東京都健康安全研究センター
2005年の東京都感染症流行予測調査におけるジフテリア抗体保有状況

2005年の東京都感染症流行予測調査におけるジフテリア抗体保有状況(第27巻、12号)

2006年12月

 


 

 ジフテリアの予防接種は1948年から開始され、その後ワクチンが改良されて、1964年にはジフテリア(D)百日咳(P)破傷風(T)の3種混合ワクチンが集団接種で用いられるようになった。1994年の予防接種法の改正により、現在は個人毎の定期接種として勧奨されており、第1期として生後3〜90ヶ月(標準的には3〜12ヶ月)の間に3回接種し、その12〜18ヶ月後に1回追加接種し、さらに第2期として11〜12歳児を対象に、百日咳を除いたDT二種混合ワクチンの接種が行なわれている。

 東京都ではこれまで、ワクチン接種のフォローアップとして、感染症流行予測事業により0歳から15歳までの小児を対象に抗体保有状況調査を行ってきた。 表に2000年から2004年までの成績を示したように、小児におけるワクチン接種率は90%を超える高さであり、混合されている3病原体に対する感染防御抗体が、ほぼ一定の抗体保有率で維持されている。このことにより、これら3感染症ともに集団感染や大きな流行は防ぐことが出来ていると考えられている。

 2005年からは、その調査対象を広げ、10ヶ月の乳児から64歳までの全年齢層を対象として抗体保有状況を調査した。図には2005年の調査成績のうちジフテリア菌毒素抗体の保有状況を年齢階層別に示した。感染防御レベル0.1 IU/ml以上の抗体保有率は、小児では例年と同等であったが、20歳代および30歳代で約55%、40歳代で約30%、50歳代では12%と年齢階層が高くなるに従って低下している。また、1.0 IU/ml以上の比較的高い抗体価を保有している割合も20歳代では18%あったが、30歳代以上では保有する例はなかった。さらには、DPTによる集団接種が開始された頃に生まれた40歳代でも35%が、50歳以上では69%が検出感度以下であった。

 ジフテリア症は、ジフテリア菌( Corynebacterium diphtheriae )の感染によっておきる二類の呼吸器感染症である。最近の国内での発生状況は1999年の死亡例と1999年および2000年に疑似症が各1例報告されて以降報告されていない。一方、最近になってジフテリア毒素産生能を持つ、近縁菌のウルセランス菌( Corynebacterium ulcerans )による感染症の発生が千葉県で2001年と2002年に確認され、厚生労働省は2002年に「コリネバクテリウム・ウルセランスによるジフテリア様症状を呈した患者に対する対応について」を通知し注意を呼びかけた。その後、このジフテリア毒素産生性ウルセランス症は、2005年に岡山県と大分県1例ずつ、2006年に神奈川県で1例発生し、千葉県で2001年および2002年に発生した事例をあわせて計5例となった。患者の年齢は全例50歳代である。

 ウルセランス菌は、ウマやウシなどの牧畜の常在菌であり、生の乳製品を喫食することで感染することが知られている人畜共通感染症の起因菌である。ジフテリア毒素産生能を獲得したウルセランス菌がヒトに感染するとジフテリア様臨床症状を呈する。ウルセランス感染者においてもジフテリア菌毒素抗体価の測定や、ジフテリア抗毒素血清の投与が有効とされている。生牛乳からの感染以外に、イギリスからは乗馬学校の関係者複数の発症が、オランダではネコを飼育していた例、フランスからはイヌも感染源となる可能性が報告されている。国内の5症例のうち3例については、ネコまたはイヌの飼育を行なっていたことが判っている。これらの3症例に動物が関与していたかの確認は、ヒトの発症が動物の死後であったり、そのほかの理由で困難であったとのことであるが、ウルセランス菌が人畜共通感染症の起因菌であることからペットから感染する可能性はあり、注意を喚起する必要があろう。このように現在ジフテリア症は、国内では疑似症またはウルセランス症の発生に留まっているが、旧ソビエト地域(現NIS諸国)や開発途上国ではまだ発生が継続しており警戒が必要な状況といわれている。海外への渡航時には注意が必要である。このようなことからもDPTワクチン接種で小児期に予防接種を受け免疫を獲得した後も、適時DTワクチンによる追加接種を受け、感染防御レベル以上の抗体価を維持することが望ましいと言えよう。

参考文献

◇WORLD FOCUS №66 2005年1月15日 バイオメディカルサイエンス研究会
◇病原微生物検出情報 月報 Vol.27 №322 P331〜333 2006年12月
 国立感染症研究所 厚生労働省健康局
◇病原微生物検出情報 IASRホームページ

 

表 小児における感染防御レベル以上の抗体保有率(%)

  感染防御レベル 2000年 2001年 2002年 2003年 2004年
抗百日咳毒素抗体 10 IU/ml 以上 53.6 37.3 57.2 58.2 59.9
ジフテリア毒素抗体 0.1IU/ml 以上 86.6 89.2 87.3 83.6 86.0
破傷風毒素抗体 0.01IU/ml 以上       96.4  
ワクチン接種率(%) 98.1 95.6 92.4 95.3 93.8

 

 

微生物部 病原細菌研究科 伊瀬 郁

 


 

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