東京都健康安全研究センター
東京都内で検出された麻疹ウイルスのNP遺伝子解析結果(2001年4月〜2003年3月)

東京都内で検出された麻疹ウイルスのNP遺伝子解析結果(2001年4月〜2003年3月)(第24巻、7号)

 

2003年7月

 


 

 麻疹(はしか)の病因となる麻疹ウイルスは、世界保健機関の分類により現在AからHの8群、22遺伝子型に分類されている。この遺伝子型は世界の流行地域ごとに異なっており、これまで国内の麻疹患者からは主にD3型及びD5型の麻疹ウイルスが検出されていた。しかし、2000年に国内の成人麻疹患者から分離されたウイルスの中に、93年に中国で分離され、2000年には韓国で麻疹流行を起こしたH1型が認められ、その後も国内で、このH1型の麻疹ウイルスによる患者の発生が続いている。そこで、今回、都内における麻疹ウイルスの流行状況を把握する目的で、2001及び2002年度(2001年4月から2003年3月)に当センターにおいて検出された麻疹ウイルスの遺伝子型解析を行った。

 調査は、2001年度に検出された麻疹ウイルス28株、2002年度に検出された麻疹ウイルス25株の計53株(一部遺伝子検出のみを含む)を対象に行った。対象試料からRNAを抽出し、NP領域を標的としたPCR法を行い、増幅産物533bpの遺伝子塩基配列をダイレクトシークエンス法により決定した。得られた遺伝子塩基配列のうち385bpについてNJ法で分子系統樹を作成し、データバンク上の登録株と比較した。

 系統解析の結果を図1に示した。2001及び2002年度に当センターで検出された麻疹ウイルス53株は、 H1型、D5型、A型の3つの型に分類され、その内訳は、H1型が25株、D5型が24株、A型が4株であった。このうち、現行のワクチン型であるA型に型別された4株は、全てワクチン接種後、検体採取までに数日しか経っていなかったことから、接種したワクチン由来のウイルスが検出されたものと推察された。

 一方、H1型に型別された25株は、系統樹上で更に3つのグループに分かれた。このうち最も多くを占めたのは、2001年にオーストラリアで検出されたMvs/WA. AU/30.01株(以下オーストラリア株)と100%相同性のウイルスであり、これは2001年度に3株、2002年度に15株検出されている。次に多くを占めたのは、2002年に大阪市で検出されたMvi/Osaka.C.JPN/32.02株と100%の相同性を示したウイルスが2002年度に3株、99.7%の相同性を示したものが2001年度、2002年度に1株ずつ検出された。また、2000年にアメリカで検出されたMvs/Florida.USA/25.00株及び2001年にカナダで検出されたMvs/Tronto.Can/8. 01/1株と100%相同性のウイルスが2001年度に2株検出された(図2)。

 D5型に型別された24株も2つのグループに分かれた。検出数が最も多かったのは、2000年にハワイで検出されたMvs/Hawaii.USA/20.00株(以下ハワイ株)と100%相同性を示すウイルスが16株、次いで99.7%相同性のものが2株であり、これら18株は全て2001年度に検出されたものであった。また、2002年に大阪市で検出されたMvi/Osaka.C. JPN/35.02株と100%の相同性であったウイルスが同年に4株、98.7%相同性のものが2001年度に2株検出された。この2株は、1事例の院内感染の患者2名から検出されたものであった(図3)。

 都内で検出された麻疹ウイルス遺伝子型の推移を図4に示した。検出された麻疹ウイルスの遺伝子型(H1型、D5型及びA型)を最も相同性の高かったデータベース登録株名で示し、ウイルス遺伝子型と検出時期の関連を調べた。その結果、東京都内で流行していた麻疹ウイルスは、2001年度は主にハワイ株のD5型、2002年度は主にオーストラリア株のH1型であったことが明らかとなった。2002年度に流行していたオーストラリア株と同一遺伝子型のH1型は、同年11月に世田谷区内の中学生を中心に発生した麻疹集団事例の患者からも検出された。

 今回の調査によって,都内で流行している主な麻疹ウイルスは、日本固有のD5型から、これまで中国及び韓国で流行していたH1型に変化していたことが明らかとなった。

 現在も国内においてH1型の麻疹ウイルスによる散発例、成人麻疹例、中学校集団発生例等の報告が続いている。また、これら患者の中には、ワクチン接種歴がある患者も含まれていることから、麻疹ウイルス流行株の抗原変異によって、ワクチンで獲得した抗体では抑制効果が低くなることも懸念されている。今後も、麻疹ウイルス流行株の遺伝子型を解析し、その動向を把握すると共に、ワクチンの有効性等についても評価していく必要がある。

 

図1.都内で検出された麻疹ウイルスNP遺伝子(385bp)の分子系統解析結果

図2.東京都内で検出されたH1型麻疹ウイルスの分子系統樹 (2001〜2002年度)

図3.東京都内で検出されたD5型麻疹ウイルスの分子系統樹(2001〜2002年度)

図4. 都内における麻疹ウイルス検出状況

 

微生物部 ウイルス研究科 田部井 由紀子

 


 

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