東京都健康安全研究センター
東京都において分離された赤痢菌の菌種、血清型および薬剤感受性について(2010年)

東京都において分離された赤痢菌の菌種、血清型および薬剤感受性について(2010年)(第32巻、7号)

 

2011年7月


 

 2010年に東京都健康安全研究センター並びに都・区検査機関、都内の病院、登録衛生検査所等で分離された赤痢菌を対象に、菌種、血清型および薬剤感受性についてまとめたので、その概略を紹介する。

 供試菌株は、都内の患者とその関係者および保菌者検索事業によって分離された赤痢菌53株(海外旅行者由来38株、国内事例由来15株)である。

 血清型別は、常法により行った。薬剤感受性試験は、米国臨床検査標準化協会(CLSI:Clinical and Laboratory Standards Institute, 旧NCCLS)の抗菌薬ディスク感受性試験実施基準に基づき、市販の感受性試験用ディスク(センシディスク;BD)を用いて行った。供試薬剤は、クロラムフェニコール(CP)、テトラサイクリン(TC)、ストレプトマイシン(SM)、カナマイシン(KM)、アンピシリン(ABPC)、スルファメトキサゾール・トリメトプリム合剤(ST)、ナリジクス酸(NA)、ホスホマイシン(FOM)、ノルフロキサシン(NFLX)およびセフォタキシム(CTX)の10剤である。
NA耐性株についてはEtest(シスメックス・ビオメリュー)を用いてシプロフロキサシン(CPFX)、レボフロキサシン(LVFX)、オフロキサシン(OFLX)、NFLXの4種類のフルオロキノロン系薬剤に対する最小発育阻止濃度(MIC:μg/ml)を測定した。また、Extended-spectrum β-lactamase (ESBL)産生菌については、CTX耐性株を対象にセフポドキシム(CPDX)、セフタジジム(CAZ)、セフトリアキソン(CTRX)、アズトレオナム(AZT)、セフォタキシム(CTX)およびアモキシシリン・クラブラン酸合剤(AMPC/CVA)の感受性試験用ディスク(BD)を用いたDouble disk synergy testおよびEtestにより、クラブラン酸によるβ-ラクタマーゼ活性阻害の有無を確認した。ESBL産生菌と判定された菌株については、PCR法によりESBL遺伝子の検索を行った。

 赤痢菌の菌種および耐性菌の出現頻度を表に示した。赤痢菌53株の菌種別内訳は、フレキシネル菌16株(海外9、国内7)、ボイド菌1株(国内)、ソンネ菌36株(海外29、国内7)であり、ディセンテリー菌は検出されなかった。

 いずれかの薬剤に耐性を示したものは51株(96.2%)で、その薬剤別耐性頻度は、TC(86.8%)、SM(86.8%)、ST(81.1%)、NA(45.3%)、ABPC(37.7%)、NFLX(24.5%)、CP(22.6%)、CTX(3.8%)の順であった。耐性株51株の薬剤耐性パターンは17種に分かれた。フレキシネル菌の内5株は「CP・TC・SM・ABPC・ST」、3株は「TC・SM・ABPC・ST」、その他「CP・TC・SM・ABPC・ST・NA・NFLX」(2株)、「CP・TC・SM・ABPC・ST・NA」(2株)、「CP・TC・SM・ABPC」(2株)、「CP・SM・ABPC・ST」(1株)、および「TC・SM・ST・NA」(1株)であった。ソンネ菌35株では「TC・SM・ST」(14株)、「TC・SM・ST・NA・NFLX」(7株)、「TC・SM・ABPC・ST・NA」(3株)が主要なものであった。ボイド菌1株は供試した全ての薬剤に感受性であった。

 NA耐性を示した24株(海外18、国内6)について、フルオロキノロン系薬剤に対するMICを測定した結果、13株は耐性(CPFX:4〜16μg/ml、LVFX:4〜12μg/ml、OFLX:8〜>32μg/ml、NFLX:16〜32μg/ml)を示し、残る11株は低感受性であった。耐性13株は、フレキシネル2a(2株)およびソンネ(11株)であった。このフレキシネル菌2株はともにインドからの帰国者から検出された。また、ソンネ菌11株は海外由来9株(インド7、バングラデシュ1、インド及びバングラデシュ1)および国内事例由来2株であった。

 CTX耐性はソンネ菌2株に認められ、ともに海外渡航歴のない患者から検出された。その薬剤耐性パターンはともに「TC・SM・ABPC・ST・NA・CTX」で、両株ともクラブラン酸によるβ-ラクタマーゼ阻害効果が認められ、PCR法によりTEM型とCTX-M-1型遺伝子(+)であることから、ESBL産生菌と確認された。また、ディスク法でCTXが「(感受性と耐性の)中間」と判定されたソンネ菌2株もTEM型とCTX-M-9型遺伝子を持つESBL産生菌であった。この2株は中国からの帰国者由来株で、薬剤耐性パターンは「TC・SM・ABPC・ST・NA」であった。ESBL産生赤痢菌は、国内では2006年頃から報告されており、東京都では2006年に1株、2008年以降は毎年数株が確認され、その拡大が懸念される。

 2010年は、多剤耐性アシネトバクターやNDM-1産生菌等、耐性菌に関する話題がメディアを賑わせた。特にNDM-1産生菌は肺炎桿菌など腸内細菌科の細菌で確認されており、NDM-1遺伝子が同じ腸内細菌科である赤痢菌等の病原菌に伝播する事が危惧されている。
今後もこれら耐性菌は、ますます増加する事が予想される。引き続き、その動向を注意深く監視する必要がある。

表.赤痢菌の薬剤耐性菌の出現頻度 (2010年:東京)

菌種* 供試株数(%) 耐性株数(%)**
 フレキシネル 16 (30.2) 16 (100)
 ボイド 1 (1.9) 0 (0)
 ソンネ 36 (67.9) 35 (97.2)
 計 53 (100) 51 (96.2)

 

*ディセンテリーは検出されなかった。
**供試薬剤(10種類)のいずれかに耐性を示した菌株

 

微生物部 食品微生物研究科 腸内細菌研究室

 


 

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