東京都健康安全研究センター
コレラの発生状況(2002年)

コレラの発生状況(2002年)(第24巻、8号)

 

2003年8月

 


 

 我が国で2002年(1-12月)に報告されたコレラ患者数は49名(真性患者36名、疑似患者13名)で、最近10年間で最も少なかった前年より5名多かった(表1)。これらのうち海外旅行者による輸入事例は27件(真性患者18名、疑似患者9名)であった。推定感染国はタイ(7名)、中国(4名)、フィリピン(4名)、ベトナム(4名)、インド(3名)、インドネシア(2名)、ネパール(1名)、台湾(1名)、タイ・カンボジア(1名)となっている。一方、海外旅行歴のない国内発生例は22件(真性患者18名、疑似患者4名)であった。千葉県で8月及び青森県で9月に報告された、それぞれコレラ真性患者2名を含む事例は食中毒としても報告されている。なお、7月末から8月にかけて東京都内において7名の発生があったが、それらの関連性、原因食品等は全く不明であった。真性患者からの分離コレラ菌の血清型は、輸入事例由来18株では稲葉型が10株、小川型が7株、O139(ベンガルコレラ菌)が1株(インド旅行者)、国内事例由来18株では稲葉型が17株、小川型が1株であった。

 次に、WHOの報告(WHO Weekly Epidemiological Record,78(31),2003)に基づき2002年における世界のコレラ発生状況を紹介する。世界全体としては、1961年にインドネシアに始まったエルトールコレラ菌によるコレラの発生が依然続いている。表2に示したようにWHOに発生を報告した国は前年より5か国少ない52か国で、患者数は142,311名、うち死者数は4,564名であった。前年に比べ患者数は減少したものの、死者数はほぼ倍増した。世界全体の致死率も、南アフリカでの集団発生に関連して例外的に低かった前年(1.48%)に比べ3.95%にまで上昇した。

 アフリカ大陸では27か国から患者数137,866名、死者数4,551名が報告された。患者数は、南アフリカで前年の106,151名から10,004名と激減した影響で、前年に比し約20%減少しているが、南アフリカを除く全体の患者数は前年の70%増であった。アフリカ全体の致死率は南アフリカで集団発生が起きていなかった数年前とほぼ同様の3.5%であった。本年は患者の大半が南部アフリカ地域での集団発生に関連したもので、マラウイ、モザンビーク、ジンバブエ及びザンビアでは全体の44%に当たる60,457名が報告された。一方、コンゴ民主共和国からは全体の23%に当たる31,618名が報告されたが、その主因は前年に比べサーベイランス及びコミュニケーションが改善されたことによる。他の国でも、組織化されたサーベイランスの導入に伴い報告内容に改善が見られた。こうした改善されたデータの収集及び解析は、ハイリスク地域の特定につながると同時に、疾病の防止・防圧対策の改善にも貢献するものといえる。

 アメリカ大陸で発生報告のあったのは4か国のみで、患者数は23名であった。国内での発生はペルーとガテマラの2か国、アメリカとカナダの報告は全て輸入例であった。1990年に初めて中南米に上陸、猛威を振るったコレラの流行は著しい減少を見たが、今後ともサーベイランスや防圧に対する強力な対応を継続維持する必要がある。

 アジアでの報告患者数は13か国からの4,409名(死者数13名)で、前年(10,340名)の半数以下であった。例年並に患者数が多かったのはインド(3,455名)、イラク(718名)及びイラン(118名)であった。前年報告数が4,499名と最も多かったアフガニスタンは、カブール地区からの3名のみの報告であるが、同地区では6−9月の間に66,000名以上の急性水様性下痢症患者が発生したことを報告している。同国では非常事態下で検査室診断も殆どなされない状況から察して、この下痢症は恐らくコレラの流行であった可能性が高い。他の国々からも同様に胃腸炎、重症下痢症、夏期下痢症などの名目による流行が報告されているが、これらも公式にはコレラとされていないものの、その疫学パターンはコレラのそれを示唆している。1992年末にインドで突発したベンガルコレラ菌によるコレラは、引き続き西南・東南アジアに限局、コレラ常在地域における発生頻度は検査室診断された患者の15%程度である。現在のところ、本菌が新たな世界的驚異となりうるか否かを判断し得る状況証拠は上がってきていない。

 ヨーロッパでは6か国から計7名の輸入例が報告されたのみで、年間を通して国内における感染例は1例も報告されていない。

 オセアニアではオーストラリア(国内例3名、輸入例2名)とグアム(輸入例1名)の2か国から報告された。グアムを除き太平洋諸島ではコレラフリーに止まっている。

 以上のように、世界の多くの国で疾病伝播阻止に向けた努力が払われてきたにもかかわらず、特にアフリカを中心にコレラは再び増加に転じる兆しを見せている。なお、公式に報告された患者数はコレラ問題の全貌を反映しているものではない。これは、旅行や貿易関連面での不当な制限・制裁に対する危惧、またサーベイランスや報告システムなどの他の問題に起因して報告漏れのあることもその一因である。高リスク地域及び高リスク層におけるコレラ集団発生制圧に貢献し得る効果的公衆衛生手段を見いだすことは、依然今後に残された重要課題となっている。

 

表1 我が国におけるコレラの発生状況

 

年次 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002
輸入事例
国内事例
99(16)
3( 0)
90(16)
24( 1)
341(36)
31( 5)
49( 9)
13( 1)
65( 8)
36(10)
66(12)
7( 0)
45(10)
6( 0)
41(6)
11(1)
33( 9)
11( 4)
27( 7)
22( 7)
合計 102(16) 114(17) 372(41) 62(10) 101(18) 73(12) 51(10) 52(7) 44(13) 49(14)

( ):東京都分再掲

表2 世界のコレラ発生状況(WHO Weekly Epidemiological Record)

 

年次 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002
報告国数
罹患者数
78
376,845
94
384,403
78
208,755
71
143,349
65
147,425
74
293,121
61
254,310
56
137,071
57
184,311
52
142,311

 

多摩支所 微生物研究科 松下 秀

 



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