東京都健康安全研究センター
都内で分離されたA群溶血性レンサ球菌の薬剤感受性および血清型別について(2009~2013年)

 A群レンサ球菌(Streptococcus pyogenes )による感染症は、以前は猩紅熱や産褥熱などの原因菌として恐れられていたが、ペニシリンをはじめとするβ-ラクタム系抗生物質が開発されて以降、劇的に減少、軽症化した。しかし、咽頭炎は1999年に施行された感染症法における小児科定点把握疾患であり、小児の感染症として、いまだに主役を務めている。

 また、1992年に本邦初の症例報告があった劇症型溶血性レンサ球菌感染症は、感染症法で五類全数把握疾患に指定されている。劇症型溶血性レンサ球菌感染症の多くもS.pyogenesが原因であり、東京都では年間20~40例程度が報告され、致死率は30~40%である。

 S.pyogenesは、その菌体表層蛋白としてMタンパクやTタンパクなどを持っている。Mタンパクは、抗食作用因子として重要な病原因子のひとつであり、100種類以上の血清型に分類されている。Tタンパクは、トリプシンに耐性のあるタンパクで、19種類の血清型に分類される。Mタンパク抗原による型別は、抗血清の作製が困難であり、型別用血清を用いた型別は難しい。そのため、Mタンパクをコードするemm遺伝子の配列をデータベースとしたemm型別が行われることが多い。一方、Tタンパク抗原を用いたT血清型別用免疫血清は市販されており、型別率も高く、疫学的分類方法として常用されている。

 一般にA群溶血性レンサ球菌咽頭炎の治療としての第一選択薬はペニシリン系薬剤である。嘔吐などの副作用やアレルギーがある場合は、マクロライド系やセフェム系薬剤が使用される。また、劇症型溶血性レンサ球菌感染症の治療には、ペニシリン系とリンコマイシン系薬剤が併用されている。

 当センターでは、1970年代からS.pyogenesの薬剤感受性についての調査を行っている。近年、マクロライド系薬剤耐性菌の存在が問題視されており、第一選択薬の是非が患者の予後を左右することもあり、S.pyogenes の血清型別、薬剤感受性調査は非常に重要となっている。

 今回は、感染症発生動向調査事業として、2009~2013年の5年間に都内の医療機関を受診した咽頭炎患者検体から分離されたS.pyogenes 330株の薬剤感受性試験および型別試験の結果について報告する。 

 薬剤感受性は、日本化学療法学会測定標準法である微量液体希釈法による最小発育阻止濃度(MIC)で測定した。供試薬剤は、アンピシリン(ABPC)、セフジニール(CFDN)、セファレキシン(CEX)、セフジトレン(CDTR)、テトラサイクリン(TC)、クロラムフェニコール(CP)、エリスロマイシン(EM)、クラリスロマイシン(CAM)、クリンダマイシン(CLDM)、リンコマイシン(LCM)の10剤である。血清型別は、A群溶血性レンサ球菌T型別用免疫血清(デンカ生研)を用いて行った。

 薬剤感受性試験の結果、β-ラクタム系薬剤であるABPC、CFDN、CEX、CDTRの4剤についてはいずれも良好な抗菌力を示した。一方、その他の6剤ではすべてに対して耐性株が認められた(表1)。

 薬剤耐性状況についてみると、330株中CP耐性(≧16μg/ml)株は、2010年に分離された1株のみであった。TC耐性(≧8μg/ml)は50株(15%) であり、前回調査(2004年から2008年)の21%に比べ、やや減少傾向であった。EM耐性(≧1μg/ml)は206株、CAM耐性(≧1μg/ml)は205株と、共に62%で両薬剤の耐性率は前回の35%に比べて2倍近く高くなっていた。また、LCM耐性(≧1μg/ml)は76株(23%)、CLDM耐性(≧1μg/ml)は75株 (23%) であり、CLDM耐性は、前回の6% と比較して約4倍と大幅に増加していた。

 T血清型別の結果、最も多く分離されたのはT1型の64株(19%)、次いでT12型57株(17%)、T4型40株(12%)、T28型39株 (12%) の順であった(図1)。

 EMおよびCAMに対する耐性率が最も高かった2012年は、T12型とT28型株の検出が多く、EM耐性株53株のうち、T12型が18株(34%)、T28型が10株(19%)とこれら2種の型が半数以上を占めていた。また、劇症型溶血性レンサ球菌感染症の治療薬で、ペニシリン系薬剤と共に第一選択薬として使用される、リンコマイシン系薬剤CLDMの耐性株28株もT12型(12株)またはT28型(10株)が多く、この2種の型で78%を占めていた。

 耐性率の高いT型菌の流行には、治療薬の選択に留意する必要があるため、今後も感染症発生時には原因菌の分離および疫学的検討を行い、それらの動向を把握する必要がある。

 (病原細菌研究科 臨床細菌・動物由来感染症研究室)

 

 

                                                          *その他:2型,3型,9型,13型,22型,UT(型別不能)

図1.A群レンサ球菌T血清型の推移(2009~2013年)

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