東京都健康安全研究センター
腸管出血性大腸菌感染症・食中毒の発生状況および分離菌株の疫学解析成績(平成20年)(第30巻、4号)

腸管出血性大腸菌感染症・食中毒の発生状況および分離菌株の疫学解析成績(平成20年)(第30巻、4号)

 

2009年4月


 平成20年の全国における腸管出血性大腸菌(EHEC)感染症の届出数は4,330件で,平成19年の4,617件に続いて2年連続で4,000件を越えた(感染症発生動向調査)。

 東京都における届出数は409件で,平成19年の476件と比較してやや減少したものの,依然として400件を越える状況であった。これは,7月〜9月の間に多摩地域2市内3カ所の保育園でEHEC O26(VT1産生)による集団感染事例(詳細は当センターホームページ参照)が,10月に区部保育園でO111(VT1+VT2産生)による集団感染事例が発生したためである。

 当研究センターでは,EHECを原因とする散在的集団発生(Diffuse outbreak)等の迅速な発見と感染拡大の防止を目的として,都内の病院および検査センターで分離され,保健所を通じて搬入された菌株および当センターで分離された菌株について,薬剤耐性パターンやパルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)法等の疫学マーカーを用いた解析を行ない,その成績を食品監視課および保健所へ還元している。

 感染症法の改正(平成19年)に伴い,昨年度から菌株の輸送方法が大幅に変更されたため,菌株の収集が困難になることが懸念されていた。東京都では,菌株輸送用容器を各保健所に配布し,病院等で分離された菌株を直接当センターに郵送するルートを整備してきた。平成20年に搬入された菌株および当センターで分離したEHEC株は378株(同一人から複数回検出された場合は1株のみ計上)であった。関係各位の協力により,例年と比較しても収集菌株数に変化はなかった。

 分離・搬入された菌株の血清型はO157が232株(61.3%),O26が73株(19.3%),O111が44株(11.6%)と上位3血清型で全体の92.2%を占めていた。その他,O103およびO145が6株(1.6%),O121が5株(1.3%),O55およびO115が各2株(0.5%),O63,O91,O119,O128,O165が各1株(0.3%),血清型別不能が3株(0.8%)であった(表1)。

 EHEC検出者の喫食調査および細菌検査によって食品媒介であることが推定され,行政的に食中毒と確定される事例は毎年非常に少ない。平成20年に食中毒事例と確定したのは3事例のみであった。これら3事例の患者はいずれも焼肉店を利用しており,焼肉店での食事が原因であると推定された。これらの事例のうち,生活圏の異なる3グループから患者が発生した事例の概要について紹介する。
グループ1(横浜市):7月10日に焼肉店Iを利用した8名中3名が14日から発症し,うち1名からO157(VT2)を検出した。
グループ2(町田市):7月26日,同僚9名で焼肉店Iを利用した後,30日〜31日にかけて2名が腹痛,下痢等を発症後,2名からO157(VT2)を検出した。
グループ3(川崎市):7月31日,焼肉店Iを利用した友人5名中1名が8月2日から腹痛,下痢等の症状を呈した後,糞便からO157(VT2)を検出した。
  焼肉店Iについて調査を行った結果,従事者1名と食品3検体(カルビ,軟骨,豚トロ)からO157(VT2産生)を検出した。これらの事例では,患者の喫食日が異なっており,約半月に渡って患者が発生している事やグループ1の詳細な調査ができなかったことから,当初焼肉店Iの食事を原因とする食中毒であるかの判断が困難であった。しかし,他自治体から菌株の分与を受け,PFGE等の疫学マーカー解析を行った結果,患者,従事者,食品から検出された全てのO157のPFGEパターンが一致したため,焼肉店Iを原因施設とする食中毒と断定した。この事例の発生原因としては,肉類の加熱不足,焼肉専用の箸がなかったこと,調理器具からの生野菜等への2次汚染などとともに連続して事故が発生したことから不顕性感染していた従事者からの汚染も推定された。

例年7月〜9月はEHECの分離数が最も多くなる時期である。その中で昨年は7月後半〜9月にかけてO157(VT2産生株)で同一PFGEパターン(T-0816型)を示す菌株が合計22名から検出された(図1,2)。同時期,埼玉県および千葉県でも同一パターンのO157株が検出されているという情報が入った。限られた期間に患者の発生が集中していることから,同一感染源を原因とするDiffuse outbreakを疑い詳細な喫食調査等を行った。しかし,決め手となるような共通食品は見つからず,感染源は不明であった。一人一人の患者は散発事例であるため,この様な事例から共通の感染源を特定することは非常に難しい。近隣自治体との協力体制も含めて,いかに感染源を特定していくかが,今後の重要な課題である。

 

表1. ヒト由来腸管出血性大腸菌の血清型と毒素型(平成20年,東京都)

血清型 菌株数(%) 毒素型
VT1 VT2 VT1+VT2
O157 232(61.3) 2 115 115
O26 73(19.3) 71   2
O111 44(11.6) 4 1 39
O103 6(1.6) 6    
O145 6(1.6) 5 1  
O121 5(1.3)   5  
O55 2(0.5) 1 1  
O115 2(0.5) 2    
O63 1(0.3)   1  
O91 1(0.3) 1    
O119 1(0.3) 1    
O128 1(0.3)     1
O165 1(0.3)   1  
型別不能 3(0.8) 1 2  
合計 378(100) 94 127 157

 

 

図1. 同一のPFG型を示すO157株の検出状況(2008年、東京都)

図2. 2008年7月以降に流行したEHEC O157:H7(VT2産生)株のPFGEパターン

微生物部 食品微生物研究科 食中毒研究室・腸内細菌研究室

 


 

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