東京都健康安全研究センター
2008年シーズンにおけるRSウイルス感染症の流行について

2008年シーズンにおけるRSウイルス感染症の流行について(第30巻、2号)

 

2009年2月


 RS(アールエス)ウイルスは、RNAを遺伝子とするウイルスの一種で、パラミクソウイルス科に属し、乳幼児の気管支炎や肺炎の原因となることが知られている。パラミクソウイルス科のウイルスは他に麻しんウイルス、ムンプスウイルス、パラインフルエンザウイルスが知られており、近年では乳幼児にRSウイルスと同様の呼吸器疾患を引き起こすヒトメタニューモウイルスが新たに発見されている。RSウイルス(RSV)という名称の起源は、Respiratory Syncytial Virusの略で、呼吸器(Respiratory)感染症を起こし、培養細胞においてSyncytiumと呼ばれる多核巨細胞を作る特徴を持つウイルスであることから命名された。

 RSVによる感染は乳幼児に多く、4〜6日間の潜伏期の後、鼻汁、発熱、咳等の上気道炎症状を呈する。新生児は、1回目の冬に約半数がRSVに感染し、2回目の冬にほぼ全員がRSVの抗体を獲得するといわれている。初回の感染時には患者の約30%が下気道炎症状を起こすとされるが、年齢を重ね、再感染を繰り返す毎に症状は軽度となり、年長児や成人では風邪症状を呈するのみとなる。母体からの移行抗体が存在する時期にも感染は成立し、特に移行抗体の残存する生後6ヶ月以内の乳幼児において重症化しやすく、生後2ヶ月以内の乳児においては無呼吸を呈する非定型的な症状による突然死が見られる場合も報告されており注意が必要である。また、早産や基礎疾患として心肺系統や免疫系統の障害を持つ患者は高リスク群とされRSVの感染による重症化が懸念される。

 RSV感染症の診断は、従来ウイルス分離や血清診断が用いられてきた。しかし、RSVは凍結融解等の温度変化で死滅しやすい不安定なウイルスのため分離検査は難しく、また血清診断においても患者が乳幼児の場合や、再感染時には有意な抗体の上昇が見られない場合があることから、RSV感染症の診断には遺伝子検出法による検査が有効である。また、近年ではイムノクロマト法を応用した簡易検査キットが数社から発売され、短時間で診断が可能となった。一般にRSVは不顕性感染や潜伏感染はないとされており、呼吸器系感染症患者からRSVが検出されればRSV感染症との診断が可能である。

 RSVの感染経路には、飛沫感染と接触感染があるが、患者の唾液や痰によって汚染された手指や衣類、玩具などによる接触感染が主な感染経路とされており、それが眼瞼や鼻咽頭の粘膜に触れることで感染が成立する。したがって、予防にはマスクの着用や手洗いの励行が有効であり、消毒には消毒用アルコール、次亜塩素酸ナトリウム、ポビドンヨードなどが有効である。
日本では平成15年11月の感染症発生動向調査実施要項の一部改正に伴って、RSウイルス感染症が五類感染症の定点把握対象疾病に加えられ、全国的な集計が開始された。東京都では平成12年度から遺伝子検出法(PCR法)によるRSV感染症の発生状況調査を継続して行っている。その検査結果を図1に示す。

 RSVは毎年大小様々な流行を繰り返しているが、2008年のRSV遺伝子検出数は検査を始めた2000年4月以降過去最高の122件となり、2番目に多かった2007年の55件に比べても倍以上の検出数を記録した。

 
図1.東京都におけるRSV遺伝子検出状況(2000年4月〜2008年12月) 

 東京都における過去5年間の月別RSV遺伝子検出状況を図2に示す。RSV感染症の流行は一般に9月頃から始まり、12月付近でピークを迎え3月から4月頃まで続くことが多い。しかし、近年は流行の開始時期が早まる傾向にあり、7月の時点で流行の兆しが見え始める事も多い。さらに2008年シーズンにおいては流行の始まりは前年と同じく7月であったが、10月、11月において例年になく早い時期に流行のピークを示し、通常であれば流行のピーク時期である12月にはすでにRSV遺伝子検出数は減少がみられた。

 
図2.東京都における過去5年間のRSV月別検出状況(2004年1月〜2008年12月) 

 2008年シーズンの流行におけるRSV遺伝子検査陽性患者122人の平均年齢は1.3歳で、1歳以下37人(30.6%)、1歳44人(36.4%)、2歳12人(9.9%)、3歳19人(15.7%)、4歳以上6人(5.0%)、年齢不明3人(2.5%)であった。各年齢階層による男女比を図3に示す。一般にRSV患者の性比は男児が女児より高いとされ、1歳未満の年齢階層においては、男児患者26人に対し女児患者11人と男児の患者数が有意に高かったが、それ以外の年齢階層では女児の患者数の方が若干高い傾向がみられた。

 

 
図3.RSウイルス感染症患者の年齢構成と性別(2008年1月〜2008年12月) 

 RSVの遺伝子検出数は2008年において過去最高となったが、同時に流行のピークが例年よりも早くなるという変化や男女比において1〜3歳児においては女児の感染比率が男児を上回るなどの変化が見られた。これらの変化が一時的なものなのか持続的な変化なのかを含め、今後もこの調査を継続し同ウイルスの変化の監視し続ける必要があると思われる。

 

微生物部 ウイルス研究科 長谷川 道弥

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