東京都健康安全研究センター
東京都におけるインフルエンザウイルス抗体保有状況調査

 東京都の流行予測調査事業に基づき2012年7月~10月の間に都民から採取された血清338件を対象として、インフルエンザウイルスに対する抗体保有状況調査を行った。抗体検査結果は、調査票に記載された年齢が明らかな335件について年齢群に分類し、各ウイルス抗原別および年齢群別の解析を行ったので、これらの成績について報告する。

 抗体の測定は、2012/2013年シーズン用インフルエンザワクチン株抗原を用いたHI(赤血球凝集抑制)抗体価測定法により行い、0-39歳までを5歳毎に、40-59歳を10歳毎に、60歳以上を1つの年齢群として計11群について発症防御効果の指標とされる40倍以上のHI抗体保有率を用いて解析を行った。

 調査の結果、2009年に発生した新型インフルエンザウイルス(現在は季節性インフルエンザウイルスの一つ)であるA(H1N1)pdm09型ウイルス株(A/California/07/2009:H1N1)抗原に対するHI抗体保有率(40倍以上)が最も低かったのは0-4歳の年齢群で46.8%と半数程度であったが、次ぐ50-59歳の年齢群は63.6%で、他の年齢群も66.7~94.6%(平均73.1%)と半数以上に抗体保有が認められた。A(H1N1)pdm09型ウイルス株は、散発発生のみで大きな流行が見られなかったことから0-4歳群における抗体保有率はワクチン接種のみによる獲得と考えられ、他の年齢群では過去に獲得した抗体にワクチン接種による抗体の獲得が追加され、抗体保有率が高くなったものと推察された(表1、図1)。

 A香港型ウイルス株(A/Victoria/361/2011:H3N2)抗原に対する抗体保有率(40倍以上)は、全体的に低かった(平均55.8%)。特に0-4歳群、50-59歳群は、29.1%、33.3%と低率であった。他の年齢群では全て 50.0%以上の保有率であったが、最も高い保有率は20-24歳群の83.3%であり、次いで5-9歳群の78.7%、30-34歳群の76.9%と続き、他は50.0~66.7%の範囲に含まれる保有率であった。これは、昨シーズンまでのワクチン株であったA/Victoria/210/2010株により誘導されていた抗A(H3N2)抗体が今シーズンのワクチン株であるA/Victoria/361/2011株と交差反応性が低いこと、ならびに昨シーズンのA(H3N2)株の流行が例年に比べてあまり大きな流行ではなく、ウイルス(ワクチン類似株等)に暴露される機会が少なかったことが今シーズンのワクチン株に対して高い抗体保有率を得にくかった一因であると推察された(表1、図1)。

 B型ワクチン株である山形系ウイルス株(B/Wisconsin/01/2010)抗原に対する抗体保有率(40倍以上)は全体の平均では91.9%と高く、最も低かった30-34歳群でも69.2%の保有率が確認された。他の年齢群では 83.3~100%であり、すべての年齢群で高率であったことが判った。一方、2010/2011年シーズンのワクチン株であったビクトリア系ウイルス株(B/Brisbane/60/2008)抗原に対する抗体保有率(40倍以上)は、0-4歳群の81.0%が最低で他の年齢群は83.3~100%と高率であった。これは、昨シーズンのB型ウイルスの流行が山形系株、Victoria系株の各株が同時に流行したことで、2種類のB型ウイルスに暴露される機会が多く存在したことが一因として考えられ、特にこれまで抗体獲得率の低かった山形系株は、ワクチン接種による抗体獲得とともに高い保有率を得ることになったことが推察された(表1、図2)。

 これらの結果から、都内では2012/2013年シーズンには抗体保有率の低かったA(H3N2)型の流行が懸念されていた。実際に2013年5月までの都内におけるウイルス検出状況に照らし合わせてみるとA(H3N2)型の流行が最も多く、B型ウイルスは検出されているものの大きな流行には至っていない。

 インフルエンザウイルス抗体保有状況について調査対象全体でみると、A(H1N1)pdm09型(A/California/07/2009)株抗原に対する40倍以上の抗体保有率が73.1%、A(H3N2)型(A/Victoria/361/2011)株抗原に対しては55.8%、今シーズンのワクチン株であるB型山形系(B/Wisconsin/01/2010)株抗原に対しては91.9%、B型ビクトリア系(B/Brisbane/60/2008)株抗原に対しては91.3%であり、抗体保有率の低下した抗原型が流行しやすい傾向が再確認された。ワクチン接種による抗体価の獲得は季節性インフルエンザ感染拡大防止対策の一つとして機能することが推察され、これらの調査のために今後も各インフルエンザウイルスの発生動向に注意して、抗体保有調査を行なっていく必要がある。

(微生物部ウイルス研究科エイズ・インフルエンザ研究室)

 

 

 

 

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