東京都健康安全研究センター
コレラの発生状況(2007年)

コレラの発生状況(2007年)(第29巻、8号)

2008年8月


 

我が国における発生状況

 

 コレラは感染症法の改正(2007年4月施行)で、2類感染症から3類感染症に変更され、患者及び無症状保菌者が届出対象となり、擬似症患者は対象外となった。

 国立感染症研究所感染症情報センター報告(2008年5月17日現在)の2007年における我が国のコレラ報告数は、真性患者12例及び疑似症患者1例(3月の診断分)の13例で、推定感染地域別では国内が4例、海外が9例であった(表1)。死亡例の報告はなかった。報告数の減少は、検疫法改正によりコレラが検疫感染症から除外され、2007年6月以降は、原則的に検疫所で検査が実施されなくなったことを反映していると考えられる。

 国内4例は全て真性患者(男性3例、女性1例)で、年齢群別では、30代、50代、60代及び70代がそれぞれ1例であった。疫学的に関連性が認められる事例はなく、全て散発事例と思われた。発症月は1月、7月、8月、12月で、分離コレラ菌の血清型はいずれもO1小川型であった。
海外を推定感染地とする輸入例のうち、擬似症患者を除く8例(男性4例、女性4例)の年齢群は、30代1例、50代3例、60代2例、70代2例であった。推定感染国はインドが4例で、フィリピン1例、タイ1例、パキスタン1例、米国1例であった。分離コレラ菌の血清型を推定感染国別にみると、インドではO1稲葉型3例とO1小川型1例、タイ及びフィリピンはO1 小川型、パキスタン及び米国はO1 稲葉型であった。

世界の発生状況

 

 WHOの報告「WHO Weekly Epidemiological Record,83(31),2008」に基づき2007年における世界のコレラ発生状況を紹介する。世界全体としては、1961年にインドネシアに始まったエルトールコレラ菌によるコレラの発生が依然続いている。表2に示したようにWHOに発生を報告した国は前年より1か国多い53か国、患者数は177,963名で、うち死者数は4,031名であった。前年に比べ患者数は25%減少、死者数は36%の減少であった。致死率(報告患者数に対する割合)は前年の2.67%から2.27%と若干低下した。

 アフリカ大陸では、34か国から前年より29%少ない患者数166,583名が報告され、これは世界全体の94%を占める。死者数は3,994名、致死率は2.40%であった。特にアンゴラ、コンゴ民主共和国、エチオピア、ソマリア及びスーダンからの報告数が多く、この5か国でアフリカ大陸全体の76%を占めていた。

 アメリカ大陸で発生報告のあったのはカナダと米国で、前者からは1名の輸入例が、後者からは7名報告、そのうち4名は輸入例であった。中央及び南アメリカからの報告はなかった。1991年に初めて中南米に上陸、猛威を振るったコレラの流行は終息しているが、今後もサーベイランスや防疫に関して強力な地域参加体制を継続維持する必要がある。

 アジアにおける報告患者数は、前年の4.6倍にあたる11,325名で、死者数は37名、致死率は0.33%であった。8か国から報告されており、多いのはイラク(4,696名)、インド(2,635名)、べトナム(1,946名)、タイ(1,428名)であった。

 ヨーロッパからは、英国(32名)、フランス(4名)、ドイツ(2名)、スペイン(2名)など、8か国から計44名が報告されているが、いずれも輸入例であった。

 オセアニアにおける報告は、オーストラリアからの輸入例3名だけであった。

 1992年ベンガル湾沿いに突発したO139コレラ菌による報告は中国とタイからあった。それによると、中国では発生数の41%、タイでは0.4%が血清型O139と検査室確認されている。WHOでは、O139コレラ菌は次期パンデミックの原因となる恐れがあるため、コレラを診断する際はO1及びO139両者を対象とした検査を実施するよう奨励している。

 なお、WHOでは、世界で発生した53件の急性下痢症集団発生事例の確認作業に関与、そのうち32か国の45件はコレラと確認された。これらの38事例はアフリカ大陸、他はアジアでの発生であった。

 コレラは多くの国で拡散防止の努力が払われてきているが、各種疾病の集団発生リスクが高い不衛生な条件化での生活を強いられている弱者層にとっては、今もって大きな脅威である。このことに関しては、環境管理の改善、適切な経口ワクチンの使用など、効果的な公衆衛生上の介入策を実行に移すことが重要である。

 ここに述べたWHOからの公式報告数は世界的なコレラの状況をよく示していると思われる。しかし、国あるいは地域によっては、未あるいは不十分な報告、また用いられているサーベイランスシステムの限界などもあって、実際の発生数を必ずしも反映したものではない。

 

表1 我が国におけるコレラ発生状況

年次 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007
輸入事例数 68(12) 45(10) 45( 6) 38( 9) 29( 7) 20( 5) 74(10) 44(11) 37( 8) 9( 2)
国内事例数 7( 0) 6( 0) 12( 1) 12( 4) 20( 7) 3( 0) 11( 2) 11( 2) 8( 0) 4( 1)
合計 75(12) 51(10) *58( 7) 50(13) *51(14) *24( 5) *86(12) *56(13) 45( 8) 13( 3)

                               ( ):東京都分再掲 *感染地不明を含む

表2 世界のコレラの発生状況(WHO報告より)

年次 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007
報告国数 74 61 56 57 52 45 56 51 52 53
患者数 293,121 254,310 137,071 184,311 142,311 111,575 101,383 131,943 236,896 177,963
死者数 10,586 9,175 4,908 2,728 4,564 1,894 2,345 2,272 6,311 4,031
致死率(%) 3.61 3.6 3.58 1.48 3.21 1.70 2.31 1.72 2.67 2.27

多摩支所 食品衛生研究科 松下 秀

 


 

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