東京都健康安全研究センター
病原体レファレンス事業に基づく協力医療機関からの病原体収集とその解析結果(平成24年度)

 病原体レファレンス事業は、医療機関等の協力を得て、都内で発生する感染症の病原体を積極的に収集し、病原体の性状や遺伝子を比較・解析することにより、同定に必要な性状、血清型、薬剤耐性、遺伝子変異等を把握することを目的としている。本事業の一環として、主として感染症法では収集体制が確保されていない病原体を対象として解析を行なっているが、平成24年度に都立病院及び都保健医療公社病院から送付された病原体は641株であった(表1)。各病原体の解析結果は、以下のとおりである。

 

1.カンピロバクター

 カンピロバクター属菌として送付された菌株は89株で、その内訳はCampylobacter jejuni 78株(87.6 %)、C. coli 9株(10.1 %)、C. fetus 1株(1.1%)、C. upsaliensis 1株(1.1 %)であった。C.jejuni およびC. coli はふん便由来、C. fetus およびC. upsaliensis は血液由来であった。

 血清型別はC. jejuni の78株を対象として、Lior法(易熱性抗原を用いた型別法)により行った。血清型は、型別不能の19株を除き18種類に型別された( 型別率 75.6% )。検出頻度の高い血清型は、LIO 4: 23株(29.5 %)、TCK 1: 6株(7.7 %)、LIO 11: 5株(6.4 %)であった(表2)。

 

 2. 大腸菌

 下痢症患者由来の大腸菌は367株搬入された。検査の結果,毒素原性大腸菌(ETEC)は20株(5.4%),組織侵入性大腸菌(EIEC)は1株(0.3%)であった。確認されたETECのO血清群は11種類で,O6(5株)が最も多く,次いでO25(3株),O27,O159およびO169(各2株)であった(表3)。ETECが検出された患者の多くで渡航歴が認められ,推定感染地域はインド,中国,エジプト,ベトナム等アジア地域が多かった。EIECの血清群はO124:NMであった。 

 

3. サルモネラ

 サルモネラは22株搬入され,12種類の血清型に分類された。最も多い血清型はO9群Enteritidisで6株,次いでO4群TyphimuriumおよびSandiegoが各3株であった(表4)。これらの株についてアンピシリン(ABPC),セフォタキシム(CTX),ゲンタマイシン(GM),カナマイシン(KM),ストレプトマイシン(SM),テトラサイクリン(TC),クロラムフェニコール(CP),ST合剤(ST),ナリジクス酸(NA),シプロフロキサシン(CPFX),ノルフロキサシン(NFLX),オフロキサシン(OFLX),ホスホマイシン(FOM),スルフイソキサゾール(Su)を用いた薬剤感受性試験を実施した。その結果,いずれか1薬剤以上に耐性を示した株は12株(54.5%)であった。これらの中には7薬剤や8薬剤に耐性を示す多剤耐性株も認められた(表5)。 

 

4. エルシニア

 Yersinia enterocoliticaは4株搬入された。血清型はO3群およびO8群が各2株であった。全て渡航歴が無く,国内での感染が疑われた。 

 

5.レンサ球菌

 レンサ球菌は32株搬入され、その内訳は、A群レンサ球菌が7株、B群レンサ球菌が21株、G群レンサ球菌が3株、肺炎球菌が1株であった。各群についての型別試験および薬剤感受性試験を行った。

 A群レンサ球菌7株は、Streptococcus pyogenesであり、T血清型および発熱性毒素産生性(RPLA法)を調べた結果、T1型:2株、T6型:1株、TB3264型:3株、T12型:1株であり、発熱性毒素産生性ではB産生株:2株、B+C産生株:5株であった。B群レンサ球菌 (S.agalactiae ) の21株の血清型は、Ⅲ型が6株、Ⅵ型が5株、Ⅰb型が2株、Ⅴ型、Ⅶ型、Ⅷ型がそれぞれ1株、型別不能が5株であった。またG群レンサ球菌3株は全てS.dysgalactiae ssp. equisimilisであり、肺炎球菌1株の血清型は、14型であった。

 薬剤感受性試験は微量液体希釈法で行い、供試薬剤はABPC、セファレキシン(CEX)、セフジニール(CDTR)、セフジトレン(CFDN)、TC、CP、EM、クラリスロマイシン(CAM)、クリンダマイシン(CLDM)である。その結果、S.agalactiae 3株がTC・CP・EM・CAM・CLDMの5薬剤に耐性であり、 S.pyogenes 1株とS.agalactiaeの1株が、TC・EM・CAM・CLDMの4薬剤に耐性であった。 

 

6.黄色ブドウ球菌

 黄色ブドウ球菌は96株搬入され、コアグラーゼ型と毒素産生性について調べた(表6)

 メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)は53株で、コアグラーゼⅠ型:6株、Ⅱ型:14株、Ⅲ型:23株、Ⅳ型、Ⅴ型、Ⅵ型がそれぞれ1株ずつであり、Ⅶ型:7株であった。毒素型はSEC+TSST-1産生株が27株であり、そのうち26株(96%)がコアグラーゼⅡ型またはⅢ型であった。表皮剥脱毒素(EXT)B産生株は4株で、すべてコアグラーゼⅠ型であった。

 メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)は43株で、コアグラーゼⅤ型が14株と最も多く、次いで、Ⅶ型:10株、Ⅳ型:9株等の順であった。毒素型は、非産生株が23株と最も多く、SEC+TSST-1産生株が5株、SEA単独産生株は4株,SEA+TSST-1産生株が3株等の順であった。EXTA産生株は3株でそのコアグラーゼ型はすべてⅤ型であった。 

 

7.髄膜炎菌・百日咳菌

 髄膜炎菌2株および百日咳菌3株が搬入され、髄膜炎菌は,PCR法による血清型別の結果,B群1株及び型別不能1株であった。 

 

8.その他

 腸炎ビブリオ,赤痢菌は,各3株搬入された。腸炎ビブリオ3株の血清型は,O3:K6,O4:K8,O4:K9であった。赤痢菌は全てS. flexniri で,血清型は2a:2株および4a:株であった。3株中1株はパキスタンでの感染が疑われたが,2株は渡航歴が無い患者からの分離であった。

 同定が困難として搬入された菌株のうち、患者由来創部および呼吸器系材料から分離された3株は、Mycoplasma hominisであった。

 

表1.対象病原体(平成24年4月~25年3月) 

病 原 体 菌株数
カンピロバクター 89
大腸菌(下痢症患者由来株) 1) 367
サルモネラ 23
ビブリオ・バルニフィカス 0
エルシニア 4
リステリア 0
レンサ球菌  2) 32
黄色ブドウ球菌  3) 96
髄膜炎菌  4) 2
百日咳菌 3
その他 25
641

                      1)  腸管出血性大腸菌を除く

                      2)  劇症型溶血性レンサ球菌を除く

                                              3)  感染症由来株を除く

                                              4)  髄膜炎由来株を除く

 

表2.散発患者由来 C. jejuni の血清型 (Lior法)

血清型 菌株数 (%)
LIO  4 23 29.5
TCK 1 6 7.7
LIO 11 5 6.4
LIO 36 4 5.1
LIO 7 3 3.8
TCK 12 3 3.8
その他 15 19.2
UT 19 24.4
78 100.0

 

 

表3. 検出された毒素原性大腸菌

血清型 産生毒素 検出数 渡航歴
O6:H16 ST 1 不明
O6:H16/NM LT&ST 4 インド,タイ,中国(2)
O20:H1 ST 1 中国
O25:H42/NM ST 2 インド(2)
O25:NM LT 1 バリ島
O27:H7 ST 2 エジプト,ウズベキスタン
O91:H10 LT&ST 1 国内
O114:NM LT&ST 1 エジプト
O115:H5 LT&ST 1 インド
O153:H1 ST 1 中国
O159:H34 ST 2 韓国・中国,ミャンマー
O167:H41 ST 1 ベトナム
O169:H41 ST 2 フィリピン,香港
  20  

 

 

表4. サルモネラの血清型

O群 血清型 菌株数
O4 Typhimurium 3
Sandiego 3
Agona 1
Saintpaul 1
i:- 1
b:- 1
eh:- 1
O7 Infantis 2
Thompson 1
Braenderup 1
O9 Enteritidis 6
O3.10 Anatum 1
  22

 

 

表5. 薬剤耐性を示したサルモネラの血清型と薬剤耐性パターン 

O群 血清型 薬剤耐性パターン 推定感染地 菌株数
O4 Typhimurium ABPC,NA 韓国 1
O4 Agona SM,TC,Su 国内 1
O4 i:- ABPC,GM,KM,SM,TC,ST,CP,Su 不明 1
O7 Infantis ABPC,CTX,SM,TC,Su 国内 1
O7 Infantis SM,TC,Su 国内 1
O9 Enteritidis SM 国内 2
O9 Enteritidis NA インドネシア,フィリピン,国内 3
O9 Enteritidis TC シンガポール 1
O3,10 Anatum ABPC,SM,TC,NA,ST,CP,Su 不明 1

 

 

表6. 黄色ブドウ球菌のコアグラーゼ型と毒素産生性

                1) MRSA

毒素型 コアグラーゼ型

SEA  1)

            3  3
SEB   2            2
SEA+B             2  2
SEA+TSST-1 2)       1        1
SEC+TSST-1   12 14       1 27
SEB+C+TSST-1             1  1
EXT B 3) 4              4
(-)    9   1 1   13
 14 23   1  1  1  7 53

 

                 2) MSSA

毒素型 コアグラーゼ型
SEA     3     1   4
SEB 1             1
SEC           1   1
SEA+B           1   1
SEA+C     1   1     2
SEA+TSST-1     3         3
SEC+TSST-1   2       3   5
EXT A       3       3
(-)   3 2 11 2 4 1 23
1 5 9 14 3 10 1 43

                  1) SE : staphylococcal enterotoxin

                  2) TSST : toxic shock syndrom toxin

                  3) EXT : exfoliative toxin

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