東京都健康安全研究センター
東京都において分離された赤痢菌およびサルモネラの菌種・血清型および薬剤感受性について

東京都において分離された赤痢菌およびサルモネラの菌種・血清型および薬剤感受性について(第28巻、11号)

 

2007年11月

 


 2006年に東京都健康安全研究センター並びに都・区検査機関等で分離された赤痢菌とサルモネラについて、当所で実施した菌種・血清型別試験および薬剤感受性試験の成績について、その概略を紹介する。

 供試菌株は、都内の患者とその関係者および保菌者検索事業によって分離された赤痢菌29株(海外旅行者由来19株を含む)とサルモネラ119株(海外旅行者由来23株を含む)である。

 血清型別は、常法により行った。薬剤感受性試験は、米国臨床検査標準化協会(CLSI:Clinical and Laboratory Standards Institute, 旧NCCLS)の抗菌薬ディスク感受性試験実施基準に基づき、市販の感受性試験用ディスク(センシディスク;BD)を用いて行った。供試薬剤は、クロラムフェニコール(CP)、テトラサイクリン(TC)、ストレプトマイシン(SM)、カナマイシン(KM)、アンピシリン(ABPC)、スルファメトキサゾール・トリメトプリム合剤(ST)、ナリジクス酸(NA)、ホスホマイシン(FOM)、ノルフロキサシン(NFLX)およびセフォタキシム(CTX)の10剤である。NA耐性株についてはE-test(アスカ純薬)を用いてシプロフロキサシン(CPFX)、レボフロキサシン(LVFX)、オフロキサシン(OFLX)、NFLXの4種類のニューキノロン系薬剤に対する最小発育阻止濃度(MIC:μg/ml)を測定した。また、CTX耐性の菌株については、Extended-spectrum β-lactamase (ESBL)産生菌であることを疑い、セフポドキシム(CPDX)、セフタジジム(CAZ)、セフトリアキソン(CTRX)、アズトレオナム(AZT)、セフォタキシム(CTX)およびアモキシシリン・クラブラン酸合剤(AMPC/CVA)の感受性試験用ディスク(BD)を用いたDouble disk synergy testにより、クラブラン酸によるβ-ラクタマーゼ活性阻害の有無を確認した。

 赤痢菌およびサルモネラの菌種・血清群および耐性菌の出現頻度を表に示した。

 赤痢菌29株の菌種別内訳は、フレキシネル菌7株(海外5、国内2)、ボイド菌1株(海外)、ソンネ菌21株(海外13、国内8)で、ディセンテリー菌は検出されなかった。いずれかの薬剤に耐性を示したものは27株(93.1%)で、その薬剤別耐性頻度は、TC(93.1%)、SM(89.7%)、ST(89.7%)、NA(55.2%)、ABPC(51.7%)、CP(10.3%)、NFLX(6.9%)、CTX(3.4%)の順であった。耐性パターンは9種に分かれ、ソンネ菌20株では「TC・SM・ABPC・ST・NA」 (9株)、「TC・SM・ST」(7株)が主要なものであった。フレキシネル菌は多剤耐性菌が多く、7株のうち2株は「CP・TC・SM・ABPC・ST」、その他5株はそれぞれ、「CP・TC・SM・ABPC・ST・NA・NFLX」、「TC・SM・ABPC・ST・NA」、「TC・SM・ST・NA・NFLX」、「TC・SM・ABPC・ST」、「TC・SM・ST」であった。ボイド菌1株は、供試薬剤のいずれにも感受性であった。

 NA耐性を示した16株(海外10、国内6)について、ニューキノロン系薬剤に対するMICを測定した結果、2株は耐性(CPFX:8〜12μg/ml、LVFX:6〜8μg/ml、OFLX:≧32μg/ml、NFLX:24〜32μg/ml)を示し、残る14株は低感受性であった。耐性の2株は、フレキシネル2aおよびフレキシネル3aで、ともにインドからの帰国者から検出されたものである。

 CTX耐性はソンネ菌1株に認められ、中国からの帰国者から検出された。薬剤耐性パターンは「TC・SM・ABPC・ST・NA・CTX」で、Double disk synergy testの結果、クラブラン酸によるβ-ラクタマーゼ阻害効果が認められ、ESBL産生性が示唆された。さらにPCR法においてもTEM型とCTX-M-9型遺伝子の保有が認められたことから、ESBL産生菌であることが確認された。

 ESBL産生菌は、グラム陰性桿菌が第三世代セフェム系抗生物質をも分解するβ-ラクタマーゼを産生するようになったもので、 Klebsiella pneumoniae や Escherichia coli などで多く報告され、その拡大が問題視されている。赤痢菌については、国内では千葉県で海外旅行下痢症患者から初めて分離した事例(国立感染症研究所・病原微生物検出情報 27巻,264-265頁,2006年)および大阪府の保育施設での集団発生事例(同28巻,45-46頁,2007年)が報告されている(ともにソンネ菌)。

 チフス菌15株(海外14、国内1)については、海外由来チフス菌14株中、NA単剤に耐性のものが4株、「CP・TC・SM・ABPC・ST・NA」の6剤耐性が3株、「SM・NA・FOM」の3剤耐性が1株、「NA・FOM」の2剤耐性が1株であった。国内由来1株は供試薬剤全てに感受性であった。パラチフスA菌7株は全てが海外由来で、その耐性パターンは「NA・FOM」(4株)、NA単剤(2株)、FOM単剤(1株)であった。また、チフス菌およびパラチフスA菌のうち、NA耐性を示した15株は全てニューキノロン系薬剤に低感受性であった。

 一方、チフス菌・パラチフスA菌以外のサルモネラ97株のO群別内訳は、O4群29株(29.9%)、O7群24株(24.7%)、O9群16株(16.5%)、O8群14株(14.4%)、O3,10群8株(8.2%)、O1,3,19群3株(3.1%) 、O16群、O18群およびO群不明が各1株(1.0%)であった(表)。O4群、O7群、O9群およびO8群で全体の85.6%を占めた。また、主要血清型は S. Enteritidis(O9群,15株)、 S. Brandenburg(O4群,8株)、 S. Agona(O4群,6株)、 S. Thompson(O7群,6株)、 S. Virchow(O7群,6株)であった。

 サルモネラ97株中24株(24.7%)が耐性株で、例年とほぼ同様の耐性頻度であった(前年は27.7%)。各薬剤に対する耐性頻度は、SM(16.5%)、TC(12.4%)、ST(5.2%)、NA(5.2%)、KM(4.1%)、ABPC(4.1%)、CP(3.1%)、NFLX(1.0%)であった。薬剤耐性パターンは12種で、SM単剤(7株)、「TC・SM」(4株)が主要なものであった。なお、FOMおよびCTX耐性株は認められなかった。O群別の耐性頻度では、O9群(62.5%)、O8群(35.7%)およびO4群(20.7%)が高かった。血清型からみると、 S. EnteritidisではSM単剤耐性(33.3%)が最も多かった。注目すべき点として、国内由来のNFLX耐性 S. Typhimuriumが1株認められた。NFLX耐性株としては1988年の調査開始以来、3株目である。この菌株の薬剤耐性パターンは「CP・TC・SM・ABPC・ST・NA・NFLX」の7剤耐性で、ニューキノロン系薬剤に耐性(MICはCPFX:8μg/ml、LVFX:12μg/ml、OFLX:≧32μg/ml 、NFLX:24μg/ml)を示した。

 

赤痢菌およびサルモネラの薬剤耐性菌の出現頻度(2006年:東京)

菌種・血清群 供試株数(%) 耐性株数(%)*
赤痢菌 29 (100.0) 27 (93.1)
 フレキシネル 7 (24.1) 7 (100.0)
 ボイド 1 (3.4) 0 (0.0)
 ソンネ 21 (72.4) 20 (95.2)
チフス菌 15   9 (60.0)
パラチフスA菌 7   7 (100.0)
その他のサルモネラ 97 (100.0) 24 (24.7)
 O4群 29 (29.9) 6 (20.7)
 O7群 24 (24.7) 3 (12.5)
 O8群 14 (14.4) 5 (35.7)
 O9群 16 (16.5) 10 (62.5)
 O3,10群 8 (8.2) 0 (0.0)
 O1,3,19群 3 (3.1) 0 (0.0)
 O16群 1 (1.0) 0 (0.0)
 O18群 1 (1.0) 0 (0.0)
 O群不明 1 (1.0) 0 (0.0)

 

*供試薬剤(10種類)のいずれかに耐性を示した菌株

 

 

微生物部 食品微生物研究科 腸内細菌研究室

 


 

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