東京都健康安全研究センター
2018/2019シーズンの東京都におけるインフルエンザウイルス検出状況(2019年3月末現在)

 1. はじめに

  インフルエンザウイルスは、オルトミクソウイルス科に属するエンベロープを持つ一本鎖RNA(-)のウイルスであり、冬季を中心に流行する急性呼吸器疾患の原因となる。インフルエンザウイルスは、発見された順序と核タンパク質およびマトリックスタンパク質の抗原性の違いからA、B、Cの3つの型に分けられており、ヒトで主に流行を起こすのはA型、B型のウイルスである。

  A型ウイルスは元来、トリに広く分布するウイルスとされ、抗原性の違いからHA(ヘマグルチニン)が16亜型、NA(ノイラミニダーゼ)が9亜型に分けられている。カモ等の水禽類では、HAとNAの組み合わせから理論上、144種類の亜型が存在するとされている1)

 近年、季節性インフルエンザとしてヒトで流行しているのは主として3種類で、A/H3N2、A/H1N1pdm09とB型(Yamagata系統とVictoria系統)である。

 インフルエンザウイルスの流行シーズンは、第36週(8月末~9月初旬)から翌年の第35週を1シーズンとしている。今回、2018年9月3日の第36週から2019年3月31日の第13週までに搬入された検体のインフルエンザウイルス亜型の検出状況について報告する。

 

2.検査対象・方法

 58カ所の東京都内定点医療機関から、感染症発生動向調査事業で搬入された材料(インフルエンザ患者およびインフルエンザ様疾患患者から採取した咽頭ぬぐい液または鼻腔ぬぐい液)を対象に、遺伝子検査とウイルス分離検査を行った。

 遺伝子検査は、型別可能なリアルタイムPCR法を用いて検出を行い、さらに、一部の検体についてはRT-nested PCR法で得られたインフルエンザHA遺伝子の一部断片を用いたダイレクトシーケンスにより塩基配列を決定した。得られた配列は、ワクチン株ウイルスならびに過去に流行したウイルス株の配列と比較し、分子系統樹解析を行った。

 ウイルス分離検査では、単層培養したMDCK細胞を使用し5%CO2 下で培養を行った。分離株の性状解析は、インフルエンザ抗原および抗血清を用いたHI試験(1.0%モルモット赤血球浮遊液を使用)により行った。

 

3.インフルエンザウイルス亜型の検出状況

  2019年第13週(3月25日~3月31日)現在、感染症発生動向調査事業において483検体が定点医療機関から搬入された。遺伝子検査では、403件(83.4%)のインフルエンザウイルスの遺伝子が検出された。その内訳は、検出数の多い順にAH3亜型 254件(52.6%)、AH1pdm09 142件(29.4%)、B型7件(Victoria系統5件、Yamagata系統2件)(1.4%)であり、AH1pdm09とAH3亜型が同時に検出された検体が1件あった。ウイルス分離検査では、483検体のうち、AH3亜型212株(分離率43.9%)、AH1pdm09 122株(分離率25.3%)、B型5株(Victoria系統4株、Yamagata系統1株,分離率1.0%)が分離された。

 週ごとの遺伝子検出状況を比較すると、2018年の第36週から第52週には71件が検出され、AH1pdm09が49件(69.0%)を占めていたが、2019年の第1週から第13週に検出された332件では232件(69.9%)がAH3亜型であり、検出時期により主流となる型が異なっていた(図1)。

 

4.インフルエンザウイルス各亜型の抗原解析

  各亜型の流行株について、分子系統樹解析とHI試験を行いワクチン株との比較を行った。その結果、AH1pdm09の流行株は系統樹上でワクチン株(A/Singapore/GP1908/2015)と同じクレードに属し(図2)、HI試験による分離株の抗原性状の比較においてもワクチン株と同等の反応性がみられた。

 一方、AH3亜型では系統樹上で流行株の多くはワクチン株(A/Singapore/INFIMH-16-0019/2016)と同じクレードに属していたが(図3)、ワクチン株と異なるクレードに属する株も散見された。分離株はHA価が8倍未満でHI試験が実施できないものがほとんどであり、HA価が8倍以上でHI試験が実施できた1株はワクチン株と同等の反応性が見られた。

 B型については、Yamagata系統では系統樹上で検出株はワクチン株(B/Phuket/3073/2013)と同じクレードに属し(図4)、HI試験ではワクチン株と同等の反応性が見られた。また、Victoria系統では、系統樹上でワクチン株(B/Maryland/15/2016)を含むクレード(2アミノ酸欠損)とは異なる3アミノ酸欠損のクレードに属していた(図4)。HI試験では、4株中3株はワクチン株と同等の反応性が見られたが、1株(B/Tokyo/F18-644/2019)は、ワクチン株抗体との反応性の低下が見られた。この4株は、解析範囲(288bp)の塩基配列は100%一致したが、HI試験の結果は一致しなかったことから、今回の解析範囲外の領域についても今後解析を行う必要があると考えられる。

 

5.おわりに

  2018/2019シーズンは全国的にインフルエンザが大流行し、第4週(1月21~27日)に全国の医療機関を受診した1定点当たりの患者報告数は57.09と推計された2)。東京都では、2018年12月13日にインフルエンザの流行開始が発表され、2019年1月27日に流行警報が発令された。第4週には定点当たりの患者報告数が64.18人とピークを迎え3)、その後急激に患者報告数が減少した。第12週(3月18日~24日)以降、定点あたりの患者報告数は流行期の基準となる1を下回ったが、第14週(4月1日~4月7日)から患者報告数は再び1を超え、第15週ではさらに増加し1.35となっている4,5)。第14週の患者報告の型別の割合は、A型:B型=4:3となっており4) 、AH3亜型の残存に加えB型患者報告数の増加が推測される。さらに、B型Victoria系統の抗原解析の結果からワクチン株とは異なる3アミノ酸欠損のクレードに属する株の検出が第11週頃から増加していたことから、今後の検出状況に注視していく必要がある。

 

<参考文献>

1) 北海道大学大学院獣医学研究科微生物学教室 ホームページ

    https://www.vetmed.hokudai.ac.jp/organization

2) 厚生労働省:インフルエンザの発生状況について 平成31年2月1日

    https://www.mhlw.go.jp/content/000475864.pdf

3) 東京都健康安全研究センター:東京都インフルエンザ情報 第11号

    http://idsc.tokyo-eiken.go.jp/assets/flu/2018/Vol21No11.pdf

4) 東京都健康安全研究センター:東京都感染症週報2019年第14週

5) 東京都健康安全研究センター:東京都感染症週報2019年第15週

 

(ウイルス研究科 根岸あかね)

 

 

 図1.都内定点医療機関から搬入されたインフルエンザウイルス検出状況

(2018年第36週から2019年第13週)

 

 

 

図2.AH1pdm09インフルエンザウイルスのHA遺伝子系統樹(MCLモデルを用いたNJ法)

 

 

 

 

図3.AH3亜型インフルエンザウイルスのHA遺伝子系統樹(MCLモデルを用いたNJ法)

 

 

 

図4.B型インフルエンザウイルスのHA遺伝子系統樹(MCLモデルを用いたNJ法)

本ホームページに関わる著作権は東京都健康安全研究センターに帰属します ご利用にあたって
© 2019 Tokyo Metropolitan Institute of Public Health. All rights reserved.