東京都健康安全研究センター
抗ヒト免疫不全ウイルス(HIV)薬とHIV薬剤耐性検査

抗ヒト免疫不全ウイルス(HIV)薬とHIV薬剤耐性検査(第31巻、12号)

2010年12月


 

 ヒト免疫不全ウイルス(HIV)はレトロウイルス科レンチウイルス属に属するRNAウイルスであり、後天性免疫不全症候群(AIDS)の病原体として知られている。AIDSは、発見当初には死に至る病気とされていたが、多くの抗HIV薬の開発や多剤併用療法(HAART:Highly Active anti-retroviral Therapy)に代表される治療法の進歩により、完治には至らないものの、長期的なコントロールも可能な疾患となってきている。HIVは、世界各地で流行しているHIV-1と西アフリカなど一部の地域で流行するHIV-2に分類される。日本で検出されるHIVの多くはHIV-1であり、HIV-2は極めて散発的に検出されている。

 厚生労働省エイズ動向委員会の報告によると、2009年のHIV感染者報告数は1,021件、AIDS患者報告数は431件である。なお、HIV感染者とはHIVに感染しているがAIDSを発症していない人を示し、AIDSを発症した場合にはAIDS患者として報告される。日本においては、HIV感染者およびAIDS患者を合わせた新規発生件数は依然として増加傾向にある。

 東京都における2009年のHIV感染者数は369件、AIDS患者数は102件と全国で最も多い。日本国籍の男性、推定感染経路は同性間の性的接触、20歳代・30歳代のHIV感染者報告が多い傾向が特徴として挙げられる。

 これまで数多くの作用機序の異なる抗HIV薬が開発され、医療現場で使用されてきている。HIVの逆転写酵素(RT)を標的としたヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤(NRTI)、非ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤(NNRTI)、プロテアーゼを標的としたプロテアーゼ阻害剤(PI)に加え、最近では、インテグラーゼ阻害剤(INSTI)や侵入阻害剤が承認されている。これら3〜4剤の組み合わせで治療するHARRT療法により血液中のHIV量を劇的に減少させることができるようになり、健常者と同様の生活が可能となっている。しかしながら、体内から完全にウイルスを除去することは今のところ不可能であり、服薬率の低下や治療の長期化により薬剤耐性変異を有するHIV感染者の増加が懸念されている。

 薬剤耐性検査には、HIV遺伝子の塩基配列を調べ、検出されたアミノ酸変異のパターンから間接的に薬剤耐性の度合いを評価するgenotype検査があり、この検査は保険適用されている。genotype検査は、血清から抽出したHIVのRNAを材料として、PCR法を用いてターゲット遺伝子(逆転写酵素、プロテアーゼ、インテグラーゼ遺伝子等)を増幅後、塩基配列を決定し、薬剤に起因する変異の有無を検査する方法である(表1)。薬剤に関連する変異には薬剤耐性変異とリバータント変異がある。HIVは血中に薬剤が存在すると、アミノ酸変異を起こし、薬剤の影響を逃れようとする(薬剤耐性変異)。しかし、アミノ酸変異によりウイルスの増殖効率が悪くなるなどウイルス側にもダメージがあるため、血中薬剤濃度が低下すると元のアミノ酸に戻ろうとする。しかし、元のアミノ酸に戻れず、他のアミノ酸に変異して適応してしまう場合がある。これをリバータント変異といい、HIVでは逆転写酵素領域の215番目のアミノ酸にみられることが多い。

 新規診断症例における薬剤耐性HIV-1の出現頻度は、HIVの動向を探る上でも重要である。疫学的調査が欧米各国で行われているが、薬剤耐性HIV-1の出現頻度は地域や集団により0〜24.1%と広い分布を示している。我が国においても厚生労働省の研究班を中心に全国調査が行われており、2003年の薬剤耐性変異率は5.9%であったが、2008年には8.3%となり、増加傾向を示している。

 東京都においては、2005年から2009年に都内公的検査機関のHIV検査で陽性となった血清から検出された658事例のHIVについて、薬剤耐性検査を実施した結果、30事例(4.6%)で薬剤耐性変異がみられ、26事例(4.0%)でリバータント変異がみられた。また薬剤耐性関連変異の出現率は2005年4.7%、2006年4.1%、2007年9.3%、2008年9.7%、2009年11.3%と、2007年以降昇しており、このような薬剤関連変異を有するHIVが、都内もしくは全国でどのように広がっているのか等、今後の疫学解析の動向が注目される(図1)。

 

表1 薬剤耐性変異リスト

逆転写酵素阻害剤

  codon No. 41 62 65 67 69 70 74 75 77 90 98 100 101 103 106 108 115 116 138 151 179 181 184 188 190 210 215 219 225 230
A.A in wild type M A K D T K L V F V A L K K V V Y F E Q V Y M Y G L T K P M
NRTIs AZT L     N   R                                       W Y/F Q/P    
ddI     R       V                                              
d4T L   R N   R                           M           W Y/F Q/P    
FTC     R                                       V/I              
3TC     R                                       V/I              
ABC     R       V                   F           V              
TDF     R     E                                                
 
multi-

NRRTI

151 complex   V           I L                 Y   M                    
69 ins complex L V     ins R                                       W Y/F Q/P    
multi-nRTI L     N   R                                       W Y/F Q/P    
 
NNRTIs NVP                       I   N A/M I           C/I   C/L/H A          
EFV                       I P N M I           C/I   L S/A       H  
ETR/ETV                   I G I E/H/P   I       A   D/F/T C/W     S/A         L

プロテアーゼ阻害剤

  codon No. 10 11 13 16 20 24 30 32 33 34 35 36 43 46 47 48 50 53 54 58 60 62 63 64 69 71 73 74 76 77 82 83 84 85 88 89 90 93
A.A in wild type L V I G K L D V L E E M K M I G I F I Q D I L I H A G T L V V N I I N L L I
PIs SQR/r I/R/V         I                   V     V/L     V       V/T S     I A/F/T/S   V       M  
IDV/r I/R/V       M/R I   I       I   I/L         V             V/T S/A   V I A/F/T   V       M  
NFV F/I           N         I   I/L                       V/T       I A/F/S/T   V   D/S   M  
fos-APV/r F/I/R/V             I           I/L V   V   L/V/M               S   V   A/F/S/T   V       M  
LPV/r F/I/R/V       M/R I   I F         I/L V/A   V L V/L/A/M/T/S       P     V/T S   V   A/F/T/S   V       M  
ATV/r I/F/V/C     E M/R/I/T/V     I I/F/V Q   I/L/V   I/L   V L L/Y L/V/M/T/A   E V   L/M/V   V/I/T/L C/S/T/A       A/T/F/I   V V S   M L/M
DRV/r   I           I F           V   V   M/L                 P V       V     V    
Tiparanavir/ritonavir V   V   M/R       F   G I T L V       A/M/V E         K     P     L/T D V       M  
 
    一次変異:薬剤投与後に出現することが多い変異であり、かつ薬剤感受性に大きく影響をおよぼすもの。
  二次変異:一次変異に続いて出現してくる変異であり、一次変異と組合わさることにより耐性レベルを上げる(プロテアーゼのみ)。

インテグラーゼ阻害剤

codon No. 66 92 140 143 148 155 157
A.A in wild type T E G Y Q N E
RAL I/A/K Q S R/H/C H/K/R H Q
elvitegravir I/A/K Q     H/K/R H  

厚生労働科学研究班「HIV感染症の医療体制の整備に関する研究」製作
「HIV薬剤耐性検査ガイドラインver,4(2010)」より引用

図1 都内におけるHIV薬剤耐性関連変異の検出事例数および薬剤耐性関連変異の出現率

微生物部 ウイルス研究科 エイズ・インフルエンザ室

 


 

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