東京都健康安全研究センター
都内における肺炎マイコプラズマのマクロライド耐性化状況(2011~2012年)

 マイコプラズマは、細胞壁を持たない最小クラスの細菌であり、中でも肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)は「マイコプラズマ肺炎」の原因菌である。マイコプラズマ肺炎は、感染症法における五類感染症定点把握疾患として、その発生状況の把握が行われている。マイコプラズマ肺炎の患者報告数は、2011年後半における全国規模の流行を境に、増加している。

 肺炎マイコプラズマは宿主の免疫機構に作用することにより炎症反応を引き起こし、肺炎等を誘発することが知られている。マイコプラズマ肺炎を治療するためには、エリスロマイシン(EM)やクラリスロマイシン(CAM)、アジスロマイシン(AZM)などのマクロライド系抗菌剤が第一選択薬剤として使用されている。これらは、肺炎マイコプラズマを含む細菌のリボソームに結合し、タンパク質合成を阻害することにより抗菌作用を与えるものである。しかし、2000年代に入り、肺炎マイコプラズマの中で、これまで治療薬として用いられてきたマクロライド系抗菌剤に対する耐性株が出現しており、臨床分野においても重要な課題となっている。 

 そこで、都内における肺炎マイコプラズマのマクロライド耐性化状況を調べるために、感染症発生動向調査事業において病院から搬送される患者検体(咽頭ぬぐい液)から菌の分離を試み、マクロライド耐性化状況を調査した。2011年4月から2012年11月に、センターに搬送された肺炎マイコプラズマ疑い患者の109検体を検査対象とした。患者の年齢は0歳から87歳であったが、そのうち約9割が18歳未満であり、男女比は1:1であった。

 一般的に薬剤耐性の有無を判別するには、抗菌剤存在下での発育の可否を調べる手法(薬剤感受性試験)がとられる。一方、肺炎マイコプラズマのマクロライド耐性については、23S ribosomal RNA遺伝子内の一部の変異、すなわち点変異の有無が、薬剤感受性試験結果と良く一致していることが報告されている。このため、当センターでは薬剤感受性試験に加えて、点変異の有無を調べる遺伝子検査法を併用し、肺炎マイコプラズマのマクロライド耐性を調べた。

 患者検体から分離された11株の肺炎マイコプラズマに対して代表的なマクロライド系抗菌薬であるエリスロマイシン(EM)を用いた薬剤感受性試験を実施した結果、9株についてEM耐性が確認され、2株はEM感受性であった。一方、各分離株から抽出したDNAを用いて遺伝子検査を行った結果、EM耐性が認められた9株では点変異(8株のA2063Gと1株のA2063T)が検出され、EM感受性であった残りの2株では、点変異は検出されなかった。すなわち、薬剤感受性試験と遺伝子検査法での結果が良く一致したのと同時に、都内で分離されたマイコプラズマ株は82%(9/11)もの割合でマクロライド耐性を保有していたことが示された。近年、全国規模で肺炎マイコプラズマのマクロライド耐性化が報告されているが、都内においても相違なく、マクロライド耐性肺炎マイコプラズマの割合は高くなっていると考えられる。

 次に、都内の蔓延状況を詳しく調べるために、遺伝子型別試験を実施した。試験は、肺炎マイコプラズマがヒトに感染する際に必須な接着器官を構成する、P1蛋白質をコードするp1遺伝子の多様性を利用した方法を用いた。本型別法はp1遺伝子内のAGT-VNTR(Variable Number of Tandem Repeat)領域におけるAGT三塩基の繰り返し回数を調べて型別する方法である。その結果、11株中、6型が1株、7型が2株、8型が3株、9型が3株、11型が1株、12型が1株となり、菌株の同一性は見られなかった。

 これらの結果から、都内においても分離された肺炎マイコプラズマの多くがマクロライド耐性を保有すると確認された一方、必ずしも同一の菌型が都内広範囲に拡散しているわけではないことが示唆された。 

 2011年後半を境とした全国的な患者数の増加や、マクロライド耐性化の拡大に関する原因は今のところはっきりしておらず、解析にはより多くの情報集積が望まれる。引き続き、都内における肺炎マイコプラズマの菌株分離とマクロライド耐性に関する分析を進め、状況を注視していく必要がある。

(微生物部病原細菌研究科臨床細菌・動物由来感染症研究室)

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