東京都健康安全研究センター
黄色ブドウ球菌食中毒における可動性遺伝因子の役割と近年の知見

1.ブドウ球菌エンテロトキシンと可動性遺伝因子

 ブドウ球菌食中毒は、黄色ブドウ球菌(S. aureus)の産生するブドウ球菌エンテロトキシン(Staphylococcal Enterotoxins;SEs)の摂取により引き起こされる一般的な毒素型食中毒である。本食中毒は、平均3時間の潜伏時間の後に発症し、主症状は嘔吐及び悪心であり、場合によっては下痢を伴う。厚生労働省の統計によると、日本では年間およそ50事例のブドウ球菌食中毒が発生しているとされている。そのうち、東京都における事例は全体のおよそ10%を占め、年間5事例前後の報告がなされている。

 S. aureusによる食中毒事例は,食品製造・販売段階での食品の衛生的な取扱い及び適切な保存管理により近年減少傾向にあるが、2000年に関西地方において加工乳に混在したSEsを原因とする大規模食中毒事例(患者数13,420名以上)が発生するなど、S. aureusは公衆衛生上常に注意を払わなければならない食中毒起因菌の一つであり、同菌の制御、特にその毒素産生の制御は、食の安全を確保する上で重要視される。

 原因毒素のSEsは、1971年までに抗原性の異なる5種類の型(古典的 SEs;SEA~SEE)が存在することが報告された。食中毒検査の分野においては、現在に至るまで血清学的手法に基づく市販キットを用いてこれら古典的SEsの産生型別を実施している。しかし、近年、古典的SEs以外にも嘔吐活性を持つ新型SEs、及びSEsと構造が類似するエンテロトキシン様毒素(Staphylococcal enterotoxin-like toxins;SEls)が次々と報告され、現在までにSEA~SEE、SEG~SElYの24種類(SEFは欠番)が同定されている。

 SE/SEls遺伝子の多くは、菌株間で移動することが可能なDNAである可動性遺伝因子(mobile genetic elements;MGE)上に存在し、MGEがS. aureusの食中毒起病性の獲得に深く関与することが知られている。この事実は、各種のMGEを同定しその特性を解析することが、S. aureusの食中毒病原体としての起病性を考察する上で非常に有益であることを想起させる。本稿では、S. aureusの持つMGEを解説し、食中毒に関与するMGEの特性について筆者らが得た研究結果を交えて紹介する。

 

2.SE/SEls遺伝子に関連する可動性遺伝因子の種類

 近年、S. aureusのゲノム解析が盛んに行われている。その過程でSE/SEls遺伝子が存在するMGEが同定され、本遺伝子がどのような組み合わせでMGE上に存在するのか明らかにされつつある。SE/SEls遺伝子が存在するMGEには以下のものが知られており、本遺伝子の獲得形式は多岐にわたる。また、同じ毒素型遺伝子が異なるMGE上に存在することもあり、毒素遺伝子の存在様式はその毒素の産生量に影響することが示唆されている。

1)プラスミド(sedseljsersessetなど) 

 プラスミドは最も代表的なMGEである。S. aureusが保有するものの内、特定のプラスミドにSE/SEls遺伝子が隣接して存在することが知られている。例えば、sedseljserが存在するpIB485やseljsersessetが存在するpF5などが同定されている。

 

2)プロファージ(seaseksepseqなど) 

 SE/SEls遺伝子が存在するプロファージはSiphoviridaeに属する。食中毒の原因毒素として最も多く検出されるseaはプロファージ上に存在し、そのタイプによって高SEA産生型プロファージと低SEA産生型プロファージに大別される。sea,sek,seqが存在するφSa3mwやseaが存在するφSaMu3Aなどが知られている。

 

3)ブドウ球菌病原性アイランド(SaPI)(sebsecsekselseqなど) 

 SaPIは14-17 kb程の大きさでファージ様の遺伝子構造を持ち、ゲノム内に特定の6か所の挿入可能領域を持つMGEである。現在までに30種類以上のSaPIが同定され、SE遺伝子が存在するものとしてはseb,sek,seqが存在するSaPI3やsecselが存在するSaPImw2などが知られている。また、筆者らはsebが存在するSaPITokyo11212とSaPITokyo12413及びsecselが存在するSaPITokyo12381とSaPITokyo12571を新たに同定した(後述)。

 

4)νSaゲノムアイランド(segseisemsenseoselvselwなど) 

 νSaは、ゲノム上の特定の領域に挿入されているS. aureus特有のゲノムアイランドである。νSaゲノムアイランドは主に2種類(νSaα及びνSaβ)あり、SE/SEls遺伝子が存在するのはνSaβである。νSaβ内にはエンテロトキシン遺伝子クラスター(enterotoxin gene cluster;egc)と呼ばれる複数のSE/SEls遺伝子の連なった領域が存在する。egcにおけるSE/SEls遺伝子の組み合わせは複数あり、例えば、egc1にはsegseisemsenseoが、egc4にはsegsenseoselvselwが存在する。これらは共通の祖先遺伝子から重複、組換え等により新しい毒素遺伝子のバリエーションを生み出された結果構成されたものと考えられている。

 

5)Staphylococcal cassette chromosome(SCC)近接遺伝子(seh) 

 sehS. aureusの持つトランスポゾンの一つであるSCCに近接して存在する。なお、SCCの中で、メチシリン耐性に関与する遺伝子mecAを持つものはSCCmecと呼ばれ、いくつかの構造の異なるアロタイプが存在する。これを利用したタイピング法(SCCmec typing)が、院内感染の原因菌の一つであるMethicillin-Resistant Staphylococcus aureus(MRSA)の分子疫学的研究に広く用いられている。

 

3.都内食中毒事例S. aureus株から同定された新規SEs関連SaPIの特性

 筆者らは、都内食中毒事例由来のS. aureus株の中から、seb保有SaPIであるSaPITokyo12413とSaPITokyo11212、sec,sel保有SaPIであるSaPITokyo12571とSaPITokyo12381を新たに同定1)した(図1)。それぞれの新規SaPIを保有するS. aureus株は,既知のSEs関連SaPIを保有する株と比較し同等もしくは有意に多いSE産生量を示し(表1)、高い食中毒起病性を持つことが示唆された。また,これらのSaPIが菌株間で移動することが可能か否かを検証するため、移動するための一過程(SaPIDNAを複製する過程)に必要なタンパク質(複製開始タンパク質)の機能解析を行った。SaPITokyo11212,SaPITokyo12571及びSaPITokyo12381は既知SaPIと同様にその機能を保持していたが、SaPITokyo12413はその機能を失っていたため、移動能力を欠如することを示唆するものであった。

 

4.プラスミドによる食中毒事例への関与と変異型sed遺伝子の同定

 筆者らは、食中毒由来sed陽性S. aureus株の持つSEs関連プラスミドを同定し、同プラスミドによる食中毒起病性を検討した2)。解析した全てのS. aureus株(7株)は、pIB485-like plasmidを保有し、SElJを産生していなかった1株を除き、本プラスミド上にコードされるSElJ及びSERを産生していた。このことは、S. aureusが本プラスミドの伝播により、嘔吐活性を持つSERやそれを持つ可能性があるSElJの産生能を獲得し、食中毒起病性を高めることを示唆する。また供試S. aureus 7株は、SED産生型(>500 ng/ml)とSED非検出型(<0.1 ng/ml)に分けられた(図2)。後者に属するS. aureus株が持つpIB485-like plasmid内のsedの塩基配列において、514番目の塩基が欠損しフレームシフト変異が生じていた(図3)。その結果、C末端部分のアミノ酸残基を欠失するmSED配列が存在した。これらのS. aureus株において、msed遺伝子の転写を認めたが、抗SED抗体を用いての検証からは、mSEDタンパク質が菌体外に分泌されているかを明確にすることができなかった。mSEDがSEとして食中毒の原因毒素になりえるか否か、今後更なる検証が必要である。

 

5.食中毒分離株の持つ可動性遺伝因子

 S. aureusのゲノムは、本菌の生存維持や基本的な生化学的性状を作る遺伝子群が存在するコアな部分(コアゲノム)と生存には直接関与しない外来性の遺伝子群(すなわちMGE)によって構成され、前者が全ゲノムのおよそ7-8割を、後者が残りを占めている。S. aureusの病原性(SEによる嘔吐活性を含め)の有無や強弱は、各株が持つMGEの保有パターンが深く関与している。しかし、実際の食中毒事例分離株がどのようなMGEの保有パターンを持ち、食中毒の発生に関与しているのか、どのような遺伝学的特性を持つS. aureusが食中毒を起こしやすいのかは未だ不明な点が多い。

 筆者らは、SE/SEls遺伝子の網羅的解析を実施し、東京都で分離された食中毒由来S. aureus株が持つMGEの保有パターンを予測した3)。また、それらとコアグラーゼ型、MLST型を組み合わせた結果、特定の遺伝学的特性を持つ8種類のS. aureusが存在することが明らかとなった。このことは,S. aureusの中で,特定の遺伝学的特性を持つS. aureus株が食中毒を引き起こしやすいという、疾病特異的なS. aureusの集団が存在することを示唆するものである。

 今後、次世代シークエンサ等を用いた大規模ゲノム解析がより身近となり、食中毒を引き起こしやすいS. aureusのより詳細な遺伝学的特性が明らかとなっていくであろう。これは、食中毒防除を行う際の科学的情報として重要であり、食品を取り巻く環境中の汚染実態調査や汚染源の特定、食品への付着経路の推定等に寄与できると考えられる。また、豊富なデータによって裏付けられたゲノム情報が、PCRなど簡易かつ迅速な検査方法の開発に応用されることも期待される。

(食品微生物研究科食品細菌研究室 鈴木康規)

 

参考文献

1)Suzuki, Y. et al. (2015) Identification and characterization of novel Staphylococcus aureus pathogenicity islands encoding staphylococcal enterotoxins originating from staphylococcal food poisoning isolates. J. Appl. Microbiol. 118, 1507-1520.

 

2)Suzuki, Y. et al. (2015) Detection of the staphylococcal enterotoxin D-like gene from staphylococcal food poisoning isolates over the last two decades in Tokyo. J. Vet. Med. Sci. 77, 905-911.

 

3)Suzuki, Y. et al. (2014) Molecular epidemiological characterization of Staphylococcus aureus isolates originating from food poisoning outbreaks that occurred in Tokyo, Japan. Microbiol. Immunol. 58, 570-580.

 

 図1 新規SaPIの遺伝子構造

 

 

表1 新規SaPIを保有する各菌株のSEs産生量の比較 

 

 

図2 食中毒由来S. aureus 株におけるSED,SElJ及びSERの産生量

 

 

図3 食中毒由来S. aureus 分離7株の持つプラスミド上のsed配列と変異型sed配列の比較

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