東京都健康安全研究センター
東京都におけるウイルス性胃腸炎の集団発生事例(2009/2010年シーズン)

東京都におけるウイルス性胃腸炎の集団発生事例(2009/2010年シーズン)(第31巻、11号)

2011年1月


 

 例年、冬季に発生のピークがみられるウイルス性胃腸炎集団事例の2009/2010年シーズン(2009年9月〜2010年8月)における発生状況について報告する。

 都内で発生した食中毒疑いを含む急性胃腸炎事例(675事例)について糞便試料を主な検査材料として胃腸炎起因ウイルス検索を実施した。検索の対象としたウイルスはノロウイルス(Norovirus:NV)、サポウイルス(Sapovirus:SV)、ロタウイルス(Rotavirus:RV)、アストロウイルス(Astrovirus:AstV)およびアデノウイルス(Adenovirus:AdV)である。NVおよびSVはreal-time PCR法により、RV、 AstV、AdVは市販の抗原検出用試薬またはreal-time PCR法によりウイルス検索を実施した。

 ウイルス性胃腸炎は例年と同様に幅広い年齢層で発生がみられた。ウイルスの検出された施設別発生状況を見ると、高齢者施設43事例(11.7%)、幼稚園や保育園、小学校88事例(24.0%)、飲食店等135事例(36.8%)であり、これらの施設が関与する胃腸炎事例が72.5%と多くの割合を占めていた。

 本シーズンの特徴は、食中毒発生のピークが例年よりやや遅く1月にかかったこと、生カキ等二枚貝の関与する事例数がこの数年と比較して多かったことである。月当りの発生事例数は平年10件弱で推移していたが、本シーズンでは、12月に17事例、1月に27事例とNV食中毒が増加した。全国的にもNV食中毒が多発したことから、1月に厚労省は「生食用かきを原因とするノロウイルス食中毒防止対策について(食安監発0122第1号)」を通知し、注意喚起した。

 NVが検出された347事例のうち250事例(72.0%)からGⅡが検出され、43事例(12.4%)からGⅠが検出された。GⅠとGⅡが同時に検出された事例は54事例(15.6%)であった。

 検出されたNVの遺伝子型はこの数シーズンの報告同様にGⅡ/4が約7割を占め、流行の主流であった。しかし、遺伝子型はGⅡ/4に分類されるものの抗原性の変化が指摘されているApeldoorn317/2007/NL類似株も含まれており、この数シーズンに検出されたGⅡ/4が同一系統の株でないことも推察された。今後注視していく必要がある。また、GⅡ/4の他に検出された遺伝子型としては、GⅠ/3、4、7、8及びGⅡ/2、3、6、7、12、13などがみられた。

 ウイルス性胃腸炎はNVに起因するものが多くの割合を占めており、SV、RV、AstVおよびAdVの検出頻度はそれほど高くない状況にある。NV以外のウイルスの検出状況は、SV7事例、A群RV10事例、SVとA群RVの同時検出1事例、SVとAstVの同時検出1事例、およびAstVとAdVの同時検出1事例であった。このほかにそれぞれの集団事例の原因には関与していないと考えられるAstVやC群RVが散発的に検出された。

 NV以外のウイルスが検出される事例は保育園・幼稚園・小学校等の低年齢層の施設における集団発生が主であるが、このシーズンは成人年齢層における患者数91名のSVによる大規模食中毒事例が発生した。本事例は都内の企業が他県市の宿泊施設において研修を実施した際に発生したもので、提供された仕出し弁当の関与が推定された事例である。また今シーズンは他県でやはり弁当調理施設を原因とする患者数600名以上にのぼるSVの大規模食中毒事例が発生している(小林ら、第58回日本ウイルス学会学術集会2010)。今シーズンに検出されたSVは、2008年に比較して遺伝子型に多様性はないものの、この数シーズンで検出されていなかったGⅡcruiseship類似株が検出されるなど流行株の変化も推定された。大規模食中毒事例からSVが検出されたことから、これらのウイルスも成人年齢層に感染し食中毒など集団胃腸炎の起因ウイルスとなりうることを認識し、詳細なウイルス検索を実施する必要があると考えられた。

図 東京都における胃腸炎ウイルス検出状況(2009年9月〜2010年8月)

微生物部 ウイルス研究科 腸管ウイルス室

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