東京都健康安全研究センター
東京都において分離された赤痢菌の菌種、血清型および薬剤感受性について(2012年)

 2012年に都・区検査機関、都内の病院、登録衛生検査所等並びに東京都健康安全研究センターで分離された赤痢菌を対象に、菌種、血清型および薬剤感受性についてまとめたので、その概略を紹介する。

 供試菌株は、都内の患者とその関係者および保菌者検索事業によって分離された赤痢菌67株(海外旅行者由来49株、国内事例由来18株)である。

 血清型別は、常法により行った。薬剤感受性試験は、米国臨床検査標準化協会(CLSI:Clinical and Laboratory Standards Institute)の抗菌薬ディスク感受性試験実施基準に基づき、市販の感受性試験用ディスク(センシディスク;BD)を用いて行った。供試薬剤は、クロラムフェニコール(CP)、テトラサイクリン(TC)、ストレプトマイシン(SM)、カナマイシン(KM)、アンピシリン(ABPC)、スルファメトキサゾール・トリメトプリム合剤(ST)、ナリジクス酸(NA)、ホスホマイシン(FOM)、ノルフロキサシン(NFLX)およびセフォタキシム(CTX)の10剤である。

 NA耐性株についてはEtest(シスメックス・ビオメリュー)を用いてシプロフロキサシン(CPFX)、レボフロキサシン(LVFX)、オフロキサシン(OFLX)、NFLXの4種類のフルオロキノロン系薬剤に対する最小発育阻止濃度(MIC:μg/ml)を測定した。

 赤痢菌67株の菌種別内訳は、ディセンテリー菌1株(海外)、フレキシネル菌27株(海外16、国内11)、ボイド菌2株(海外)、ソンネ菌37株(海外30、国内7)であった(表1)。いずれかの薬剤に耐性を示したものは66株(98.5%)で、その薬剤別耐性頻度は、SM(88.1%)、TC(85.1%)、ST(59.7%)、NA(34.3%)、ABPC(31.3%)、CP(22.4%)、NFLX(13.4%)、CTX(3.0%)の順であった。なお、KM、FOMに耐性を示す株は認められなかった。

 NA耐性を示した23株(海外16、国内7)について、フルオロキノロン系薬剤に対するMICを測定した結果、14株は低感受性(MIC:0.1~1.0μg/ml)を示し、残る9株は耐性(CPFX:4~16μg/ml、LVFX:4~8μg/ml、OFLX:8~32μg/ml、NFLX:16~32μg/ml)であった。耐性9株は、フレキシネル2a型(2株;ともにインド由来)、フレキシネル3a型(1株;ミャンマー由来)、およびソンネ(6株;インド3、タイおよびインド1、インドネシア・シンガポール・ミャンマー・マレーシア・インド1、国内1)であった。

 NA耐性を示した国内事例由来株7株のうち6株の血清型はフレキシネル3aであった。これら6株はともにTC、SM、NAに耐性を示し、うち4株はCPに耐性、2株はCPに対して中間(感受性と耐性の間)の値を示した。患者の年齢は4~51歳、性別は女性5名、男性1名であった。調査の結果、都内のタイ料理店が提供した食事との関連が疑われた事例であったが、詳しい感染経路等は不明であった。

 CTX耐性はソンネ菌2株に認められ、ともにトルコ旅行のツアー参加者から検出された。その薬剤耐性パターンはともに「SM・ABPC・CTX」で、両株ともクラブラン酸によるβ-ラクタマーゼ阻害効果が認められ、PCR法によりTEM型とCTX-M-1型遺伝子(+)であることから、ESBL産生菌と確認された。

 耐性株66株の薬剤耐性パターンは22種に分かれた(表2)。国内例のソンネ菌7株のうち6株(85.7%)は「TC・SM」の2剤耐性菌であった。これら6株は2012年の1月から10月までの1~2ヶ月おきに散発的に検出されており、患者は全て男性(21~44歳)であった。また、国立感染症研究所においてMLVA(Multilocus Variable Number Tandem Repeat Analysis)により分子疫学的に解析した結果、これら6株のソンネ菌は、同一または類似しており、2011年に関東地方で認められたソンネ菌の広域的散発事例由来株と類似していることが示された。

 今回調査した2012年分離株では、全体の26.9%が国内由来株であった。赤痢菌は発症に必要な感染菌量も少なく、また、食品等からの分離も難しいこともあり、国内感染例は感染源が特定できない例が多い。このため、上述のフレキシネル菌による事例でも言える事であるが、特に国内事例の感染経路の解明には、迅速な患者情報(性別、年齢、喫食歴、海外渡航歴の有無等)と共に、菌株情報(血清型、薬剤耐性パターン、遺伝子解析結果等)が重要である。2011年には20~40代の男性を中心としたソンネ菌の広域散発事例があった。今回の調査の結果、2012年分離株の中にも薬剤耐性パターンやMLVAによりこの広域散発事例由来株と類似とされた株が6株認められ、このクラスターに分類されるソンネ菌による感染が2012年も継続している可能性が示唆された。今後も赤痢菌の菌種、血清型および薬剤耐性の動向を注意深く監視する必要がある。

 

(微生物部 食品微生物研究科 腸内細菌研究室)

 

表1.赤痢菌の薬剤耐性菌出現頻度 (2012年:東京)

菌種 供試株数 耐性株数 (%)*
ディセンテリー 1 1 (100)
フレキシネル 27 26 (96.3)
ボイド 2 2 (100)
ソンネ 37 37 (100)
67 66 (98.5)

  *供試薬剤(10種類)の内、1薬剤以上に耐性を示した菌株

 

表2.菌種別薬剤耐性パターン (2012年:東京)

耐性パターン ディセンテリー フレキシネル ボイド ソンネ
CP・TC・SM・ABPC・ST・NA・NFLX   1     1
CP・TC・SM・ABPC・ST・NA   2     2
CP・TC・SM・ST・NA・NFLX   1     1
CP・TC・SM・ABPC・ST   3     3
CP・TC・SM・ABPC・NA   1     1
TC・SM・ABPC・ST・NA       1 1
TC・SM・ST・NA・NFLX       5 5
CP・TC・SM・ABPC   3     3
CP・TC・SM・NA   4     4
TC・SM・ABPC・ST 1 5     6
TC・SM・ST・NA       4 4
TC・SM・ABPC     1   1
TC・SM・ST     1 13 14
TC・SM・NA   2     2
SM・ABPC・CTX       2 2
SM・NA・NFLX   1     1
TC・SM       6 6
TC・ABPC   1     1
NA・NFLX       1 1
TC   2     2
SM       2 2
ST       3 3
耐性株合計 1 26 2 37 66

供試薬剤:CP・TC・SM・KM・ABPC・ST・NA・FOM・NFLX・CTX

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