東京都健康安全研究センター
梅毒RPR法の検査法による定量値の比較と東京都保健所等における梅毒検査陽性数の推移

 梅毒はTreponema pallidum を起因菌とする感染症であり、1948年に制定された性病予防法(1999年廃止)において指定されていた古典的な性感染症である。感染症法では全数把握の五類感染症に指定されており、診断した医療機関は7日以内に保健所に届出を行うことが義務付けられている。近年、梅毒の届出数は上昇傾向にあり、2015年には東京都の報告数は1,000件を超えている(図1)。都内届出例の推定感染経路別の推移(図2, 3)を見ると、男性同性間接触に由来する患者数は増加し、それ以上に異性間接触に由来する患者数が増加している。このことは、従来想定されてきたMSM (Men who have Sex with Men) 1)を中心としたコミュニティー内での伝播・蔓延に加え、異性間接触による女性の感染の増加があると考えられ2)、さらなる蔓延が危惧されている。

 

 医療機関から保健所への梅毒の届出にあたっては、臨床症状や診断所見から梅毒が疑われる有症例であり、表1の左欄の検査方法により梅毒と診断された場合、届出基準の条件を満たすこととなる。臨床的特徴を呈していない無症候性の被験者の場合には、血清学的検査であるSTS (Serologic Test for Syphilis) 、すなわちRPR (Rapid Plasma Reagin test) カード法、凝集法またはガラス板法における血清希釈倍数が16倍以上であることが必要とされている。

 

 近年、梅毒検査において主流となっている自動化法を使用した検査では、届出基準を16.0 R.U, 16.0 U, 16.0 SU/ml 以上とすることが、追加届出基準の条件に追加記載(「平成26年5月12日適用「医師及び指定届出機関の管理者が都道府県知事に届け出る基準」」された。STSにおける用手法と自動化法との検査判定の一致や検査数値の相関性については、尾上ら3)が、「定性試験における両者の判定一致率は高い、しかし定量試験では用手法の倍数値と自動化法の定量値の相関性はあるものの数値自体の一致はみない」と報告している。

 東京都健康安全研究センターにおいて、梅毒陽性の血清検体40件についてRPRカード法と自動化法による測定を実施し、希釈倍率から求めた定量値を比較した結果を図4に示した。その結果、両者の傾向はよく一致しており、16倍あるいは16R.U.の基準値が一致しなかった例は2例(5%)のみであった(図中の赤菱形)。

 

 梅毒届出数の急激な増加理由の一つとして、自動化法導入による届出基準の追加によって従来のカード法では基準値を満たさなかった例が届出基準を満たすようになったためではないか、と危惧する考え方があるが、16倍あるいは16R.Uという基準値に注目してみると両者による判定の相違の割合は小さく、検査法の相違により届出数が変わるものではないと考えられた。

 

 東京都では保健所、南新宿検査・相談室等で、エイズ(HIV)、梅毒、クラミジアの無料匿名検査を実施している。当センターでは特別区保健所や南新宿検査・相談室より依頼された検体について梅毒検査を実施し、TPLA法(Treponema pallidum Latex Agglutination)とRPR法(2015年3月まではカード法、4月より自動化法)によるスクリーニング、TPHA法 (Treponema pallidum Hamagglutination) による確認検査を実施している。

 

 過去5年間の陽性率【(RPR(+)および TPHA(+)】の推移(図5)をみると、南新宿検査・相談室の2014、2015年の結果はそれ以前と比較してやや陽性率が高くなっているものの、医療機関からの届出数に類似した顕著な上昇はみられていない。また男女別の陽性数 【RPR(+)および TPHA(+)】の推移(表2)においても、女性の陽性数は顕著な上昇がみられず、女性の割合の増加が目立つ梅毒届出数(図1)とは異なった様相を呈している。2015年以降、南新宿等の梅毒検査機会が増加したため、梅毒検査陽性数自体は増加しているものの、陽性率は上昇しておらず、性感染症定点における梅毒報告数の増加と同様の現象は確認できていない。

 

※参考
 梅毒、クラミジアはHIV感染症との関連性が指摘されている4)。2013年以降の特別区保健所、南新宿検査・相談室の性感染症検査陽性率の推移を表3に示す。特別区保健所では通年で検査を実施しているが、南新宿検査・相談室では2014年以前は6月の東京都HIV検査・相談月間と11月15日~12月14日の東京都エイズ予防月間が対象であり、2015年4月からは通年で実施している。

 

1) 杉下由行ら:病原微生物検出情報(国立感染症研究所), 35, 132-134, 2014
2) エイズニューズレター、2016年3月臨時増刊号

    http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/iryo/kansen/aids/newsletter.files/NL_No.160.pdf
3) 尾上智彦:病原微生物検出情報(国立感染症研究所), 36, 20, 2015
4) 三宅啓文ら:東京健安研セ年報, 64, 41-45, 2013

(微生物部病原細菌研究科 性感染症・血清研究室 三宅 啓文)

 

 

 

 

  

 

 

  

 

 

  

 

 

  

  

 

  

 

 

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