東京都健康安全研究センター
病原体レファレンス事業に基づく病原体等の収集と解析結果(平成28年度)

 病原体レファレンス事業は、都内で発生する感染症の病原体等を積極的に収集し、病原体の性状や遺伝子を比較・解析することにより流行型の血清型や薬剤耐性、遺伝子変異等を把握し監視していくことを目的としている。

 本事業では、医療機関や保健所等の協力により主として感染症法では収集体制が確保されていない病原体の収集と、積極的疫学調査において麻しん検査を行った結果、麻疹ウイルスが陰性の場合に他のウイルス検査を行う類症鑑別診断を実施している。

 

1.協力医療機関から収集した病原体の解析

 医療機関等の協力により、カンピロバクター、大腸菌、エルシニア、レンサ球菌、黄色ブドウ球菌、髄膜炎菌等を収集している。平成28年度に都立病院及び都保健医療公社病院から送付された病原体(菌株)は、表1のとおりである。また、各病原体の種類・解析結果は以下のとおりである。

 

1)カンピロバクター

 カンピロバクター属菌として送付された菌株は130株で、その内訳はCampylobacter jejuni 113株(86.9%)、C. coli 14株(10.8%)およびC. fetus 3株(2.3%)であった。C. jejuni 1株、C. coli 1株およびC. fetus 2株は血液由来、C. jejuni 1株およびC. coli 1株は大腸粘膜由来、C. coli 1株は消化器由来、その他123株 (94.6%) は糞便由来であった。

 C. jejuni の血清型別方法は、これまで易熱性抗原の免疫学的特異性により型別するLior法で行ってきたが、今年度からは耐熱性抗原を標的抗原として型別するPenner法により実施した。血清型は、型別不能の71株を除き13種類に型別された( 型別率 37.2% )。検出頻度の高い血清型は、D群: 11株(9.7%)、O群: 6株(5.3%)、L群: 5株(4.4%)、Y群: 4株(3.5 %)、R群: 4株(3.5 %)、その他12株(10.6%)であった(表2)。

 

2)大腸菌

 下痢症患者由来の大腸菌は310株搬入された。このうち毒素原性大腸菌(ETEC)は19株(6.1%)であり、血清型および毒素型により6種類に分類された(表3)。最も多く検出されたO血清群はO169(7株)で、次いでO159(4株)、O6およびO15(各3株)、O25(2株)であった。ETECが検出された患者は、全て海外渡航歴が認められ、推定感染地はタイ、ベトナム、インド等であった。

 

3)サルモネラ

 サルモネラは44株搬入され、17種類の血清型に分類された。最も多い血清型はO4群Chester(9株)、次いでO9群Enteritidis(8株)、O4群Stanleyville およびO7群Infantis(各4株)であった(表4)。

 海外での感染が推定されたのはO4群Agona(インド)、O4群Reading(南アフリカ)、O8群Kentuckey(インド)、O9群Enteritidis(アフリカ、マレーシア)であった。

 搬入された株についてアンピシリン(ABPC)、セフォタキシム(CTX)、ゲンタマイシン(GM)、カナマイシン(KM)、ストレプトマイシン(SM)、テトラサイクリン(TC)、クロラムフェニコール(CP)、ST合剤(ST)、ナリジクス酸(NA)、シプロフロキサシン(CPFX)、ノルフロキサシン(NFLX)、オフロキサシン(OFLX)、ホスホマイシン(FOM)、スルフイソキサゾール(Su)を用いた薬剤感受性試験を実施した。その結果、いずれか1剤以上に耐性を示した株は16株(36.4%)であった(表5)。

 

4)エルシニア

 Yersinia属菌は18株搬入された。このうちY. enterocoliticaは17株、Y. pseudotuberculosisは1株であった。Y. enterocoliticaの血清型はO3群が7株、O8群は9株、O9群は1株で、Y. pseudotuberculosisの血清型は3群であった。推定感染地は、国内が6株、不明は12株であった。

 

5)レンサ球菌

 レンサ球菌は31株搬入され、その内訳はA群が14株、B群が11株、G群が4株、肺炎球菌が2株であった。

 A群レンサ球菌はすべてStreptococcus pyogenesであり、そのT血清型は1型が4株、11型3株、12型及び13型各2株、3型、B3264型及び型別不能が各1株であった。発熱性毒素産生性ではB産生株10株、B+C産生株3株、A+B+C産生株1株であった。

 B群レンサ球菌 (S. agalactiae)11株の血清型は、Ⅲ型:4株、Ⅴ型:2株、Ia、Ib及びⅥ型が各1株、型別不能が2株であった。また、G群レンサ球菌4株は、全てS. dysgalactiae subsp. equisimilisであった。

 肺炎球菌2株の血清型は、肺炎患者から分離された23A型と、敗血症患者から分離された22F型であった。

 

6)黄色ブドウ球菌

 黄色ブドウ球菌については90株搬入され、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)は37株、メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)は53株であった(表6)。

 MRSAのコアグラーゼ型(コ型)はⅢ型が最も多く18株、次いでⅦ型13株等であった。毒素産生株はSEA単独産生株及びSEC+TSST-1産生株がそれぞれは6株ずつで最も多かった。SEA単独産生株すべてのコ型がⅦ型であり、SEC+TSST-1産生株6株中4株のコ型は、Ⅲ型であった。

 MSSAについては、53株のコ型はⅦ型が最も多く15株、次いでⅣ型が13株、Ⅲ型が9株、Ⅴ型が7株、Ⅵ型が5株等であった。毒素産生株ではSEA単独産生株が最も多く7株、次いでSEA+TSST-1産生株が6株、SEC+TSST-1産生株が5株であった。SEA単独及びSEA+TSST-1産生株のコ型は、Ⅳ型が最も多くそれぞれ5株と6株であった。一方、毒素非産生株では、MRSAが37株中17株(45.9%)であり、MSSAでは53株中26株(49%)であった。

 

7)髄膜炎菌

 髄膜炎菌は、1株搬入されPCR法による血清型別を実施した結果、B群であった。

 

8)その他

 百日咳菌2株に加え、薬剤耐性緑膿菌1株、カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)39株、その他同定検査依頼が28株搬入された。なお、CRE32株及び同定検査依頼6株については、次世代シーケンサーによる解析を行った。

 

2.麻しんウイルス検査(積極的疫学調査)陰性例の他のウイルス検査

 

 平成22年12月1日から積極的疫学調査として麻しんウイルス検査を実施している。平成23年11月1日からは、本事業として麻しん陰性例を対象に類症鑑別検査(風しんウイルス、ヒトパルボウイルス、2歳以下についてはヒトヘルペスウイルス検査を追加)を実施している。

 平成28年度は、143件の麻しん陰性例について検査を行った。その結果、風しんウイルスが2検体、ヒトヘルペスウイルスが10検体(6型:9検体、7型:2検体(重複感染を含む))、ヒトパルボウイルスB19が2検体から検出された。

 

食品微生物研究科 小西 典子、赤瀬 悟
病原細菌研究科   奥野 ルミ
ウイルス研究科  長谷川 道弥

 

 

表1.対象病原体(平成28年4月~29年3月)

 

                         1)  腸管出血性大腸菌を除く

                         2)  劇症型溶血性レンサ球菌を除く

                         3)  感染症由来株を除く

                         4)  髄膜炎由来株を除く

 

 

表2.散発患者由来 C. jejuni の血清型 (Penner法)

                      UT:型別不能

 

 

表3.検出された毒素原生大腸菌

 

 

表4.サルモネラの血清型

 

 

表5.薬剤耐性を示したサルモネラの血清型と薬剤耐性パターン

 

 

表6.黄色ブドウ球菌のコアグラーゼ型と毒素産生性

        1) SE : staphylococcal enterotoxin

        2) TSST : toxic shock syndrom toxin

        3) EXT : exfoliative toxin

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