東京都健康安全研究センター
VRE感染症(Vancomycin Resistant Enterococci:バンコマイシン耐性腸球菌)

VRE感染症(Vancomycin Resistant Enterococci:バンコマイシン耐性腸球菌)(第22巻、11号)

 

2001年11月

 


 VRE(Vancomycin Resistant Enterococci:バンコマイシン耐性腸球菌)は、MRSA (Methicillin‐resistant Staphylococcus aureus )などグラム陽性菌に有効な抗生物質である、バンコマイシンに耐性を獲得した腸球菌である。腸球菌は、健常者の腸管内や口腔、外陰部などに常在する菌であり、病原性は非常に弱い。VREは、バンコマイシンに耐性を獲得しているが生物学的な特徴は腸球菌と変わらない。健常者に感染した場合は通常、無害、無症状であるが、術後患者や感染防御機能の低下した患者では、腹膜炎、術創感染症、肺炎、敗血症などの「感染症」を引き起こす場合がある。腸球菌の一種である Enterococcus faecium などは、術後の心内膜炎などの原因菌となりうることが指摘されており、その意味では、全くの「非病原菌」ではない。

 VREは、1980年代の前半に欧州で最初に分離され、1990 年代に入り欧州、米国などで急速に拡大した。

 VREとして臨床上問題とされ、院内感染対策の対象となっているのは、 vanA または vanB 遺伝子を保有する腸球菌である。vanC型のVREは重篤な感染症を引き起こしたとの報告は稀だが、「感染症新法」では、vanC型のVRE による重症感染症の発生状況を正確に把握するため、血液、髄液、胸水など通常「無菌」的な臨床材料からvan C型VREが分離された場合には報告を求めている。

 VREと判定されるのは、同定検査により腸球菌が確認され、薬剤感受性試験でバンコマイシンに対する判定結果が、MIC 値で≧32μg/ml と判定された場合である。または、バンコマイシンに耐性を示す腸球菌で、 vanA 、 vanB 、 vanC 遺伝子に特異的なプライマーを用いたPCR検査により、特異的なバンドが検出された場合である。

 東京都でのVREの発生状況は、平成11年4月〜平成13年12月までに感染症新法に基づいて届け出られ、菌株の送付されてきたVREを集計すると、15件であった。そのうち van A 遺伝子を検出した株は7株、 vanB 遺伝子を検出した株は4株、 vanC1 遺伝子を検出した株は3株、 vanC2 遺伝子を検出した株は4株であった。検出菌は Enterococcus faecium 5株、 Enterococcus faecalis 4株、 Enterococcus gallinarum 3株、 Enterococcus casseliflavus 4株であった。 菌の分離された患者の年齢は22才から81才まで、分離部位は、血液:5件、胸水:1件、辱瘡:2件、胆汁:1件、尿(カテーテル含む):2件、便:5件などであった。

 特に、2001年9月には vanA 遺伝子が検出された株、3株が分離されている。このうち2株は同一の病院の2名の患者から分離され、PFGEによる遺伝子解析の結果同一の遺伝子パターンであった。なお2株の内1株は、肺炎、脳梗塞などで治療を受けていたアメリカから帰国した患者の辱瘡から検出された。そして後から検出された患者への院内感染が疑われている。

 

東京都で分離されたVRE(平成11年4月〜平成13年12月)

 

  vanA vanB vanC1 vanC2
E. faecium 3(辱瘡1, 便2) 2(血液1,尿1)    
E. faecalis 2(便2) 2(辱瘡1,尿1)    
E. gallinarum     3(血液2,胆汁1)  
E. casseliflavus       4(血液3,胸水1,便1)

 

 

微生物部 細菌第二研究科 遠藤 美代子

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