東京都健康安全研究センター
結核菌の薬剤感受性検査法の特長と注意点

結核菌の薬剤感受性検査法の特長と注意点(第23巻、3号)

 

2002年3月

 


 結核は慢性に経過し、しばしば再発、再燃する疾患で、長期の抗結核薬投与を必要とする。一方抗結核薬には肝障害、腎障害、視神経炎、聴力障害等の重篤な副作用が知られており、使用する薬剤は抗結核作用があってかつ身体的負荷の少ないものが望ましい。その意味で適切な抗結核薬選択のための結核菌の薬剤感受性検査は重要である。また結核の感染拡大の防止や早期の治療開始のために、米国の疾病対策予防センター(CDC)は検査材料を入手後15〜30日以内に薬剤感受性結果を報告することを勧告している。我が国においては、薬剤感受性検査は検査室により異なった方法で実施されている。そこでそれぞれの方法の特徴と注意点を紹介する(表)。

 普通法は小川培地を使用する試験管法で、広く行われてきた方法である。従来絶対濃度法で行われてきたが、諸外国では比率法を用いていることから、1997年に日本結核病学会薬剤耐性検査検討委員会から比率法が提案され、濃度も変更された。培地中の卵成分や培地成分が薬剤感受性に影響を及ぼす場合があること及び培地に含有される抗菌薬の薬効が長期間の保存や培養で低下することに注意が必要である。

 簡便法であるマイクロタイター法及びウェルパック培地法は、普通法と比べて培地量が少ないにも関わらず接種菌量が多いため、薬剤の種類により感受性菌を耐性と読む傾向がある。結核病床を持つ各施設でマイクロタイター法及びウェルパック培地法により耐性と判定した菌株を、結核研究所で普通法(比率法)により検査したところ、それぞれ61.6%、69.4%が感受性と判定されたと報告されている(結核.2001;76:461-471)。特にINHの低濃度とEMBで耐性の過大評価傾向が強く、注意が必要である。

 微量液体希釈法であるブロスミックMTB-1は、MIC値が測定可能であること、1週間と培養期間が短いこと、普通法と高い相関性があることから有用な方法である。しかし微弱な発育の場合は判定に迷うことがある。

 MGIT抗酸菌システムは非放射性液体培養システムであり、このシステムで分離培養及び薬剤感受性検査を実施すると、CDCの勧告(15〜30日以内に薬剤感受性結果を報告)を満たすことが可能である。このシステムの薬剤感受性検査は、INH、RFP、SM、EMBの4薬剤のみであるが、短期間で検査可能で普通法との相関も高く、評価されている方法である。ただしEMBに関しては若干特異性が低く、感受性の菌を耐性と報告してしまう場合がある。同システムの全自動培養検出装置であるBACTEC MGIT 960システムも開発されている。

 1996年に標準治療法に加えられたPZAに関しては、抗菌活性がpH5.5付近にあり、普通法による検査は困難であった。しかし、ピラジナミダーゼ活性の欠落とPZA耐性に相関があることが明らかになり、2000年に結核病学会抗酸菌検査法検討委員会よりPZA感受性検査法としてピラジナミダーゼ試験が提案された。市販品では、ウェルパック培地法及び極東のPZA用液体培地により検査可能である。

 以上の培養をベースにした検査法の他に、分子生物学的手法を用いた診断法も検討されている。主要抗結核剤に関して薬剤耐性に関与する遺伝子が多数同定され、耐性菌検出法も報告されているが、全ての耐性菌を検出できる簡便な方法は未だ開発されていない。

 集団感染事例では予防内服が必要になるため、正確で迅速な薬剤感受性検査が求められる。衛生研究所ではMGIT抗酸菌システムによる薬剤感受性検査を採用している。都内の結核集団感染事例において、患者菌株が医療機関による薬剤感受性検査(マイクロタイター法)でINH耐性(0.1μg/ml,耐性、1.0μg/ml,感受性、発育なし)だったため、再検査を依頼された。当所における検査(MGIT抗酸菌システム)ではINH感受性であった。

 それぞれの方法の特性を理解し、薬剤感受性検査結果を適切に活用していく必要があろう。

 

 

方法 普通法 マイクロタイター法 トレイ法 微量液体希釈法 液体培地を用いた査法 ピラジナミダーゼ試験
比率法 絶対濃度法 比率法 絶対濃度法
市販品 (メーカー) 感受性培地(極東,日水) 耐性培地(日水) ビットスペクトルSR(極東) ウェルパック培地P(日本BCG) ウェルパック培地A,B(日本BCG) ブロスミックMTB-1(極東) MGIT抗酸菌システム(BD) BACTEC MGIT 960(BD) 結核菌感受性PZA液体培地(極東)  





INH 0.2* ,1 0.1, 1, 5 0.2 ,1 0.2 ,1 0.1, 1, 5 0.03-32 0.1 0.1, 0.4    
RFP 40 10, 50 40 40 10, 50 0.03-32 1.0 1.0    
SM 10 20, 200 10 10 20, 200 0.06-128 0.8 1.0    
EMB 2.5 2.5, 5 2.5 2.5 2.5, 5 0.06-128 3.5 5.0    
KM 20 25, 100 20 20 25, 100 0.06-128        
EVM 20 25, 100 20 20 25, 100          
TH 20 25, 50 20 20 25, 50          
CS 30 20, 40 30 30 20, 40          
PAS 0.5 1, 10 0.5 0.5 1, 10          
PZA       1000, 3000 300, 1000, 3000       100, 400 PZase活性
ニューキノロン系薬 1(LVFX)   1(LVFX)     0.03-32 (LVFX, SPFX, CPFX)        
判定及び培養日数 3-4週間 3-4週間 1-2週間 2-3週間 2-3週間 1週間 約1週間 約1週間 1週間  
特長と注意点 (1)培地の長期保存による薬効低下に注意。 (1)簡便、省スペース。

(2)耐性の過大評価傾向あり。

(3)LVFX検査可能。

(1)簡便、省スペース

(2)耐性の過大評価傾向あり。

(3)PZA検査可能。

(1)MIC値測定可能。

(2)ニューキノロン系薬検査可能。

(1)CDCの勧告を満たすことが可能。

(2)4薬剤のみ。

(1)MGIT抗酸菌システムの全自動培養検出装置。

(2)薬剤の濃度を改良してある。

  (1)キットは市販されていない

*表中の数字の単位はmg/mlである

 

微生物部 細菌第一研究科 下島 優香子

 


 

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