東京都健康安全研究センター
コレラの発生状況(2005年)

 

コレラの発生状況(2005年)(第27巻、8号)

2006年8月

 


 

 厚生労働省報告(2006年3月31日現在)の2005年における我が国のコレラ報告数は57例(真性患者45例、保菌者2例、疑似患者10例)で、推定感染地域別では海外が45例、国内が11例、不明が1例であった(表1)。

 国内11例は全て真性患者(男性7例、女性4例)で、年齢別では40代1例、50代1例、60代5例、70代2例、80代2例であった。疫学的に関連性が認められる事例はなく、全て散発事例と思われた。発症月をみると、従来国内での感染は7〜9月の夏季に多発する傾向であったが、2005年は1月の発症者が4例と最も多く、7〜9月は1例のみであった。分離コレラ菌の血清型は全てO1小川型であった。

 海外を推定感染地とする輸入事例(真性患者33例、保菌者2例、擬似患者10例)のうち、擬似患者を除く35例(男性32例、女性3例)の年齢は、20代4例、30代8例、40代8例、50代7例、60代7例、70代1例であった。推定感染国は2004年に引き続きフィリピンが17例と最も多く、ついでインドネシア9例、インド4例、台湾2例、パキスタン2例、ミャンマー1例であり、全てアジア地域であった。フィリピンでは9〜12月の発症者が多く、インドネシアでは5月の発症者が多かった。なおインドネシアでの9例は、全てバリ島での感染と推定されている。分離コレラ菌の血清型はO1小川型29例、O1稲葉型6例であった。O139コレラ菌による感染例は報告されていない。

 次に、WHOの報告「WHO Weekly Epidemiological Record,81(31),2006」に基づき2005年における世界のコレラ発生状況を紹介する。世界全体としては、1961年にインドネシアに始まったエルトールコレラ菌によるコレラの発生が依然続いている。表2に示したようにWHOに発生を報告した国は前年より5か国少ない51か国、患者数は131,943名で、うち死者数は2,272名であった。前年に比べ患者数は30%増加したが、死者数は全体的に減少、そのため致死率も前年の2.31%から1.72%にまで減少した。ただし、致死率が5%を超えた国も相当数にのぼり、ハイリスク地域に居住する弱者グループでは40%近くにも達したところも見られた。なおWHOでは、世界41か国で発生した64件の急性下痢症集団発生事例の確認作業に関与、そのうち36か国の49件はコレラと確認された。これらの75%はアフリカ大陸での発生であったが、中央アジアでも数か国が影響を受けた。

 アフリカ大陸では、31か国から前年より31%多い患者数125,082名が報告され、世界全体の95%を占めた。死者数は前年に比べ若干減少し2,230名、致死率は1.8%であった。

 アメリカ大陸で発生報告のあったのは3か国で、患者数は24名であった。ブラジルからの5名の他は、中央および南アメリカからの報告はなかった。カナダからは7名の輸入例が、米国からはハリケーン「カトリ−ナ」に関連した4名と、8名の輸入例が報告された。1991年に初めて中南米に上陸、猛威を振るったコレラの流行は、アメリカ大陸では著しい減少を見たが、今後もサーベイランスや防圧に対する強力な地域参加体制を継続維持する必要がある。

 アジアにおける発生は増加が続き、報告患者数は9か国からの6,824名に達し、前年に比べ18%増加した。死者数は37名であった。報告数が多いのはインド(3,155名)、インドネシア(1,338名)、イラン(1,133名)、中国(980名)であった。なお、中央アジアでは数件の集団発生に見舞われたが、患者は急性水様性下痢症と報告されていることが多く、そのため公式に報告される患者数に反映されない事実がある(例えば、アフガニスタンのコレラ患者報告数は33名のみであったが、WHOの規定ではコレラとみなされる急性水様性下痢症患者が全国26県から150,000名以上に及んでいた)。

 ヨーロッパからは、オランダ(4名)、ベルギー(2名)など、6か国から計10名の輸入例が報告されたのみで、国内における感染例は報告されていない。

 オセアニアにおける報告は、オーストラリアから2名、ニュージーランドから1名、いずれも輸入例であった。

 1992年ベンガル湾沿いに突発したO139コレラ菌による報告は中国からのみであった。それによると、コレラ発生を報告した19県のうち15県でO139が検査室確認され、コレラと確認された糞便材料の35%を占めている結果であった。O139コレラ菌は次期パンデミックの原因となる恐れがあるため、WHOでは東南アジア諸国でコレラを診断する際には、O1及びO139両者を対象とした検査を実施するよう奨励している。

 多くの国でコレラ拡散防止に対しての努力が払われてきているが、コレラや他の下痢性疾患の集団発生リスクが高い、不衛生な条件下で生活している弱者人口の割合がこれまでになく増加していることは大きな脅威である。このことに関しては、環境管理の改善、適切な経口ワクチンの使用といった効果的な公衆衛生における介入策を実行に移すことが重要である。

 なお、ここに述べたWHOへの公式報告患者数は、不十分な報告、用いられた患者規定の矛盾、標準用語の欠如などサーベイランスシステムの限界などもあって、実際の発生数をかなり下回っているものと推測される。また、前述したようにWHO規定ではコレラに合致するにもかかわらず、急性水様性下痢症として扱われる患者も相当数に達している。

表1 我が国におけるコレラの発生状況

年次 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005
輸入事例数 49( 9) 66( 8) 68(12) 45(10) 41( 6) 38( 9) 27( 7) 21( 5) 71(10) 45(11)
国内事例数 13( 1) 36(10) 7( 0) 6( 0) 11( 1) 12( 4) 22( 7) 2( 0) 11( 2) 11( 2)
合計 62(10) 102(18) 75(12) 51(10) 52( 7) 50(13) 49(14) 23( 5) 82(12) 57*(13)

                               ( ):東京都分再掲 *感染地不明1例を含む

表2 世界のコレラの発生状況(WHO Weekly Epidemiological Record)

年次 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005
報告国数 71 65 74 61 56 57 52 45 56 51
患者数 143,349 147,425 293,121 254,310 137,071 184,311 142,311 111,575 101,383 131,943
死者数 6,689 6,274 10,586 9,175 4,908 2,728 4,564 1,894 2,345 2,272
致死率(%) 4.66 4.25 3.61 3.6 3.58 1.48 3.2 1.69 2.31 1.72

多摩支所 微生物研究科 松下 秀

 


 

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