東京都健康安全研究センター
腸管出血性大腸菌感染症・食中毒の発生動向と積極的疫学調査

腸管出血性大腸菌感染症・食中毒の発生動向と積極的疫学調査(第21巻、12号)

 

2000年12月

 


 

 腸管出血性大腸菌による感染症・食中毒は、平成11年4月に施行された「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」では3類に位置づけられている。しかし、本感染症は他の感染症と異なり、食品媒介感染症という性格が強いため、その原因解明のためには喫食調査等の疫学調査が非常に重要である。

 腸管出血性大腸菌感染症は、平成8年には全国で少なくとも17,877件報告されたが、その後このような大発生がないため、時として忘れられがちであるが、実際には平成9年:1,941件、平成10年:2,077件、平成11年:2,990件、平成12年:3,535件(厚生省伝染病統計、感染症発生動向調査等から集計)と増加傾向にある。平成12年の分離株の血清型はO157が主体で、全体の72%、O26が19%、O111が3%であったが、この割合は過去3年間ほとんど同じである。

 一方、東京都内の本感染症届け出数は、平成9年が197件(O157:181件)、10年が215件(O157:201件)、11年が237件(O157:は213件)、12年が314件(O157:287件)であった。O157の占める割合は約90%で、全国に比較して高い傾向にある。しかし、O157検出者の40〜48%は無症状であった。そして行政的に食中毒として処理された事例は、平成11年にはなく、12年は3事例、患者数6名のみであった。

 東京都と特別区は、O157を中心に散在的集団発生(いわゆるdiffuse outbreak)等の原因を究明し、その拡大を防止するために、平成11年度から「保菌者検索事業」を実施している。平成11年度のO157保菌者調査では、77,982人中O157陽性者13人、陽性率0.017%であった。12年度の成績は未だまとまっていないが、ほぼ同程度であると推定される。

 衛生研究所では、散在的集団発生をはじめとした食中毒の早期原因解明を目的として、都内で分離されたO157菌株について、薬剤感受性パタ−ンやパルスフィ−ルド電気泳動法によるDNA解析等の各種疫学マ−カ−解析を行っている。対象とする菌株は、医療機関や衛生研究所等で検出された患者やその関係者由来株、あるいは上記保菌者検索事業等で検出された菌株である。確実な原因解明のための疫学解析を行うには、分離菌株の解析成績とO157検出者の喫食調査成績等を総合的に比較検討する必要がある。平成12年度の調査の中でこれらの成績が行政上非常に役立った事例の一部について紹介する。

 事例1.平成12年6月に届け出のあった3件のO157検出例(E、K、M:いずれも発症者)は、その後の喫食調査でEは家族6人で6月17日にG焼肉・チェ−ン店G-1店を、Kも家族等6人で6月18日に同店を利用していた。また、Mは6月12日に4人で別の区の同焼肉・チェ−ン店G-2店を利用していることが判明した。その後の検査でEの家族1名(無症状)からもO157が検出された。これらの分離株につき、疫学マ−カ−解析を実施した結果いづれの株も一致し、この焼肉・チェ−ン店が原因施設と判明し、営業停止処分と衛生指導等の措置がなされた。更に近県の同焼肉・チェ−ン店G-3店利用者からもO157患者が発生し、分離株の解析成績は一致した。

 事例2.A区で実施した保菌者検索事業により平成12年7月21日に無症状の調理従事者AからO157を検出した。また、B区内の大学病院入院患者BからO157が検出された。各担当保健所は、詳細な喫食調査等を行った結果、Aは6月30日に同行者4人(いづれも無症状)と都内のK焼肉店を利用していた。Bも7月12日同行者3人(いづれも無症状)で同じK焼肉店を利用していた。その後の検査の結果、Bの同行者の1名、およびK焼肉店の従業員2名(いづれも無症状)と食品3件(牛生レバ−、大豆もやし、ぜんまい)からもO157が検出された。これらの分離菌株について疫学マ−カ−解析を実施した結果、この焼肉店での感染が示唆された。これらの成績により、担当保健所は、当焼肉店を原因施設と断定し、取り扱い・施設の改善等を含める営業停止処分を行った。

患者1名から発したこれらの調査や検査結果は、きめ細かい調査の積み重ねにより、感染者が拡大する前に食中毒の再発を防止できる事を強く示唆している。事前対応型の行政が、今後益々重要になってくる。

微生物部 細菌第一研究科 甲斐明美

 


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