東京都健康安全研究センター
2010/2011年シーズンの東京都におけるインフルエンザウイルス流行状況

2010/2011年シーズンの東京都におけるインフルエンザウイルス流行状況(第32巻、9号)

 

2011年9月

 


 

 2010/2011年シーズン(2010年9月から2011年8月)の東京都では、当時は新型インフルエンザウイルスと呼ばれていたA/H1N1pdm09亜型、A/H3亜型、B型の3種類のインフルエンザウイルスが検出されており、特にA/H1N1pdm09亜型とA/H3亜型が多く検出され、B型はこれら2種類のA型ウイルスに比べて約半数の検出数であった。

 感染症発生動向調査事業に基づくインフルエンザ内科定点医療機関における発生状況は、2010年10月12日に採取された検体からA/H1N1pdm09亜型のウイルスが検出されたのを初めとして、10月21日にはAH3亜型、2011年1月にはB型(Victoria系統)が検出され、シーズンを通しては307件の検体中A/H1N1pdm09亜型が108件(35.2%)、A/H3亜型が71件(23.1%)、B型が49件(1.6%)の計228件(74.3%)のインフルエンザウイルスが検出された。一方、発生が疑われた場合の緊急検査である東京感染症アラート検査ならびに学校クラスターサーベイランスにより搬入された135件の検体から、A/H1N1pdm09亜型が50件(37.0%)、A/H3亜型が47件(34.8%)、B型が2件(1.5%)の計99件(73.3%)のインフルエンザウイルスが検出された。

 A/H1N1pdm09亜型の流行株をアミノ酸配列を用いた遺伝子系統樹上で解析した結果、2010/2011年シーズンワクチン株であるA/California/7/2009株を含むGroup1と、それとは異なる3つのグループ(Group2、3、4)に分類することができた(図1)。今シーズンの流行株はGroup3に多く分類され、これまで各グループに分布し、小グループに分かれていた流行株も一部の系統株に集まりつつある傾向が見られてきたことから、遺伝的な変異の方向性が絞られてきたことが推察される。

 A/H3亜型の流行株は、系統樹上(図2)ではワクチン株(A/Victoria/210/2009)を含む大きな群に属していたが、ワクチン株と同一のグループに含まれる株と、さらに分枝したグループに含まれる株があり、シーズン後半の株ほど分枝したグループに含まれる率が高かった。

 B型の流行株は、今シーズンのワクチン株(B/Brisbane/60/2008:Victoria系統)と遺伝子学的に近縁な株が多く検出されているが、一部の株は2007/2008年シーズンのワクチン株(B/Malaysia/2506/2004:Victoria系統)に近縁な株が検出された。B型のウイルスは、全国的にVictoria系統株が多く検出されていたが、一部では山形系統株も検出されていることから、B型ウイルスの次期流行株がどちらの系統株になるか注意が必要である。

 これらのウイルスの抗原性について分離株が得られたA/H1N1pdm亜型、A/H3亜型、B型(Victoria系統)を対象に国立感染症研究所配布のインフルエンザサーベイランスキットならびにワクチン株抗血清(デンカ生研)を用いた赤血球凝集抑制(HI)試験(0.75%のモルモット赤血球液を使用)で確認した結果、A/H1N1pdm09亜型の分離株は、ワクチン株であるA/California/7/2009株抗血清(ホモHI価: 640倍)と交差性の高い株(HI価:160〜1280倍)が多かった。しかし、シーズン後半には赤血球凝集性が低下したウイルスの出現により、HI試験による測定値が低下した株(HI価:20〜40倍)が増加し、血清学的な抗原性の検討が困難になってきている。また、A/H3亜型の分離株は、ワクチン株(A/Victoria/210/2009)抗血清(ホモHI価:640倍)に対して高いHI価(160〜640倍)を示すものと4倍以上低いHI価( 40〜80倍)を示す株が確認され、ワクチン株との交差反応性の異なる株が流行していたことが判明した。一方、B型分離株はVictoria系統のワクチン株であるB/Brisbane/60/2008株抗血清(ホモHI価:160倍)に対しては、高い交差反応性(HI価:80〜160倍)を示すことが確認された。しかし、一部の株はワクチン株に対してHI価40〜80倍と若干低い抗体価を示したが、B/Malaysia/2506/2004株抗血清(ホモHI価:320倍)に対してはHI価320倍と高い交差性を示した。系統樹上での遺伝子解析結果(図3)と低抗体価の結果から、過去に発生したVictoria系統株と同等であることが推察され、シーズン途中にわずかに異なる抗原性を有する株が一部で流行していたことが判明した。

 A/H1N1pdm09亜型は、2009年の発生時は20歳以下の年齢層で主に流行したが、2010年には全ての年齢層での発生が確認され、流行の拡大が懸念されてきた。2011年4月には新型インフルエンザから季節性インフルエンザにウイルスの分類が変更されたが、A/H1亜型の流行株として、また、ヒトに感染するH5N1亜型ウイルスの組み換え源として、抗原変異を伴う感染拡大が最も危惧されており、その動向に注意が必要なウイルスである。

 都内における2010/2011シーズンの流行実態は、A/H1N1pdm09亜型とA/H3亜型の同時流行を始めとして、B型の流行を含めた3種類のウイルスの混合流行であった。検出されたインフルエンザウイルス中に占める各亜型の割合は、A/H1N1pdm09亜型が48.3%、A/H3亜型が36.1%、B型が15.6%であり、ウイルスの流行時期には2種類または3種類が複合して流行していたことが判明している。また、近年、全国的にインフルエンザ流行時期が長期化しており、流行の中心時期を特定することが難しくなってきている。ウイルスの各亜型株は、今後も抗原変異が予見されることから、ますます注意が必要である。

図1.A/H1N1pdm09亜型インフルエンザウイルスの分子系統樹

図2.A/H3亜型インフルエンザウイルスの分子系統樹

図3.B型インフルエンザウイルスの分子系統樹

微生物部 ウイルス研究科 エイズ・インフルエンザ室

 


 

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