東京都健康安全研究センター
コレラの発生状況(2003年)

コレラの発生状況(2003年)(第25巻、8号)

 

2004年8月

 


 我が国で2003年(1-12月)に報告されたコレラ患者数は23名(真性患者16名、疑似患者7名)と前年(49名)の半数以下で、最近10年間で最も少なかった(表1)。これらのうち海外旅行者による輸入事例は21件(真性患者14名、疑似患者7名)であった。推定感染国はタイ(6名)、インド(4名)、ベトナム(3名)、インドネシア(2名)、インド・ネパール(2名)、フィリピン(1名)、オーストラリア(1名)、ベトナム・カンボジア(1名)、不明(1名)となっている。一方、海外旅行歴のない国内発生例は真性2件であった。真性患者からの分離コレラ菌の血清型は、輸入事例由来14株では稲葉型が8株、小川型が6株、国内事例由来2株は小川型であった。なお、特記すべき集団発生などは報告されていない。

 次に、WHOの報告(WHO Weekly Epidemiological Record,79(31),2004)に基づき2003年における世界のコレラ発生状況を紹介する。世界全体としては、1961年にインドネシアに始まったエルトールコレラ菌によるコレラの発生が依然続いている。表2に示したようにWHOに発生を報告した国は前年より7か国少ない45か国で、患者数は111,575名、うち死者数は1,894名であった。前年に比べ患者数、死者数とも減少した。世界全体の致死率も1.74%まで減少したが、ハイリスク地域の弱者グループでは最大41%といまだ高率に止まっている。

 アフリカ大陸では29か国から患者数108,067名、死者数1,884名が報告された。前年より患者数は約21%減少、致死率は1.74%と半減した。患者の大半はコンゴ民主共和国、リベリア、モザンビーク及びソマリアでの集団発生に関連したものである。これら4か国での報告患者数は86,790名で、アフリカ全体の80%に当たる。特に重要な発生はリベリアの首都モンロビアでの社会不安時の難民に発生したもので、WHOによって設置された緊急サーベイランスシステムで計34,740名の患者が確認された。しかし、死者数に対する一貫した報告システムが取られなかったため、公式に報告された死者数は38名に止まっている。コンゴ民主共和国からはアフリカ全体の25%に当たる27,272名が報告された。記録された集団発生は74件で、致死率は3.51%であった。南部地域ではアフリカ全体の21%に当たる22,485名の患者が報告された。モザンビークでは13,758名報告されたが、前年(24,375名)より44%減少した。前年32,618名報告されたマラウイでは2,736名に激減、2001年のレベルに戻った。ホルン(角部)に当たる地域では、ソマリアで前年の4倍の11,020名報告されるなど事態は一層深刻化している。ただし、報告された死者数は56名のみで、サーベイランス活動に適用された患者規定に対する疑問を与えるものであった。東沿岸地域では患者数は顕著に減少、タンザニア及びコモロでは計766名と前年の6%にまで減少している。ウガンダでは数件の集団発生が起き、計4,377名の患者が報告された。西部地域ではマリで大きな流行が発生、ニジェール河沿いに伝播しつつあり、8-12月の間に1,455名の患者が確認されている。

 アメリカ大陸で発生報告のあったのは4か国のみで、患者数は33名(死者数0名)であった。国内での発生はエクアドル(25名)、ガテマラ(1名)、カナダ(5名中3名、2名は輸入例)で、アメリカの報告(2名)は輸入例であった。1990年に初めて中南米に上陸、猛威を振るったコレラの流行は著しい減少を見たが、今後もサーベイランスや防圧に対する強力な地域参加体制を継続維持する必要がある。

 アジアでの報告患者数は8か国からの3,463名(死者数10名)で、前年(4,409名)に比し21%減少した。患者数が多かったのはインド(2,893名)、中国(223名)、イラク(187名)及びイラン(96名)であった。イラクのバスラで集団発生があったが、強力な地域参加のもとコレラ特別調査委員会による迅速かつ効果的な対応により成功裡に制圧された。1992年末ベンガル湾沿いに突発したコレラ菌O139(ベンガルコレラ菌)によるコレラは、引き続き東南アジアに限局して発生、コレラ常在地域における発生頻度は検査室診断された患者の15%程度を占めている。中国では、報告患者223名中185名がコレラ菌O139によるもので、17地域(プロビンス)中9地域における検査室確認患者の93%を占めていた。東南アジア諸国においては、今後もサーベイランス時のコレラ診断の際にはO1及びO139両者を対象とした検査を実施することが奨励される。なお、コレラ菌O139が新たな世界的驚異となりうるか否かを判断し得る状況証拠は現在のところ上がってきていない。

 ヨーロッパでは4か国から計12名の輸入例が報告されたのみで、年間を通して国内における感染例は1例も報告されていない。

 オセアニアにおける患者報告は皆無であった。

 

表1 我が国におけるコレラの発生状況

年 次 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003
輸入事例数 90(16) 341(36) 19( 9) 65( 8) 66(12) 45(10) 41( 6) 33( 9) 27( 7) 21( 5)
国内事例数 24( 1) 31( 5) 13( 1) 36(10) 7( 0) 6( 0) 11( 1) 11( 4) 22( 7) 2( 0)
合 計 114(17) 372(41) 62(10) 101(18) 73(12) 51(10) 52( 7) 44(13) 49(14) 23( 5)

( ):東京都分再掲

 

表2 世界のコレラの発生状況(WHO Weekly Epidemiological Record)

年次 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003
報告国数 94 78 71 65 74 61 56 57 52 45
報告患者数 384,403 208,755 143,349 147,425 293,121 254,310 137,071 184,311 142,311 111,575

 

 

多摩支所 微生物研究科 松下 秀

本ホームページに関わる著作権は東京都健康安全研究センターに帰属します ご利用にあたって
© 2023 Tokyo Metropolitan Institute of Public Health. All rights reserved.