東京都健康安全研究センター
ヒスタミン食中毒と微生物

ヒスタミン食中毒と微生物(第26巻、7号)

 

2005年7月

 


1.ヒスタミン食中毒とは?

 ヒスタミン食中毒とは、鮮度が低下したことによりヒスタミンが多く蓄積された魚介類やその加工品を喫食した直後に発生するアレルギー様食中毒で、その多くは集団給食施設や飲食店などで発生している。過去5年間(平成12年から平成16年)に都内で発生したヒスタミンによる食中毒事例を表に示した。都内では毎年数例のヒスタミン食中毒が発生しており、平成16年は2件発生している。ヒスタミン食中毒は原因物質がヒスタミン(化学物質)であるため、わが国における食中毒統計では化学性食中毒に分類されている。しかし実際には、ヒスタミンは魚肉中に多く含まれているアミノ酸の一種である遊離ヒスチジンを原料としてヒスチジン脱炭酸酵素を有する微生物によって生成される。このような生成過程からみると、ヒスタミン食中毒は細菌性食中毒に分類されるべきものとも考えられる。

2.ヒスタミン産生に関与する微生物

 ヒスチジン脱炭酸酵素を有する菌(ヒスタミン産生菌)には、 Morganella morganii (モルガン菌)や Klebsiella oxytoca を代表とする腸内細菌、そして好塩性ヒスタミン産生菌である Photobacterium phosphoreum や P. damselae などが知られている。これらのヒスタミン産生菌が付着した魚介類やその加工品の保存温度が不適切な場合や長期保存した場合には食品中で菌が増殖し、その結果としてヒスタミンが魚肉中に蓄積するため、これらを喫食すると食中毒になる。

 ヒスタミン産生菌のうちモルガン菌を代表とする腸内細菌は主に漁獲後に魚に付着する二次汚染菌と考えられている。一方、もともと海水中に生息している好塩性ヒスタミン産生菌は魚に付着する一次汚染菌として存在している。これらのヒスタミン産生菌には中温域で発育する菌のほかに、10℃以下でも発育する低温性菌が存在するため、低温で流通している魚介類・加工品においても食品衛生上重要視すべき菌である。

3.原因食品

 ヒスタミンが生成される原料となる遊離ヒスチジンは、マグロ、イワシ、サンマなどの青魚(赤身の魚)に多く含まれていることから、本食中毒の原因食品のほとんどは魚介類である。まれに、鶏肉、ハム、チェダーチーズが原因となった例もある。

4.症状

 ヒスタミン食中毒の多くは、喫食直後から1時間程度という短時間で発症する。その症状は舌のしびれ、顔面の紅潮、発疹、吐き気、腹痛、下痢などであるが、症状自体は軽く、通常長くても一日で回復する。

5.予防法

 日本では魚介類の消費量が多いため、諸外国に比べて、ヒスタミン食中毒を起こす機会は多い。それにもかかわらず、食品中のヒスタミンに関する法的規制がなく、厳重な衛生管理が図られていない。これに対して、米国では、すべての水産加工品に対してHACCP(Hazard Analysis and Control Point:危害分析重要管理点)が導入されるなど徹底した衛生管理が行われている。

 ヒスタミンは熱で分解されにくいため、加熱処理により菌は死滅したとしても、一度産生、蓄積されたヒスタミンを取り除くことは困難である。また、ヒスタミンは腐敗により産生されるアンモニアなどと違い、外観の変化や悪臭を伴わないため、食品を喫食する前に汚染を感知し回避することは非常に困難である。喫食中に、唇や舌先にピリピリと刺激を感じた場合は速やかに食品を処分することが大切である。

 ヒスタミン食中毒の予防には、食品の保全に注意を払うことが最も大切である。特に夏の時期、買った魚はその日のうちに食べ、仮に残った場合でも冷蔵庫内での長期保存を避け、速やかに冷凍するよう心がけたい。

 

都内で発生したヒスタミンによる食中毒事例(平成12年から平成16年)

 

発生日 患者数 喫食者数 原因食品 原因施設
平成12年10月 127 427 イワシの蒲焼 集団給食
平成13年 4月 33 906 マグロの照り焼き 飲食店(仕出し)
平成14年 7月 10 38 カジキマグロのムニエル 集団給食
10月 5 17 シイラの照り焼き 飲食店(一般)
平成15年 2月 36 73 カジキの照り焼き 集団給食
平成16年 7月 40 85 カジキマグロのピリカラ漬 集団給食
10月 6 20 秋刀魚のピリ辛揚 飲食店(一般)

( 東京都の食中毒概要:福祉保健局健康安全室食品監視課 )

 

微生物部 食品微生物研究科 柴田幹良

 

 


 

感染症情報センターTOPへ   健康安全研究センターTOPへ」

本ホームページに関わる著作権は東京都健康安全研究センターに帰属します
© 2013 Tokyo Metropolitan Institute of Public Health. All rights reserved.