東京都健康安全研究センター
2010年東京都流行予測調査事業におけるポリオ中和抗体保有状況

2010年東京都流行予測調査事業におけるポリオ中和抗体保有状況(第32巻、1号)

2011年1月


 

 急性灰白髄炎(ポリオ)は、ポリオウイルスの中枢神経感染により生ずる感染症で四肢の急性弛緩性麻痺を典型的な症状とし、一般では小児麻痺とも呼ばれる。有効な治療法がないためにワクチン接種によるポリオウイルスの感染予防が重要となる。
 国立感染症情報センターのデータによれば、1960年には全国で6,500人のポリオ患者が報告されたが、1961年にポリオ生ワクチンが1,300万人の小児に一斉投与されたのを機に患者数は激減した。そして、1963年からはポリオ生ワクチンの定期接種(2回接種)が開始され、1980年以降、国内における野生株によるポリオの発生は無いことが、感染症法によるポリオ患者の報告や感染症流行予測調査事業等に基づくサーベイランスによって確認されている。
 感染症流行予測事業とは、定期予防接種対象疾患であるポリオ、インフルエンザ、日本脳炎、風疹、麻しん等について、病気に対する免疫をどの程度保有しているのか(集団免疫力の把握)、どのような型の病原体が今流行しているのか(病原体の検索)等の調査を行い、地域・年齢・予防接種歴等の疫学資料をあわせて検討することで、予防接種事業を効果的に行い、長期的視野に立って総合的に疾病の流行を予測するものである。本事業は、厚生労働省、国立感染症研究所、都道府県、衛生研究所および保健所等が協力して毎年実施している。
 ポリオに対する2010年の流行予測調査は、都内に居住する生後10ヶ月から78歳までの健康な都民から採取した血液366検体を対象とした。
 調査方法は、2010年7月15日から同年10月8日までの期間に採取された血液から血清を分離し、ポリオウイルス1型、2型及び3型に対する血清中の中和抗体価を測定した。中和抗体価が4倍以上であった者を抗体陽性者とし、年齢階層を10区分(0〜1歳、2〜3歳、4〜9歳、10〜14歳、15〜19歳、20〜24歳、25〜29歳、30〜34歳、35〜39歳、40歳以上)に分け、それぞれの区分ごとに中和抗体保有率及び平均中和抗体価(中和抗体陽性者の相乗平均値)を求めた。
 年齢階層別にまとめた中和抗体保有率を図1に示す。調査対象者全体の中和抗体保有率をウイルス型別に比較すると、ポリオ2型が95.4%、次いで1型88.3%、3型57.7%の順であり、全体では2型ウイルスに対する抗体保有率が最も高かった。
 次に、各年齢階層別に比較すると0〜1歳の年齢階層では、1型に対する抗体保有率は78.6%、2型では82,1%、3型では25.0%であったが、これよりも高い年齢階層になると、ほとんどの年齢階層で0〜1歳児よりも高い抗体保有率を示した。
 ウイルス型別の平均抗体価を図2に示した。調査対象者全体についてそれぞれを比較すると、ポリオ1型が59倍、2型が29倍、3型が13倍であり、全体ではポリオ1型ウイルスに対する平均抗体価が最も高かった。また、各年齢階層別に平均抗体価を比較すると1型、2型に対する平均抗体価は0〜1歳児の年齢階層が最も高く1型:319倍、2型:128倍を示したが、3型については全年齢階層とも7倍から32倍の低い状況であった。また、1型と2型の平均抗体価は加齢とともに急速に減少する傾向がみられた。
 次に、ポリオ生ワクチン接種歴より各年齢階層毎にまとめたポリオ生ワクチン接種率は、0〜1歳の年齢階層では70.4%であったが、2〜3歳以上の年齢階層では95%以上の高い接種率で推移し、年齢階層別に比較した中和抗体保有率(図1)の動向とほぼ一致していた。流行防止のために必要とされる接種率は90%以上といわれているが、2010年全体のワクチン接種率は92.3%と高いレベルであった。
 ポリオ生ワクチン接種歴の有無による中和抗体保有率は、年齢階層が0〜1歳児のワクチン接種者では、1型94.7%、2型100%、3型36.8%であった。ワクチン非接種者では、1型と2型が37.5%、3型0%で、ワクチンを接種した場合に比較して約4割あるいはそれ以下の抗体保有率に留まり、ワクチン接種者と非接種者の差は顕著であった(図3)。
 同様に、平均中和抗体価も0〜1歳児のワクチン接種者では、1型323倍、2型133倍、3型24倍であったが、ワクチン非接種者では、1型256倍、2型81倍、3型4倍以下であり、ワクチン接種者と非接種者で平均中和抗体価においても顕著な差が見られた(図4)。
 2〜3歳児から35〜39歳までの年齢階層では、ワクチン非接種者の調査件数が少なく比較は困難であったが、ワクチンを接種した場合の平均抗体保有率は1型66.7%〜100%、2型94.6%〜100%で、高い抗体保有率を示した。
 40歳以上の年齢階層になると、ワクチン非接種者の中和抗体保有率は、1型、2型、3型とも100.0%で、ワクチン接種者の中和抗体保有率(1型:57.1%、2型:85.7%、3型:66.7%)よりも高い傾向であった。
 世界中で今なおポリオウイルスの常在国が4カ国(インド、パキスタン、アフガニスタン、ナイジェリア)存在している状況において、世界的な人的移動にともなうポリオの伝播リスクは、近隣の国々だけでなく、現在ポリオの無い地域にも及ぶ。
 また、経口ポリオ生ワクチンによる予防接種を継続する限り、ワクチン由来ポリオウイルスによる感染事例の発生は、極く稀ではあるが避けられない状況にある。そのような事態に遭遇したとき、ポリオウイルスに対する集団免疫力が高いレベルで保持されていることが、その後の流行防止に大変重要となる。
 今後も感染症流行予測事業をとおして質の高いサーベイランスを実施し、集団免疫力が高いレベルで保持されていることを監視し続ける必要がある。

図1. ポリオウイルスに対する中和抗体保有率

図2. ポリオウイルスに対する平均中和抗体価

図3. ワクチン接種歴別にみたポリオ中和抗体保有率(0歳〜1歳)

図4. ワクチン接種歴別にみたポリオ平均中和抗体価(0歳〜1歳)

微生物部 ウイルス研究科 感染症室

 


 

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