東京都健康安全研究センター
ウガンダのエボラ出血熱

2001年3月(第22巻、3号)


 WHOの感染症発生報告はウガンダ保健省の報告として1月23日現在ウガンダにおけるエボラ出血熱の患者発生が終息しつつあり、3地区合計で患者428名(Gulu地区396名、Masindi

地区27名、Mbarara 地区5名)、死者173名(Gulu地区150名、Masindi 地区19名、Mbarara 地区4名)と報じている。WHOの報告および米国CDCの週報から今回のエボラ出血熱の発生について要約する。

 2000年10月初旬にウガンダ北部のGulu地区のLacor 病院の院長とGulu地区の衛生部長から保健省に出血を伴い死亡率の高い通常みられない熱性疾患が発生していると報告された。10月5日から11月27日の期間に実験室確認されGulu病院に入院した62例では平均、発病8日後に受診しており、下痢、無力状態、食欲低下、頭痛、おう気・おう吐、腹痛、胸痛などの症状を示し、12名に主に消化管の出血が見られた。36名(53%)が死亡したが多くはショック、凝固障害、意識消失を示した。

 10月半ばには南アフリカのウイルス研究所で患者と医療関係者の試料によりエボラウイルスの感染が確認され、調査、治療、啓蒙などの防疫対策が開始された。

 まず、流行規模、流行の感染源の確認が行われ、感染者を確認し、感染拡大防止のために入院を勧告した。感染者との接触者は21日間追跡観察し、エボラ出血熱による死亡者(疑い含む)を埋葬する特別チ−ムを設置した。伝統療法や伝統的埋葬法、大規模な集会は停止され、また院内感染防止策、病棟隔離なども行われた。

 調査は(1)警戒、(2)疑い、(3)可能性の3つのカテゴリ−を用いて行われた。警戒は、突然の高熱、突然死、出血のいずれかを伴う場合で医療従事者への警告に用いられた。

疑いは、発熱があって疑い患者(不明出血患者、発熱と3つ以上の徴候を伴う患者)と接触した者、及び原因不明の死亡者で、調査チ−ムが患者を隔離病棟に運ぶか否かを決める基準として用いられた。可能性は、上2つのカテゴリ−にあてはまる者、及び医師が診察して報告した者である。実験室確認例はこの3つのカテゴリ−のいずれかに合致して、エボラウイルス抗原又はエボラウイルス抗体が陽性のものと定義される。

 Gulu地区と隣接するMasindi 地区では11月下旬から12月中旬にかけ、遠隔地であるMbarara 地区でも11月初旬から12月中旬にかけ患者発生が見られたがGulu地区における最初の疑い例は8月30日に遡る。上記のカテゴリ−にあてはまる425名について現在までの情報をまとめると、以下のようである。最後の例が確認されたのは1月14日。患者の年齢は生後3日から72才(平均28才)、発病から死亡まで平均8日、269名(63%)は女性、218名が実験室確認例である。3つの主要感染経路は(1)エボラ出血熱が疑われる患者の葬式への参加、(2)家族内感染、(3)院内感染である。

 Guluで感染した22名の医療従事者のうち14名が隔離病棟設置後に感染している。Mbarara 地区とMasindi 地区の患者発生はGulu地区の患者と接触した者が両地区を訪れたことに端を発している。

 確認されたウイルスの塩基配列を分析した結果、エボラ−ス−ダン株に近縁であるがポリメラ−ゼ領域で3.3%,ヌクレオカプシド領域で4.2%遺伝子が異なっていた。 今回の流行は過去最大のエボラ出血熱の流行であり1976年と79年のス−ダンでの流行に続く3度目のエボラ−ス−ダン株の流行である(表)。

 エボラ出血熱は感染症新法では第1類感染症に定められ、診断した医師は患者、偽似症患者、無症状病原体保有者のいずれであっても届け出る必要がある。過去アフリカ以外で発生の報告はないが海外との交流の盛んな現在、潜伏期間内に帰国し国内で発病した場合の備えは必要であろう。


微生物部ウイルス研究科

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