東京都健康安全研究センター
チクングニヤ熱の発生状況と検査体制の整備

 

チクングニヤ熱の発生状況と検査体制の整備(第28巻、2号)

2007年2月

 


 

1 世界における発生状況

チクングニヤ熱(以下CHIK熱)は、トガウイルス科アルファウイルス属に分類されるチクングニヤウイルス(以下CHIKV)の感染によって起こる発熱、関節炎、発疹を主症状とする熱性疾患である。CHIKVは1953年に東アフリカの有熱患者の血液から初めて分離されたウイルスで、「チクングニヤ」の名称は、患者が重症の関節痛を呈し、「前屈みになって歩く」という意味の現地語に由来している。

 

 

 CHIKVは、蚊が媒介することによってヒトに感染する。主な媒介蚊は、ネッタイシマカ及びヒトスジシマカであり、これらの蚊が生息するアフリカ及びアジア地域には以前からCHIKVが常在し、それぞれの地域においてCHIK熱の小流行が繰り返し起きていた(図1右図)。2005年初めにコモロ島で起きたCHIK熱の流行は、その後2006年にかけて、モーリシャス、レユニオン、セイシェル及びマヨット島等に拡がり、南西インド洋地域における大流行となった(図1左図)。特に、 人口約77万人のレユニオン島では26万4千人の疑い例患者が発生し、このうち237人の死亡が報告されている。この南西インド洋地域におけるCHIK熱の流行は、2006年にはインド、スリランカにまで拡大し、インドでは125万人以上、スリランカでは3万7千人の疑い例患者が報告されている。また、マレーシアにおいても流行が報告されている(表1)。

 

 

 なお、CHIKVの常在地域とその地域において流行するCHIKV遺伝子型(西アフリカ型、中央アフリカ型、東/南アフリカ型及びアジア型等)は、地域特異性があることが確認されている(図2)。2005年から2006年にかけてレユニオン島などの南西インド洋地域で流行したCHIKVは、それまで東/南アフリカに常在していた遺伝子型(東/南アフリカ型)に類似のインド洋型であった。また、インドにおける2006年の流行においいても、2000年以前のアジア型による流行ではなく、インド洋型による流行であったことが確認されている。しかしながら、2006年のマレーシアにおける流行は、過去の流行と同様、アジア型による流行であったことが確認されており、マレーシアでの流行は、地域に常在しているウイルスの再興によるものであったと考えられている。

2 CHIK熱の輸入例

 南西インド洋地域での流行に併せて、流行地域に渡航し帰国後発病する、いわゆるCHIK熱の輸入例患者もフランス、ドイツ、カナダ、スペイン、アメリカ、イギリス、ベルギー、オーストラリア、台湾等から報告されている。

 日本においても、2006年12月に一時帰国したスリランカ在住の30歳代女性1例及び2006年11月にスリランカへ渡航し、12月の帰国後に発病した50歳代女性1例、計2例の患者発生が確認されている。症状は、1例目では40℃の発熱、頭痛、歩行困難な程度の関節痛、白血球減少、血小板減少、解熱後の発疹を呈し、2例目では40℃の発熱、関節痛、鼻出血、発疹を呈した。

 CDC及びECDCによると、CHIK熱の症状は、表2に示したように発熱と関節痛は全例に、発疹は8割程度にみられることが報告されている。特に関節痛の好発部位は手首、足首、指など四肢の遠位であり、関節腫脹を伴う場合もある。これらの症状は、感染症法の四類感染症であるデング熱と類似しているため、流行地域から帰国後の熱性疾患の患者に対しては、CHIK熱の診断のためだけでなくデング熱の鑑別診断としてもCHIKV検査が必要である。

 

 

3 当センターにおける検査体制

 当センターでは、CHIK熱の診断とデング熱の鑑別診断のため、遺伝子検査によるCHIKV検査体制を整備した。遺伝子検査は、RT-PCR法及びリアルタイムPCR法によって行い、RT-PCR法ではnsP1領域及びE1領域を標的とした長谷部ら(2002年)のプライマーを、リアルタイムPCR法ではE1領域を標的としたPastorinoら(2005年)のプライマー及びプローブを用いて実施している(表3)。また、これらの遺伝子検査については、CHIKVのRNAのみが検出できることを確認している。

 

 

4 ウイルス媒介蚊対策の必要性

 2005年から2006年にかけての南西インド洋地域におけるCHIK熱の流行においては、ヒトスジシマカが主要な媒介蚊となった。ヒトスジシマカの生息地域は拡大傾向にあり、アジア、アフリカのみならず、北米、ヨーロッパにおいても生息が確認されている。日本においても東北地方で生息が確認されており、これ以南の全国に生息している(図2)。CHIK熱の輸入例患者がヒトスジシマカの活動する夏季に発生した場合には、蚊を介してヒトに感染が拡がることも考えられる。このため、CHIK熱は感染症法による監視対象疾患ではないものの、デング熱と同様に注意が必要であろう。

微生物部 ウイルス研究科 田部井 由紀子

 


 

感染症情報センターTOPへ   健康安全研究センターTOPへ」

本ホームページに関わる著作権は東京都健康安全研究センターに帰属します
© 2013 Tokyo Metropolitan Institute of Public Health. All rights reserved.