東京都健康安全研究センター
エルシニアによる集団感染事例と豚肉からのエルシニア検出状況

  1.経口感染するエルシニア症

 エルシニア属菌は腸内細菌科に属するグラム陰性桿菌で、中でもエルシニア・エンテロコリチカ(Yersinia enterocolitica)およびエルシニア・シュードツベルクローシス(Y. pseudotuberculosis)は、ヒトにおいて経口的に感染し、胃腸炎などを起こす。両菌種とも至適発育温度は25-30℃であるが、低温(0-4℃)条件下での発育も可能である。これらの菌はブタの扁桃や腸管に保菌されるほか、シカ、イノシシ、ネズミなどの野生動物、イヌやネコなどのペットのふん便、河川水などからの分離が報告されている。

 

2.エルシニア・エンテロコリチカ

 エルシニア・エンテロコリチカは、わが国では1971年に散発性腸炎患者から初めて分離された1)。 1972年以降、本菌による集団食中毒事例が相次いで発生し(表1)、1982年には厚生省(当時)により、カンピロバクター、ナグビブリオ、ウエルシュ菌などとともに食中毒菌として指定された。臨床症状は腹痛、下痢、嘔気、嘔吐などの胃腸炎症状を主徴とし、発熱、頭痛、咽頭痛などのかぜ様症状を伴うこともある。また、右下腹部痛・嘔気・嘔吐から虫垂炎と診断される場合もある。

 本菌は菌体抗原(O抗原)による血清群や生化学性状による生物型で分類される。ヒトに病原性を示す血清型は、O3群・生物型3または4、O5,27群・生物型2、O8群・生物型1B、O9群・生物型2などが多い。国内で2000年以前に発生した集団食中毒起因菌の血清型はO3群が13事例、O5,27群が2事例であった。しかし、2000年以降に発生した集団食中毒7事例の血清型は、すべて強病原性株と言われているO8群であった。

 

3.エルシニア・シュードツベルクローシス

 エルシニア・シュードツベルクローシスによる臨床症状は腹痛、下痢などの胃腸炎症状のほか、発熱、発疹などの多彩な全身症状を呈する。特に幼児では高熱、胃腸炎症状、発疹、紅斑、口唇紅潮、イチゴ舌、四肢落屑、結膜充血、頸部リンパ節腫脹、心冠動脈拡張、腎不全などの症状を示す場合がある。これらの症状から、川崎病との関連が指摘されている。エルシニアの鑑別には血清抗体価測定が有効であるが、国内での検査実施機関は少ない。

 本菌の発症菌量は少ないと考えられており、食品媒介が疑われる集団感染事例も散見される(表2)。エルシニア・シュードツベルクローシスはO血清群により21種類に分類され、その中でヒトに病原性を示すと考えられる血清型は1a、1b、2a、2b、2c、3、4b、5a、5b、6、10および15群である2,3)

 

4.豚肉からの病原性エルシニア・エンテロコリチカおよびエルシニア・シュードツベルクローシス検出状況

 国内で調査された豚肉からの病原性エルシニア・エンテロコリチカおよびエルシニア・シュードツベルクローシスの検出状況4-10)を、表3にまとめた。各々の調査により検査した部位や検査法は異なっており、陽性率は0.1%~58%であった。検出された病原性エルシニア・エンテロコリチカの血清型はO3群、O5群、O9群であり、近年の集団食中毒の主要血清型であるO8群は検出されていない。

 病原性エルシニア・エンテロコリチカO8群は、ブタ腸管内容物から1991年に分離された報告があり11) 、シカ12,13)やネズミ14) などの野生動物からの検出も報告されている。

 当センターにおいて豚内臓肉を検査した結果9,10) 、同一検体から病原性エルシニア・エンテロコリチカおよびエルシニア・シュードツベルクローシスが同時に分離され、また、様々な血清型の菌が検出されるなど、豚内臓肉は複数のエルシニアに汚染されている場合も多いことが明らかとなった。さらに検出されたエルシニア・シュードツベルクローシスの血清型は、 1群~6群と多彩で、病原性に関与すると言われている血清群も含まれていた。

 以上の調査結果から、豚肉は病原性エルシニア・エンテロコリチカおよびエルシニア・シュードツベルクローシスに汚染されているリスクがあり、特に豚タンなどの内臓肉の汚染率は高いため、豚肉を取扱う際には注意が必要であると考えられた。エルシニアは低温増殖性があるため、冷蔵庫を過信しすぎないことも重要である。また、調理をする際には食材ごとに調理器具を分けるなど二次汚染防止に留意することが必要である。一方で、エルシニアは70℃で死滅することから、十分に加熱すれば健康被害を防ぐことが可能と考えられる。

 

 

参考文献
1) Zenyoji H. et al:Jap. J. Microbiol., 16, 493-500, 1972.
2) Hayashidani, H:Jap. J. Food Microbiol., 33, 175 181, 2016.
3) 林谷秀樹ら:モダンメディア,51, 211-216, 2005.
4) Asakawa Y. et al:Contrib Microbiol Immunol., 5, 115-121, 1979.
5) Fukushima H. et al.:Appl. Environ Microbiol., 50, 710-712, 1985.
6) 金子誠二ら:東京都立衛生研究所研究年報,37, 136-140, 1986.
7) Shiozawa K. et al.:Contrib Microbiol Immunol., 9, 30-40, 1987.
8) Fukushima H. et al., Int. J. Food Microbiol., 35: 205-212, 1997.
9) 下島優香子ら:第26回地研全国協議会関東甲信静支部細菌研究部会,2014.
10) 福井理恵ら:第37回日本食品微生物学会学術総会,2016.
11) 大友良光ら:メディヤサークル,41,  8-13, 1996.
12) 東京都,平成16-17年度 野生シカ疾病等調査結果
13) 長野県,平成18年度 ニホンジカ疾病等基礎調査結果
14) Iinuma Y. et al.:J. Clin. Microbiol., 30,  240-242, 1992.

 

(食品微生物研究科 井田美樹)

 

表1 エルシニア・エンテロコリチカ集団感染事例(文献2)を元に作成)

 

表2 エルシニア・シュードツベルクローシス集団感染事例(文献2)を元に作成)

 

 

 

表3 豚肉からの病原性エルシニア検出状況

 

Y. e.:エルシニア・エンテロコリチカ, Y. p.:エルシニア・シュードツベルクローシス

本ホームページに関わる著作権は東京都健康安全研究センターに帰属します
© 2017 Tokyo Metropolitan Institute of Public Health. All rights reserved.