東京都健康安全研究センター
平成12年の食中毒発生状況

平成12年の食中毒発生状況(第22巻、7号)

 

2001年7月

 


 平成12年6月末に発生が確認された「加工乳」を原因とする食中毒事件は、患者数14,780名(食品衛生研究,Vol.51,No.2,p17-91)に達し、近年、例をみない大規模食中毒となった。原因物質は黄色ブドウ球菌A型エンテロトキシンで、「加工乳」残品やその原料に使用された脱脂紛乳からA型エンテロトキシンが検出された。またこの事件を契機に都内でも保健所等に寄せられる食品の苦情届出が急増し、7、8月は843件(前年は114件)と例年の7.39倍に達した。本号では、この事件を含めた全国及び東京都における食中毒の発生状況について、厚生労働省医薬局食品保健部並びに東京都衛生局生活環境部食品保健課でまとめられた食中毒統計資料に基づき、その概要を紹介したい。

 平成12年に全国で発生した食中毒事件の総数は2,247件、患者数は43,307名であり、前年に比べ事件数は減少した(前年比0.83倍)が、患者数は増加した(前年比1.23倍)。また、1事件当たりの患者数も前年の13.1名から19.3名となった。これらの増加は主として前述の「加工乳」による大規模集団食中毒の影響による。

 事件数を原因物質別にみると、細菌性食中毒は全体の79.3%を占め、第1位は平成元年以来急増したサルモネラで518件(23.1%)、患者数6,940名であった。第2位は前年第3位であったカンピロバクター・ジェジュニ/コリで469件(20.9%)、患者数1,784名、第3位は腸炎ビブリオで、事件数422件(18.8%)、患者数3,620名であった。以下事件数では、病原大腸菌(腸管出血性大腸菌を除く)203件(9.0%)、黄色ブドウ球菌87件(3.9%)、ウエルシュ菌32件(1.4%)、腸管出血性大腸菌16件(0.7%)、セレウス菌10件(0.5%)、ナグビブリオ5件(0.2%)、そしてエルシニア・エンテロコリチカ、コレラ菌、赤痢菌が各1件の順であった。第1位のサルモネラの事件数は平成11年比62.7%に減少し、腸炎ビブリオはピークの平成10年(事件数839件、患者数12,318名)に比べ、事件数、患者数とも半減した。細菌性食中毒の患者数は、黄色ブドウ球菌、サルモネラ、腸炎ビブリオの順で多いが、黄色ブドウ球菌の患者数が14,722名と極端に多いのは、前述の「加工乳」を原因とする食中毒によるものである。死亡者は3名で、サルモネラ、黄色ブドウ球菌、腸管出血性大腸菌によるものが各1名であった。10月に愛媛県で発生した赤痢菌による食中毒事例は、患者数103名で、赤痢菌( S.sonnei )に感染した寿司店従業員の握った寿司を喫食する事によって発生拡大したことが判明した事例(国立感染症研究所・病原微生物検出情報,Vol.22,No.2)であった。有名店であったため多くの旅行者も喫食し、患者は9府県に及んだ。本事例では疫学的調査成績と併せて、分離菌株の薬剤耐性パターンおよび遺伝子解析結果が一致したことから、当店が原因施設であると特定された。

 小型球形ウイルスによる食中毒は245件(10.9%)、患者数は8,080名(18.6%)で、事件数(前年比2.11倍)、患者数(前年比1.55 倍)とも急増した。植物性自然毒による食中毒は76件(3.4%)、患者数373名、動物性自然毒は37件(1.7%)、患者数75名であった。死亡者1名は、毒キノコ「カエンタケ」の誤食によるものであった。

 一方、東京都における食中毒の発生状況は、事件数が110件(患者数2,703名)で、平成11年の94件(患者数2,367名)と比べて事件数は1.17倍、患者数は1.14倍であった。これらの内、細菌性食中毒は79件、第1位は腸炎ビブリオの26件(患者数316名)、第2位はサルモネラで19件(患者数254名)、第3位はカンピロバクタ−・ジェジュニ/コリで15件(患者数153名)、以下、黄色ブドウ球菌9件、ウエルシュ菌4件、腸管出血性大腸菌3件、病原大腸菌(腸管出血性大腸菌を除く)2件、セレウス菌1件の順である。死亡者は1名で、仕出し弁当を原因とした黄色ブドウ球菌食中毒によるものであった。

 腸炎ビブリオ、カンピロバクタ−・ジェジュニ/コリは昨年とほぼ同じ発生状況であったが、サルモネラは事件数、患者数とも平成11年(事件数27件、患者数317名)に比べ減少した。サルモネラ食中毒19件のうち、血清型Enteritidisによるものが14件で、平成元年以来Enteritidisによる食中毒が依然として多発している。本血清型菌による食中毒14件中9件で、原因食品として鶏卵の関与が疑われた。カンピロバクタ−・ジェジュニ/コリによる事例では、鶏肉の刺身やたたき等、生の鶏肉を喫食して発生した事件が目立った。腸管出血性大腸菌O157による3事件中2件は焼肉店が原因施設であったが、いずれも遺伝子解析成績が原因施設の特定に有効であった事例である。病原大腸菌による2事件はいずれも毒素原性大腸菌によるもので、血清型O148による1件は患者数754名の大規模事例であった。原因食品は仕出し弁当で、仕出し業者が悪質な違反を重ねたため、管轄区長が警察に告発した事例であった。

 小型球形ウイルスによる食中毒は21件(前年11件)、患者数651名(前年506名)で、21件中14件で「生カキ」の喫食が認められた。

 化学物質による食中毒2件は、銅(銅鍋で調理した焼きそば)による事件(患者数7 名)、社員食堂で提供されたいわしの蒲焼きによるヒスタミンによる事件(患者数127名)であった。植物性自然毒食中毒1件はツキヨタケ、動物性自然毒食中毒2件はフグ(素人調理)のテトロドトキシンによるものであった。その他の2件は寄生虫アニサキスによるものである。

 一方、原因物質不明は3件(2.7%)のみで、判明率は非常に高かった。患者数100名以上の大規模集団事例は5件(病原大腸菌、ウエルシュ菌、腸炎ビブリオ、小型球形ウイルス、ヒスタミンによる事例各1件)で、内2件は患者数300名以上であった。

 

 

微生物部 細菌第一研究科 門間 千枝

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