東京都健康安全研究センター
東京都において分離された赤痢菌およびサルモネラの菌種、血清型および薬剤感受性について

東京都において分離された赤痢菌およびサルモネラの菌種、血清型および薬剤感受性について(2009年)(第31巻、4号)

 

2010年4月


 

 2009年に東京都健康安全研究センター並びに都・区検査機関、都内の病院、登録衛生検査所等で分離された赤痢菌とサルモネラを対象に、当所で実施した菌種、血清型別および薬剤感受性試験の成績について、その概略を紹介する。チフス菌およびパラチフスA菌については、国立感染症研究所(感染研)に依頼したファージ型別の成績も併せて紹介する。

 供試菌株は、都内の患者とその関係者および保菌者検索事業によって分離された赤痢菌22株(海外旅行者由来14株を含む)とサルモネラ112株(海外旅行者由来15株を含む)である。

 血清型別は、常法により行った。薬剤感受性試験は、米国臨床検査標準化協会(CLSI:Clinical and Laboratory Standards Institute, 旧NCCLS)の抗菌薬ディスク感受性試験実施基準に基づき、市販の感受性試験用ディスク(センシディスク;BD)を用いて行った。供試薬剤は、クロラムフェニコール(CP)、テトラサイクリン(TC)、ストレプトマイシン(SM)、カナマイシン(KM)、アンピシリン(ABPC)、スルファメトキサゾール・トリメトプリム合剤(ST)、ナリジクス酸(NA)、ホスホマイシン(FOM)、ノルフロキサシン(NFLX)およびセフォタキシム(CTX)の10剤である。NA耐性株についてはEtest(シスメックス・ビオメリュー)を用いてシプロフロキサシン(CPFX)、レボフロキサシン(LVFX)、オフロキサシン(OFLX)、NFLXの4種類のニューキノロン系薬剤に対する最小発育阻止濃度(MIC:μg/ml)を測定した。また、CTX耐性の菌株については、Extended-spectrum β-lactamase (ESBL)産生菌であることを疑い、セフポドキシム(CPDX)、セフタジジム(CAZ)、セフトリアキソン(CTRX)、アズトレオナム(AZT)、セフォタキシム(CTX)およびアモキシシリン・クラブラン酸合剤(AMPC/CVA)の感受性試験用ディスク(BD)を用いたDouble disk synergy testおよびEtestにより、クラブラン酸によるβ-ラクタマーゼ活性阻害の有無を確認した。

 赤痢菌の菌種および耐性菌の出現頻度を表1に示した。

 赤痢菌22株の菌種別内訳は、ディセンテリー菌1株(国内事例由来)、フレキシネル菌5株(海外3、国内2)、ソンネ菌16株(海外11、国内5)であり、ボイド菌は検出されなかった。いずれかの薬剤に耐性を示したものは20株(90.9%)で、その薬剤別耐性頻度は、SM(72.7%)、ST(72.7%)、TC(68.2%)、ABPC(40.9%)、NA(40.9%)、NFLX(18.2%)、CP(13.6%)、CTX(9.1%)の順であった。耐性株20株の薬剤耐性パターンは15種に分かれた。ディセンテリー菌1株は「TC・SM・ABPC」であった。フレキシネル菌の内2株は「TC・SM・ABPC・ST」、その他3株はそれぞれ、「CP・TC・SM・ABPC・ST・NA・NFLX」、「CP・TC・SM・ST・NA・NFLX」、「CP・TC・SM・ABPC・ST」であった。ソンネ菌16株ではST単剤耐性 (3株)、「TC・SM・ST・NA」(2株)、「TC・SM・ST」(2株)が主要なものであった。

 NA耐性を示した9株(海外6、国内3)について、ニューキノロン系薬剤に対するMICを測定した結果、4株は耐性(CPFX:6〜16μg/ml、LVFX:4〜16μg/ml、OFLX:12〜>32μg/ml、NFLX:16〜24μg/ml)を示し、残る5株は低感受性であった。耐性4株は、フレキシネル2a(1株)、フレキシネル3a(1株)およびソンネ(2株)であった。このフレキシネル菌2株はインドからの帰国者から検出されたものであり、ソンネ菌2株はともに国内事例由来株であった。

 CTX耐性はソンネ菌2株に認められ、ともにベトナムからの帰国者から検出された。薬剤耐性パターンは「TC・SM・ABPC・ST・NA・CTX」および「SM・ABPC・NA・CTX」で、Double disk synergy testおよびEtestの結果、両株ともクラブラン酸によるβ-ラクタマーゼ阻害効果が認められ、PCR法においても両株ともにTEM型とCTX-M-1型遺伝子の保有が認められたことから、ESBL産生菌であることが確認された。また、ディスク法でCTXが「(感受性と耐性の)中間」と判定された1株について、同様にESBL産生性を確認した結果、CTX-M-9型遺伝子を持つESBL産生性の株であることが確認された。この株は国内事例由来株で、薬剤耐性パターンは「TC・SM・ABPC・ST・NA」であった。ESBL産生の赤痢菌は、国内では2006年頃から報告されており、東京都では2006年に1株、2008年に2株検出されたのに続き、今回3株が確認され、その拡大が懸念される。

 一方、チフス菌10株(海外8、国内2)については、海外由来チフス菌8株中、NA単剤に耐性のものが5株、「TC・SM・ST・NA・NFLX」の5剤耐性が1株であった。国内由来株2株中、いずれかの薬剤に耐性を示したものは1株で、その耐性パターンは「NA・FOM」であった(表1)。パラチフスA菌7株(海外6、国内1)では、海外由来株4株がNA単剤に耐性を示し、それ以外の3株(海外2、国内1)は供試薬剤全てに感受性であった。チフス菌10株についてのファージ型別結果(国立感染症研究所で実施)は、B1型が2株、E1型が3株、E9型が1株、UVS(Untypable Vi strain)1型が4株であった。パラチフスA菌7株のファージ型は、1型が5株、4型、5型が各1株であった。

 チフス菌・パラチフスA菌以外のサルモネラ95株(海外1、国内94)の血清型および耐性菌の出現頻度を表2に示した。O群別内訳は、O7群37株(38.9%)、O4群26株(27.4%)、O8群16株(16.8%)、O9群8株(8.4%)、O1,3,19群3株(3.2%)、O16群2株(2.1%)、O3,10群、O13群、O48群が各1株(1.1%)であった。O7群、O4群、O8群およびO9群で全体の91.6%を占めた。主な血清型は、 S. Enteritidis(O9群,7株)、 S. Infantis(O7群,6株) 、 S. Oranienburg(O7群,6株)、 S. Thompson(O7群,6株)、 S. Saintpaul(O4群,5株)、 S. Montevideo(O7群,5株)であった。

 サルモネラ95株中19株(20.0%)が耐性株で、前年(31.6%)と比べて耐性頻度はやや低下した。各薬剤に対する耐性頻度は、SM(15.8%)、TC(14.7%)、NA(5.3%)、ABPC(4.2%)、KM(2.1%)、ST (2.1%)、 CP (1.1%)、NFLX(1.1%)、CTX(1.1%)であった。なお、FOM耐性株は認められなかった。薬剤耐性パターンは10種で、「TC・SM」(7株)、SM単剤(3株)が主要なものであった。O群別の耐性頻度では、O8群(37.5%)、O9群(37.5%)およびO4群(30.8%)が高かった。最も多く検出された血清型である S. Enteritidisの耐性頻度は42.9%で、多くはSM単剤耐性であった。

 NA耐性を示した5株について、ニューキノロン系薬剤に対するMICを測定した結果、1株は耐性(CPFX:16μg/ml、LVFX:8μg/ml、OFLX:>32μg/ml、NFLX:32μg/ml)、残る4株は低感受性であった。ニューキノロン系薬剤に耐性を示した1株の血清型は、O4 : i : -であり、薬剤耐性パターンは「CP・TC・SM・ABPC・ST・NA・NFLX・CTX」の多剤耐性菌であった。CTXに耐性を示していたことから、ESBL産生性を疑いEtestの測定を行った結果、クラブラン酸によるβ-ラクタマーゼ阻害効果が認められ、PCR法においてもCTX-M-2型遺伝子の保有が認められ、ESBL産生菌であることが確認された。 Salmonella O4 : i : -は、 S. Typhimuriumの変異型とされ、近年その増加が欧米諸国で報告されており、多剤耐性化傾向が問題視されている。国内においても最近、本血清型株の増加が指摘されており、東京都では1998年に初めて散発事例から分離され、2002年以降は毎年(2006年を除く)検出されている。

 今後もこれら変異型菌を含む耐性菌の出現は、ますます増加する事が予想される。引き続き、その動向を注意深く監視する必要がある。

 

表1. 赤痢菌、チフス菌、パラチフスA菌の薬剤耐性菌の出現頻度(2009年:東京)

菌種・血清群 供試株数(%) 耐性株数(%)*
赤痢菌 22 (100) 20 (90.9)
 ディセンテリー 1 (4.5) 1 (100)
 フレキシネル 5 (22.7) 5 (100)
 ボイド 0      
 ソンネ 16 (72.7) 14 (87.5)
チフス菌 10   7 (70.0)
パラチフスA菌 7   4 (57.1)

 

 

表2.サルモネラ(チフス菌、パラチフスA菌を除く)の血清型と薬剤耐性菌出現頻度(2009年:東京)

O群 血清型 供試株数(%) 耐性株数(%)*
O4 Agona 1 0
Derby 4 3(75.0)
Paratyphi B 1 0
Reading 3 0
Saintpaul 5 1(20.0)
Schwarzengrund 3 1(33.3)
Stanley 1 0
Typhimurium 4 1(25.0)
O4:b:- 1 0
O4:i:- 3 2(66.7)
小計 26(27.4) 8(30.8)
O7 Bareilly 4 0
Braenderup 1 0
Infantis 6 2(33.3)
Livingstone 1 0
Mbandaka 4 0
Mikawasima 1 0
Montevideo 5 0
Oranienburg 6 0
Potsdam 2 0
Rissen 1 0
Thompson 6 0
小計 37(38.9) 2(5.4)
O8 Albany 1 1(100)
Corvallis 2 0
Hadar 1 1(100)
Litchfield 4 0
Manhattan 1 1(100)
Nagoya 1 0
Newport 2 0
Pakistan 2 1(50.0)
Yovokome 2 2(100)
小計 16(16.8) 6(37.5)
O9 Enteritidis 7 3(42.9)
Panama 1 0
小計 8(8.4) 3(37.5)
O3,10 Weltevreden 1 0
小計 1(1.1) 0
O1,3,19 Senftenberg 3 0
小計 3(3.2) 0
O13 Agbeni 1 0
小計 1(1.1) 0
O16 Hvittingfoss 1 0
Vancouver 1 0
小計 2(2.1) 0
O48 Ⅲb (subsp. diarizonae) 1 0
小計 1(1.1) 0
合計 95(100) 19(20.0)

 

*供試薬剤(10種類)のいずれかに耐性を示した菌株

 

微生物部 食品微生物研究科 腸内細菌研究室

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