東京都健康安全研究センター
東京都における胃腸炎起因ウイルスの検出状況(2010 / 2011年シーズン) (第32巻、11号)

東京都における胃腸炎起因ウイルスの検出状況(2010 / 2011年シーズン) (第32巻、11号)

 

2011年11月


 2010/2011年シーズン(2010年9月~2011年8月)に都内で発生した食中毒(有症苦情を含む)や施設内感染が疑われる急性胃腸炎事例のうち、当センターに胃腸炎起因ウイルスの検査依頼があった508事例について、real-time PCR法を用いてウイルス検索を行った。検査対象としたウイルスはノロウイルス(Norovirus:NV)、サポウイルス(Sapovirus:SV)、ロタウイルス(Rotavirus:RV)、アストロウイルス(Astrovirus:AstV)及びアデノウイルス(Adenovirus:AdV)である。

 供試検体数は、糞便・吐物4,507検体(胃腸炎発症者2,234検体、非発症者327検体、調理従事者等1,946検体)、食品799検体、拭き取り149検体であった。糞便・吐物を対象とした検査は従来どおり厚生労働省通知による手法で実施したが、食品からのウイルス検出には、当センターが独自に開発した検体処理法を用いた。また、これまで実施していなかった拭き取り検体についても検体処理法を構築し、2010年11月より検査を開始した。
 検査を実施した508事例のうち、282事例(55.5%)、1,219検体(54.7%)の発症者糞便から胃腸炎起因ウイルスが検出された。本シーズンは、6月を中心に岩ガキの喫食が原因と考えられる食中毒事例が多発したが、検査数、ウイルス検出数とも過去5年間では最も少ない事例数であった(図)。
また、ウイルスが検出された282事例中、138事例で調理従事者等の糞便検査依頼があり、59事例(42.8%)で発症者と同じウイルスが検出された。この結果は、胃腸炎事例の約半数は調理従事者等を介して発生した可能性があることを示唆するものであり、近年同様の傾向が続いている。 

 検出されたウイルスの内訳は、例年同様NVが267事例(94.7%)と最も多く、SVが8事例(2.8%)、RV が5事例(1.8%)、AstV が1事例(0.4%)、SV とAstV が検出された事例が1事例(0.4%)であった。施設別では、幼稚園や保育園、小学校での発生が123事例(43.6%)、飲食店での食事が原因と考えられるものが104事例(36.9%)、高齢者施設内での発生が18事例(6.4%)で、ホテルや病院などでの発生も数例認められた。

 検出されたNVのうち、107事例の試料を用いて遺伝子解析を実施した。遺伝子型別の事例数は、GII/4が32事例(29.9%)と最多であったが、昨シーズンまでに比べ全体に占める割合は大きく減少した。一方、GII/2やGII/3は、それぞれ29事例(27.1%)、22事例(20.6%)に増加し、GI/4、GI/8、GI/9、GII/6、GII/7、GII/12、GII/13などによる事例も確認された。

 食品検査を実施した168事例のうち、ウイルスが原因とされた99事例、523検体の検査では、18事例(18.2%)、24検体(4.6%)からNVが検出された(表)。NV陽性となった食品は、23検体がカキなどの二枚貝またはその調理品であったが、3月には「ほうれん草の磯あえ」からNVGIが検出された。同事例では調理従事者からもNVGIが検出されており、遺伝子解析の結果、食品、発症者、調理従事者から検出されたそれぞれのNVの塩基配列は同一のものと判定された。聞き取り調査による共通食とも一致する検査結果であったことから、調理従事者から食品を介して発生した食中毒事例であることが示唆された。またNV陽性二枚貝の中には、これまでNVによる食中毒との関連が指摘されることが少なかった生食用岩ガキも、3検体含まれていた。

 本シーズンの途中から開始した拭き取り検査でも、ウイルスが原因とされる32事例、137検体中6事例(18.8%)、13検体(9.5%)から胃腸炎起因ウイルスが検出された。検出されたウイルスは、1事例がSVであったほかはNVGIIであり、それぞれの事例における発症者から検出されたウイルスと同一であった。中でも高齢者施設で発生した事例では、調理従事者用トイレのドアノブ等からNVが検出され、施設の衛生管理や手洗いの重要性が科学的に裏付けられた例である。検体数の急増による混乱を避けるため、拭き取る対象物や検体数は限定して検査を開始したが、次期シーズンにはそれらを緩和して実施する予定である。

 本シーズンのウイルスによる急性胃腸炎事例数は、若干減少したものの依然300例前後で推移している。新たな発生や拡大防止のためには原因食品や感染経路の究明が重要であり、そのための取り組みは現在も国内外の研究者により行われている。当センターにおいても食品や拭き取り検体を対象とした検体処理法の改良により、それらが実証される事例は増加しているが、全事例の中では一部に過ぎない。様々な要因によって発生する胃腸炎事例の原因究明には、関係者の連携となお一層の努力が必要と考えている。

 

 

 

表. ノロウイルスが検出された食中毒関連食品

(2010年9月~2011年8月)

発生 事例 検体名 NVGI NVGII
12月 パーナ貝 (+) (+)
生カキ (+) (+)
殻付生カキ (-) (+)
鍋用冷凍カキ (+) (+)
E 冷凍カキ (-) (+)
生食用カキ (-) (+)
加熱用冷凍カキ (-) (+)
1月 生食用カキ (+) (+)
生カキ (-) (+)
生カキ (-) (+)
冷凍カキフライ (-) (+)
2月 生カキ (-) (+)
冷凍カキフライ (-) (+)
生食用殻付カキ (-) (+)
焼ガキ用殻付カキ (-) (+)
カキフライ用生カキ (+) (+)
3月 ほうれん草の磯和え (+) (-)
5月  カキフライ弁当 (+) (+)
弁当用カキフライ (-) (+)
冷凍カキフライ (+) (+)
6月 生食用岩ガキ (-) (+)
生食用岩ガキ (-) (+)
生食用岩ガキ (+) (+)
カキフライ用冷凍カキ (+) (+)

微生物部 ウイルス研究科、腸管ウイルス研究室

 

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