東京都健康安全研究センター
クリプトスポリジウム症と都内で発生したクリプトスポリジウム集団感染例

クリプトスポリジウム症とは

 クリプトスポリジウムは、アピコンプレックス門クリプトスポリジウム科に属する原虫で、ヒトを含むほ乳類、鳥類、は虫類などから26種のクリプトスポリジウムが報告されている。これまでに13種のクリプトスポリジウムのヒトへの感染が報告されているが、感染例の大部分を占めるのは、主にヒトから検出されるCryptosporidium hominisと人獣共通に感染が認められるCryptosporidium parvumの2種である。また、七面鳥やニワトリなどの鳥類に寄生するCryptosporidium meleagridisのヒトへの感染例も報告されている。

 クリプトスポリジウム症では、感染後、4-10日で水様性下痢を主とする症状を示し、急性期には便1gに107個のオーシストを排出する。感染者によっては腹痛、吐き気、おう吐、37- 38 ℃台の発熱を伴う場合がある。患者の免疫機能が正常であれば下痢は数日から10日前後で自然治癒するが、治癒後1ヶ月間程度、糞便内に本原虫が認められることがあるので、特にプールやお風呂による2次感染には注意が必要である。1日30回にも及ぶ激しい下痢、腹痛のため、入院加療を要することもある。エイズなど免疫不全患者の感染の場合、重症の下痢症がいつまでも続き、体重減少と衰弱が著しく、死に至る例がある。各種免疫不全患者が感染した場合は、医師の判断により、ニタゾキサニドの投薬を行うこともある。また、クリプトスポリジウム症は感染症法上、五類感染症(全数把握対象)に指定され、医師は診断後、7日以内に最寄りの保健所へ届け出が義務付けられている。

 

これまでの集団感染事例

 推定感染者数が100名を超える国内の集団感染例は、1994年以降2013年までに5事例が知られている(表1)。1994年の神奈川県平塚市における国内最初の集団感染例と1996年に発生した埼玉県の越生町で発生した集団感染例は、水道水へのクリプトスポリジウム混入が原因で、前者の推定感染者数は約460人(原因寄生虫:C. parvum)、後者の越生町では約8,800人(原因寄生虫:C. hominis)と報告された。それ以降、2002年に北海道の宿泊施設2施設で食中毒と考えられる計約300名のC. hominisによる2つの集団感染例、2004年に長野県の宿泊施設でプール水への混入やシャワー室の蛇口などに付着したC. hominisによる約290名の集団感染例が知られている。

 

都内における集団感染届出の経緯

 2014年6月12日に移動教室に参加した都内A小学校5年生および教職員の間で、下痢症が集団発生しているという報告が保健所にあった。また、翌13日には別のB小学校から林間学校に参加した小学5年生および教職員において同様の症状を呈する集団下痢症の発生が届けられた。調査の結果、これらの小学校は、同一日に同一牧場を利用していることが判明し、最終的に有症者は2校で約200名となった。さらに、当該施設利用状況を調査していく過程で、別の3市の3小学校でも同様の集団下痢症が発生していることが判明した。

 

検査結果と今後の課題

 A小学校では33検体中30検体(陽性率91.0%)、B小学校では48検体中30検体(陽性率62.5%)から顕微鏡下でクリプトスポリジウムが検出された(図1)。調査段階で下痢症の発生が判明した3市の小学校のうちC小学校の25検体中2検体(陽性率8.0%)からもクリプトスポリジウムが検出された。しかし、他の2市の小学校2校の有症者からは検出されなかった。さらに、B小学校の子供からの家族内感染が疑われた8検体について検査を行った結果、2検体(陽性率25.0%)からクリプトスポリジウムが検出された。クリプトスポリジウムの18S rRNA、60-kDa glycoprotein(GP60)遺伝子の解析を行った結果、A、B、C の3校の患者から検出されたクリプトスポリジウムの塩基配列は100%一致し、今回の集団下痢症の原因がC. parvumであることが明らかとなった(図2)。
 クリプトスポリジウム感染の認められた3校の宿泊先が異なること、検出されたクリプトスポリジウムが主にウシ由来のC. parvumであり、そのGP60遺伝子の塩基配列が完全に一致したことから、3校の共通利用施設である牧場体験が原因と推定された。当該施設利用日は、A小学校が6月5日の午前、B小学校が6月5日の午後、そしてC小学校が6月6日の午前であった。そこで、牧場所在地の所轄保健所の協力により牧場施設に関係した54検体を検査したが、すべての検体においてクリプトスポリジウムは検出されなかった。その理由として発生日から2週間以上経過した後のサンプリングによる検体であったためではないかと推察された。

 今回、移動教室先の牧場施設がクリプトスポリジウムの感染原因施設と推定されたが、酪農が盛んでヒトと牛との接触の機会が多い北海道における散発事例では、C. hominisの感染事例よりもウシの接触と考えられるC. parvum感染例の方が多く報告されている。都内の小学校では、林間学校や移動教室の際、普段経験できない牧場体験を通して動物と触れ合う機会を設け、教育の一環としていることも多く、推定原因施設とされた牧場でも、集団感染が発生した6月には多数の小学校等の利用が予定されていた。今後、ウシを飼育する施設においては、クリプトスポリジウム感染の危険性が存在することを認識する必要があるとともに、ふれあい動物として特に仔ウシを利用者と接触させる場合には、事前の検査が求められると考えられた。

病原細菌研究科 寄生虫研究室

 

 

 

 

 

図2.NJ法によるクリプトスポリジウム18S rRNAの系統樹解

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