東京都健康安全研究センター
東京都におけるウイルス性胃腸炎集団発生(2001年)

東京都におけるウイルス性胃腸炎集団発生(2001年)(第23巻、10号)

 

2002年10月

 


 例年、11月から2月を中心とした冬季になるとウイルス性胃腸炎集団発生が多発する。ここでは2001年の、都内におけるウイルス性胃腸炎集団発生からのウイルス検出状況を報告する。

 調査期間中に、222集団の食中毒疑い事例から2751件の材料が搬入され、胃腸炎起因ウイルスの検索を行った。検索対象ウイルスとその検査法は、小型球形ウイルス(SRSV)はRT-PCR法とハイブリダイゼーション法、A群ロタウイルスと腸管アデノウイルス、アストロウイルスは酵素抗体法、C群ロタウイルスは逆受身赤血球凝集法により実施した。

 調査の結果、この内142集団(64.0%)811件(29.5%)から胃腸炎ウイルスが検出された。検出されたウイルスのほとんどは小型球形ウイルスであり136集団から、その他にA群ロタウイルスが6集団、C群ロタウイルスが1集団から検出された。このC群ロタウイルスが検出された事例では、A群ロタウイルスも同時に検出された。

 月別のウイルス検出状況を見ると、本年は毎月SRSV陽性事例が認められ、陽性率は1月が最も高く87.8%であり、ついで2月86.1%、12月66.7%の順であった。6月から10月までのSRSV陽性率は33.3%以下と低く、最も低いのは8月の16.7%であった。ロタウイルスは3月と5月に検出され、SRSVが多発する時期とは異なっていた。

 

検索対象
事例数
ウイルス陽性
事例数
SRSV陽性
陽性事例数
A群ロタウイルス
陽性事例数
C群ロタウイルス
陽性事例数
2001 1 49 43 (87.8) 43    
  2 36 31 (86.1) 31    
  3 24 11 (45.8) 6 5 1
  4 11 6 (32.7) 6    
  5 12 5 (41.7) 4 1  
  6 12 4 (33.3) 4    
  7 5 1 (20.0) 1    
  8 6 1 (16.7) 1    
  9 3 1 (33.3) 1    
  10 4 1 (25.0) 1    
  11 18 10 (55.6) 10    
  12 42 28 (66.7) 28    
合 計 222 142 (64.0) 136 6 1

( )内は陽性率

 

 次に、原因食品に牡蛎等の二枚貝が含まれるか否かによるウイルス検出状況を示した。
二枚貝が原因食品に記載されていたのは、検索事例数の約1/3にあたる74事例であった。74事例中70事例はカキであったが、その他にアサリが1事例、シジミが3事例に関連していた。シジミは全て台湾料理のシジミの醤油漬けであった。カキフライが3事例、アサリのスパゲッティが1事例など、加熱調理された原因食品も認められたが、ほとんどはカキ酢など生食されていた。また、加熱調理食品は、加熱不足のまま提供されていたと考えられる。

 ウイルス陽性率は、二枚貝関連事件の方がやや高い傾向を示したが、大きな差は認められなかった。

 

検索対象
事例数
ウイルス陽性
事例数
二枚貝関連 二枚貝非関連
事例数 陽性事例数 事例数 陽性事例数
2001 1 49 43 (87.8) 21 19 (90.5) 28 24 (85.7)
  2 36 31 (86.1) 28 23 (82.1) 8 8 (100)
  3 24 11 (45.8) 3 2 (66.7) 21 9 (42.9)
  4 11 6 (32.7) 3 2 (66.7) 8 4 (50.0)
  5 12 5 (41.7) 0 0 12 5 (41.7)
  6 12 4 (33.3) 0 0 12 4 (33.3)
  7 5 1 (20.0) 0 0 5 1 (20.0)
  8 6 1 (16.7) 1 0 5 1 (20.0)
  9 3 1 (33.3) 0 0 3 1 (33.3)
  10 4 1 (25.0) 2 1 (50.0) 2 0
  11 18 10 (55.6) 1 1(100) 17 9 (52.9)
  12 42 28 (66.7) 15 10 (66.7) 27 18 (66.7)
合 計 222 142 (64.0) 74 58 (78.4) 148 84 (56.8)

( )内は陽性率

 

 2001年3月に都内の小学校で発生したC群ロタウイルスとA群ロタウイルスが同時に検出された胃腸炎集団事例があり、都内におけるC群ロタウイルスの集団発生は、1991年以来の稀な事例であるため、概要を報告する。

 2001年3月16日から17日にかけて在校生280名の小学校において吐き気、おう吐、腹痛、下痢、発熱を主症状とする胃腸炎集団発生があり、患者ふん便65件を調査したところ、C群ロタウイルス31件、A群ロタウイルス5件が陽性となった。A群ロタウイルス陽性者には兄弟間の感染例も含まれ、集団発生の主原因とは考えられなかった。

 C群ロタウイルス陽性者は全学年に認められ、患者の発生状況が一峰性であること、C群ロタウイルスの核酸泳動パターンが全て一致したことから、食事を介した感染によって発生した可能性も疑われた。

 近年、遺伝子学的手法を用いた型別は胃腸炎ウイルスの分類にも導入され、食中毒集団発生に際しては、ウイルスによる食品汚染経路の追求や原因解明に有用なデータが得られている。今後とも更にその重要性は増加することが予想され、検査の迅速化、精度・感度の向上も含めて遺伝子学的手法の強化を図っていきたい。

 

微生物部 ウイルス研究科 林 志直

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