とも異なることが判明した。

 小型球形ウイルスによる食中毒は116件(4.3%)、患者数は5,217名(14.9%)で昨年とほぼ同じであった。

 植物性自然毒による食中毒は87件(3.2%)、患者数310名、動物性自然毒は34件(1.3%)、患者数67名であった。 死亡例は、植物性自然毒で1名、動物性自然毒で2名であった。

 一方、東京都における食中毒の発生状況は、事件数が94件(患者数2,367名)で平成10年の112件(患者数1,884名)と比べて事件数は0.84倍に減少したが、患者数は前年の1.26倍であった。これは、前年に比較して大規模な食中毒の発生が多かったためである。細菌性食中毒事件数は76件で、第1位は サルモネラの27件(患者数317名)、第2位は腸炎ビブリオで24件(患者数308名)、第3位はカンピロバクタ−・ジェジュニ/コリで14件、以下、黄色ブドウ球菌4件、病原大腸菌(腸管出血性大腸菌を除く)4件、セレウス菌、ウェルシュ菌、ボツリヌス菌が各1件の順である。

 また、サルモネラの患者数は平成10年には175名であったのに対して平成11年は317名であった。これは、血清型Enteritidisによる患者数98名と70名の大規模な食中毒が発生したためである。カンピロバクタ−・ジェジュニ/コリによる食中毒も急に増加し、平成11年は事件数14件(前年3件)、患者数201名(前年41名)であった。病原大腸菌の事件数は4件であるが、いずれも患者数が183名、83名、342名、117名と多く、合計725名で、患者数からみた場合は第1位であった。しかし、腸管出血性大腸菌O157による食中毒事件はいずれも、散発例であった。

 小型球形ウイルスによる食中毒は11件(前年13件)、患者数は506名(前年162名)であった。患者数が急増したのはケーキを推定原因食品とした大規模な食中毒事件(患者215名)の他、集団給食施設が原因の事例が3例発生したことによる。

 植物性自然毒食中毒1件はウリ科の果実による食中毒であった。

 患者数100名以上の大規模集団事例は5件(病原大腸菌による事例3件、ウェルシュ菌による事例と小型球形ウイルスによる事例各1件)であった。また、サルモネラによる食中毒27件のうち、血清型Enteritidisによるものが19件で、平成元年以来多発しているEnteritidisによる食中毒が依然として多くみられた。

 なお、平成11年12月28日食品衛生法施行規則の一部を改正する省令が公布された。主な改正点は、平成11年4月からの「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」の施行を踏まえ、病因物質の種別に係わらず、飲食物に起因する健康被害については食中毒であることを明確にするため、コレラ、赤痢、チフス等が追加されたこと等である。食中毒の被害の拡大防止、原因究明等のために、これまで以上に食品保健部門と感染症対策部門の連携が望まれている。

 

平 成11 年 の 食 中 毒 発 生 状 況

原因物質 全   国 東 京 都
事件数(%) 患者数(%) 死者数 事件数(%) 患者数(%) 死者数
サルモネラ
黄色ブドウ球菌
ボツリヌス菌
腸炎ビブリオ
腸管出血性大腸菌
その他の病原大腸菌
ウエルシュ菌
セレウス菌
エルシニア
カンピロバクター
ナグビブリオ
その他の細菌
825(30.6)
67( 2.5)
3( 0.1)
667(24.7)
8( 0.3)
237( 8.8)
22( 0.8)
11( 0.4)
2 (0.1)
493(18.3)
2( 0.1)
19( 0.7)
11,888(33.8)
736( 2.1)
3( 0.0)
9,396(26.7)
46( 0.1)
2,238( 6.4)
1,517( 4.3)
59( 0.2)
2( 0.0)
1,802( 5.1)
4( 0.0)
50( 0.1)
3
-
-
1
-
-
-
-
-
-
-
-
27(28.7)
4( 4.2)
1( 1.1)
24(25.5)
-
4( 4.2)
1( 1.1)
1( 1.1)
-
14(14.9)
-
-
317(13.4)
51( 2.2)
1(0.0)
308(13.0)
-
725(30.6)
197( 8.3)
5( 0.2)
-
201( 8.5)
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
細菌性総数 2356(87.4) 27,741(78.8) 7 76(80.8) 1805(76.3) -
小型球形ウイルス 116(4.3) 5,217(14.9) - 11(11.7) 506(21.4) -
化学物質 8( 0.3) 134( 0.4) - - - -
植物性自然毒
動物性自然毒
87( 3.2)
34( 1.3)
310( 0.9)
67( 0.2)
1
2
1( 1.1)
-
3( 0.1)
-
-
-
その他 1( 0.0) 1(0.0) - - - -
原因物質不明 95( 3.5) 1,744( 4.9) - 6(6.4) 53(2.2) -
合    計 2,697(100.0) 35,214(100.0) 7 94(100.0) 2,367(100.0) -

 

微生物部 細菌第一研究科 門間千枝

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