東京都健康安全研究センター
東京都で分離されたサルモネラ(チフス菌・パラチフスA菌を含む)の血清型及び薬剤感受性について(2016年)

 2016年に東京都健康安全研究センター並びに都・区検査機関、都内の病院、登録衛生検査所等で分離されたサルモネラを対象に、菌種、血清型別及び薬剤感受性試験の成績についてまとめたので、その概略を紹介する。また、チフス菌及びパラチフスA菌については、国立感染症研究所(感染研)に依頼したファージ型別の成績も併せて紹介する。 

 

1.方法

 供試菌株は、都内の患者とその関係者及び保菌者検索事業により分離されたチフス菌18株(海外:15、国内:3)、パラチフスA菌8株(海外:6、国内:2)及びサルモネラ225株(海外:2、国内:223)である。
血清型別は、常法によりO群及びH抗原について行った。薬剤感受性試験は、米国臨床検査標準化協会(CLSI:Clinical and Laboratory Standards Institute)の抗菌薬ディスク感受性試験実施基準に基づき、市販の感受性試験用ディスク(センシディスク:BD)を用いて行った。供試薬剤は、クロラムフェニコール(CP)、テトラサイクリン(TC)、ストレプトマイシン(SM)、カナマイシン(KM)、アンピシリン(ABPC)、スルファメトキサゾール・トリメトプリム合剤(ST)、ナリジクス酸(NA)、ホスホマイシン(FOM)、ノルフロキサシン(NFLX)及びセフォタキシム(CTX)の10剤である。

 

 チフス菌及びパラチフスA菌のNA耐性株については、Etest(シスメックス・ビオメリュー)を用いてシプロフロキサシン(CPFX)、レボフロキサシン(LVFX)、オフロキサシン(OFLX)及びノルフロキサシン(NFLX)の4種類のフルオロキノロン系薬剤に対する最小発育阻止濃度(MIC:μg/ml)を測定した。また、ESBL産生と判定したサルモネラについては、リアルタイムPCR法により遺伝子型の決定を行った。

 

 

2.チフス菌及びパラチフスA菌

 薬剤耐性菌出現頻度及び薬剤耐性パターンを表1に示した。チフス菌では、海外由来15株のうち14株は供試した薬剤のうちいずれかに耐性を示し、特にバングラディシュからの帰国者から分離された1株はCP・TC・SM・ABPC・ST・NAの6剤に耐性を示した。その他、NA・NFLXの2剤耐性が1株(ネパール)、NA単剤耐性が12株(ミャンマー:4、インド:2、バングラディシュ:2、ネパール:1、ミャンマー・香港:1、マレーシア・インド:1、イギリス・タイ:1)であった。供試薬剤全てに感受性の株は1株(メキシコ)であった。国内由来3株では3株全てが耐性を示し、このうち、NA単剤耐性株が2株、NA・NFLXの2剤耐性が1株であった。チフス菌18株のうち、16株についてファージ型別を実施した。海外由来株13株の内訳は、E1型が10株、DVS型が2株、UVS4型が1株であった。国内由来3株は、E1型、DVS型及びUVS1型が各1株であった。

 

 パラチフスA菌8株中6株は海外由来株で、耐性株は6株であった。このうち2株(ミャンマー:1、インド:1)はNA・FOMの2剤耐性で、2株(ミャンマー:1、インド:1)はNA単剤に耐性を示した。供試薬剤全てに感受性の株は2株(インドネシア:1、タイ・インドネシア・シンガポール:1)であった。ファージ型別の結果をみると、1型が5株、UT(Untypable)が1株であった。国内由来2株の薬剤耐性パターンは、NA・FOMの2剤耐性で、ファージ型は1型であった。

 

 NA耐性を示したチフス菌及びパラチフスA菌23株について、フルオロキノロン系薬剤に対するMICを測定しCPFXを指標として判定した(表2-1)。チフス菌は2株が耐性、15株が中間を示した。パラチフスA菌は6株が中間を示した(表2-2)。

 

 

3.チフス菌・パラチフスA菌以外のサルモネラ

 供試した225株の血清型及び耐性菌の出現頻度を表3に示した。主なO群は、O4群 103株(45.8%)、O7群 47株(20.9%)、O8群 23株(10.2%)、O9群 16株(7.1%)及びO3,10群 16株(7.1%)で、これらで全体の91.1%を占めた。検出頻度の高い血清型は、O4群 Schwarzengrund (36株)、O7群 Infantis(18株)、O9群 Enteritidis(15株)、O4群 Chester(15株)、O7群 Thompson(14株)、O4群 Typhimurium(13株)であった。

 

 薬剤感受性試験の結果は、225株中95株(42.2%)が耐性株で、2014~2015年(36.3%)と比べて耐性頻度はやや増加した1)。各薬剤に対する耐性率は、TC(32.0%)、SM(28.9%)、KM(23.1%)、ABPC(13.3%)、ST (13.3%)、NA(9.3%)、CP (5.3%)、CTX(3.1%)、NFLX(0.9%)であった。なお、FOM耐性株は認められなかった。薬剤耐性パターンは29種で、「TC・SM・KM」(12株)、「TC・SM・KM・ST」(12株)が主要なものであった(表4)。O群別の耐性頻度では、O4群(59.2%)、O8群(39.1%)、O7群(34.0%)、O3,10群(31.3%)、及びO9群(18.8%)が高かった。最も多く検出された血清型、Schwarzengrundの耐性率は97.2%で、主な耐性パターンは、TC・SM・KM (10株)、TC・SM・KM・ST (9株)、KM単剤耐性 (5株)、TC・SM・KM・NA (5株)であった。

 

 CTXに耐性を示した7株の血清型は、O8群 Blockley(4株)、O7群 Thompson(2株) 及びO4:i:-(1株)であり、Blockleyの4株はCTX-M-1及びCTX-M-9遺伝子を、O4:i:-の1株はTEM、CTX-M-1及びCTX-M-9遺伝子を保有するESBL産生菌であることが確認された。Thompsonの2株についてはフルオロキノロン系薬剤であるNFLXに耐性を示し、薬剤耐性パターンはいずれもCP・TC・SM・ABPC・ST・NFLX・CTXの7薬剤耐性であった。

 

 2016年は、過去8年間に検出がなかった血清型が比較的多く検出された。具体的には、O4群 Kaapstad(2株)、O8群 Altona(1株)、O8群 Dusseldorf(1株)、O8群 Kottbus(1株)、O3,10群 Give(2株)、O13群 Idikan(1株)、O13群 血清型別不能(2株)、O16群 Yoruba(1株)、O17群 Matadi(2株)、O18群 Cerro(4株)、O28:y:-(1株)、O50群 Ⅲa(subsp. arizonae) (1株)及びOUT:d:1,7(1株)であった。

 

 抗菌薬の不適切な使用を背景とした薬剤耐性菌の増加と、新たな抗菌薬開発の減少傾向は依然として国際的な課題となっている。このような状況を踏まえて、我が国でも2016年に、「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン(2016 2020)」が策定された2)。今後もこれら国内外の動向に合わせて、東京都においても薬剤耐性菌の出現状況を注意深く監視する必要がある。

 

参考文献
1) 河村真保,東京都微生物検査情報,37, 32-34, 2016.
2) 薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン(2016 2020)
 http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000120769.pdf

 

 

(食品微生物研究科 山梨 敬子)

 

 

表1. チフス菌及びパラチフスA菌の薬剤耐性パターン(2016年:東京)

 

供試薬剤:CP, TC, SM, KM, ABPC, ST, NA, FOM, NFLX, CTX

 

 

表2-1. サルモネラ属菌のフルオロキノロン系薬剤に対する判定基準

*CLSI 2016年1月現在

 

 

表2-2. チフス菌及びパラチフスA菌のフルオロキノロン系薬剤に対するMIC分布(2016年:東京)

*フルオロキノロン系薬剤に対する耐性は、CPFXを基準として判定(表2-2参照)

 

 

表3. サルモネラ(チフス菌、パラチフスA菌を除く)の血清型と薬剤耐性出現頻度 (2016年:東京)

*供試薬剤(10種類)のうち、1薬剤以上に耐性を示した菌株

 

 

表4. サルモネラ(チフス菌、パラチフスA菌を除く)の薬剤耐性パターン (2016年:東京)

供試薬剤:CP, TC, SM, KM, ABPC, ST, NA, FOM, NFLX, CTX

 

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