東京都健康安全研究センター
公衆浴場浴槽水のレジオネラ属菌調査とその対策事例

公衆浴場浴槽水のレジオネラ属菌調査とその対策事例(第23巻、11号)

 

2002年11月

 


 最近、我が国では宮崎県日向市をはじめとしてレジオネラ症の集団発生事例が相次いでおり、大きな社会問題となっている。昨年1月には、東京都板橋区内の銭湯利用者が、レジオネラ症で死亡する事例が報道された。これを受けて、多摩地区の「普通公衆浴場」いわゆる銭湯113施設、「その他の公衆浴場(健康ランド,サウナ等)」151施設、合計264施設の浴槽水を対象としたレジオネラ属菌の緊急調査を行った。

 浴槽水から検出されたレジオネラ属菌、一般細菌及び大腸菌群の検出状況を図1に示した。レジオネラ属菌は、「普通公衆浴場」27施設(23.9%)、「その他の公衆浴場」55施設(36.4%)から検出され、最高検出菌数は8.4×103CFU/100mLを示した。一般細菌は「普通公衆浴場」61施設(53.9%)、「その他の公衆浴場」98施設(64.9%)から検出され、最高検出菌数は5.8×106CFU/mLであった。また、大腸菌群も、わずかだが12施設(4.5%)から検出され、最高検出菌数は1.6×104CFU/mLを示した。

 検出されたレジオネラ属菌は全てL.pneumophilaであり、血清群別にみると1群、5群が各26株、6群が27株検出され、これら3血清群で全分離菌株(112株)の70.5%を占めた。

 表1は、レジオネラ属菌が検出された施設に対して行った改善対策とその効果についてまとめたものである。改善効果が最も高かったのは「配管・ろ過器の洗浄」であり改善率[(有効数/実施施設数)×100]88%を示した。具体的な洗浄方法をあげると高温洗浄、高圧洗浄、塩素剤洗浄、化学洗浄などであった。次に有効であったのが「浴用剤の使用停止」であり改善率86%を示した。また、「塩素剤追加」することにより遊離残留塩素濃度(以下、塩素濃度と略記)が上昇し、効果が認められたものが82%あった。しかし、塩素濃度が低下した事例もあり、塩素濃度管理の難しさがうかがえた。「ろ材の交換」も効果的であったが、「浴槽清掃」のみではあまり効果がなかった。その他の対策としては、1例ずつであるが、「釜のヌメリ除去」、「ラドン石撤去」、「塩素注入器更新」、「ろ過開始時間を早める」などが有効であった。いずれにしても、「塩素剤追加」に加え、「配管・ろ過器の洗浄」が有効であることが確認できた。表1に示した様々な対策を施した結果、最初の調査時点でレジオネラ属菌が検出されていた80施設のうち51施設(63.8%)が不検出(2CFU/100mL未満)となった。

 図2にレジオネラ属菌の検出率と塩素濃度の関係を示した。レジオネラ属菌の検出率は、塩素濃度0.2mg/L未満が最も高く「普通公衆浴場」で58%、「その他の公衆浴場」で46%であった。いずれの浴場も塩素濃度が高くなるにつれて検出率が右下がりに低下し、塩素濃度2mg/L以上では両浴場ともに不検出であった。浴槽水の塩素管理状況をみると「普通公衆浴場」は「その他公衆浴場」に比べて、塩素濃度が高めに管理されていることがわかった。このことも、レジオネラ属菌の検出率に影響したと考えられる。しかし、厚生労働省の指針に示されている0.2〜0.4mg/Lの範囲、さらには、0.5mg/L以上でもレジオネラ属菌が検出される場合があった。これは、レジオネラ属菌の生息場所の一つとなっている配管などに付着したスライムすなわち生物膜が剥離して、浴槽に浮遊したため、塩素による殺菌作用が十分に機能しなかった可能性が考えられる。

 死亡事故を起こした板橋区の事例は、浴用剤を投入した薬湯であったことから普通公衆浴場における浴用剤使用の有無とレジオネラ属菌検出率及び塩素濃度の変動を調査した(図3)。レジオネラ属菌検出率は、浴用剤使用施設で39.3%(11/28)、浴用剤不使用施設で18.8%(16/85)であり検出率に有意な差が認められた。また、塩素濃度についても、推奨値の下限値0.2mg/L未満の割合が、浴用剤不使用では16.5%(14/85)であったが浴用剤使用では42.9%(12/28)と高率であった。このことから、浴用剤の使用が塩素処理効果を妨害しており、その結果として、レジオネラ属菌の検出率が高くなっていると推測された。当面の対策として、浴用剤の使用を制限するか、塩素以外の殺菌方法を導入する必要があると考える。

 浴槽水におけるレジオネラ属菌汚染防止対策の必要性は、公共性の高い施設を中心にますます高まっており、低コストで確実に効果がある浄化及び殺菌手段の開発が急務である。

 

 

多摩支所 微生物研究科 岩谷美枝、楠くみ子、石上 武

 


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