東京都健康安全研究センター
都内ふれあい動物施設で飼育されているヤギ、ヒツジの腸管出血性大腸菌保有状況調査について

1.はじめに

 来園者がウサギ、モルモットなどの小動物を直接抱いたり、敷地内を自由に往来しているヤギ、ヒツジ等に触れることができる「ふれあい動物施設」は、動物に接する機会の少ない都会において、動物愛護の普及啓発や情操教育の場として位置付けられ、利用者などから親しまれている。

 一方、動物とのふれあう機会の利用者において、感染症の発生が国内外で報告されている。2006年に秋田県と青森県で開催されたふれあい動物イベントにおいて、主要病原因子である2種類の志賀毒素を産生し、志賀毒素産生性大腸菌(STEC)とも呼ばれる腸管出血性大腸菌(以下、EHEC)の集団感染が発生し、内1名が死亡した。また同年、横浜市において、搾乳体験の参加者がEHEC感染症を発症するという集団事例が報告されている1, 2)。しかし、ふれあい動物のEHEC保有状況についての調査はあまり行われていない。今回、東京都内のふれあい動物施設(1施設)で飼育されていたヤギ、及びヒツジ群について、EHEC保有状況調査を行い、分離株について病原関連遺伝子の有無を調べたので、その概要を報告する。

 

2.都内ふれあい動物施設で飼育されていたヤギ、ヒツジのEHEC保有状況

 東京都の動物由来感染症事業において、平成21年~27年の7年間で計14回(年2回)、ヤギおよびヒツジの直腸スワブを検査材料としてEHEC保有状況調査を実施した。検査頭数は1回17頭~28頭、のべ307頭であった。その結果、検査した14回中8回40頭(13%)から、EHECが分離された。分離されたEHECは40株で、病原大腸菌免疫血清(デンカ生研)用いた血清型別試験で、O血清型が決まったものは、O146:H21(10株)、O91:NM(1株)のみで、29株はOUTであった(表1)。

 

3.分離されたEHECの病原関連遺伝子保有状況

 分離株について、下記に示す9種類の病原関連遺伝子の有無を調べた3, 4)。すなわち、EHEC O157、O26等の定着因子として知られているLEE(Locus of enterocyte effacement)pathogenicity island上にコードされたインチミン(eae)遺伝子、ヘモリシン(hlyA)遺伝子、EHEC O157 のHeLa 細胞への接着因子であるVibrio Cholerae IgA homologue adhesin(ihaA)遺伝子、EHEC O157、O26等一部の血清型が保有するCHO 細胞への接着因子であるEHEC factor for adherence(efa)遺伝子、EHECの細胞接着因子の1つとして知られるlong polar fimbriae homologue of Salmonella Typhimurium(lpfA)遺伝子、細胞への接着及びバイオフィルムの形成に関与するenterohemorrhagic E. coli autotransporters (ehaA)遺伝子、eae 遺伝子を保有しないEHECで発見された接着因子のSTEC  autoaggulutinating adhesion(saa)遺伝子、サブチラーゼサイトトキシン (subtilase cytotoxin:SubAB )遺伝子、細胞膨化致死毒素(cytolethal distending toxin : CDT )をコードするCdtB遺伝子である。ヤギおよびヒツジから分離されたEHECからは、eaeehaAおよびCdtB遺伝子は検出されなかったが、それ以外の病原関連遺伝子を複数保有していた(表3)。

 

4.ふれあい動物施設における対応

 検査結果を受けて、施設ではEHECが分離されたヤギ、ヒツジについて、他の動物から隔離するとともに、抗菌剤ならびに生菌整腸剤を一定期間投与した。その後、再検査を行い2回陰性確認できたものを除菌終了と判断し、群れに戻した。今回、健康被害の報告はないが、ヤギ、ヒツジから分離されたEHECも病原遺伝子を複数保有していることから、人への病原性は否定できない。このため、今後もヒトと接する可能性のある動物については、定期的な健康状態の確認や病原体検査を行い、モニタリングを継続させていくことが必要である。また、感染リスクを低減させるためには、動物飼育施設の衛生管理や動物とのふれあい後の手洗いの励行が重要である。

 

参考文献
1) 八柳 潤 他:IASR, 28, 198-200, 2007.
2) 武藤 哲典 他:IASR, 28, 13-14, 2007.
3) 山崎伸二:日獣会誌,67, 33-41, 2014.
4) Yuluo, W. U. et al. : J. Vet. Med. Sci. 72, 589-597, 2010

(病原細菌研究科 畠山 薫)

 

表1. ふれあい動物施設のヤギ、ヒツジにおけるEHEC分離状況(平成21年~27年)

 

 

表2. ヤギ・ヒツジ分離株の血清型ならびに毒素型

 

 

表3. 分離株の病原関連遺伝子保有状況

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